12
その活躍はA代表にふさわしい物だ。だから今回こそ彼ははなちゃんとともにその青いユニフォームを着る。誰もがそう漠然と思っていた。東京ダービーも彼の活躍の前哨戦でしかないと。
動くなくなった蓮を見つめる。足を悪くしてしまったのだろうか。やっぱりスパイクを脱ぐのかな。周りの声など聞こえない。私はただ彼の動向を見つめる。こちらを見上げたような彼の表情は遠くて見えやしない。きっと私のそばにいるブラン監督をみたんだろう。そうして彼は平泉さんへ罰印を作ってみせた。慌てて駆けつけるメディカルスタッフ達を押し除けて、彼は真っ直ぐ歩いてピッチをあとにする。その姿に私は確信する。彼はまだスパイクを脱ぐつもりはない。
「よし」
私が小さくつぶやけば、視線がこちらに向いた。私は慌てて苦笑いする。ブラン監督が私を見上げて首を傾げた。
「お嬢さんは持田の退場が嬉しいのかい?」
「いえ、あれは持田選手がスパイク脱ぐつもりじゃないなって思っただけです。だから、次のワールドカップには彼は間に合うなって」
英語でそう返せば、彼は目をパチパチと瞬いた。通訳さんが若干引きながら私をみた。まぁ有里さん達の視線がいたい。
「ETUで働いてるのに東京ヴィクトリーの選手を応援するんですか?」
「彼と花森に関してはチームとか関係なく応援してるんです。だって、幼なじみですから」
私が笑いながらそういえば、有里さんと通訳さん達が「えっ」と声を上げた。ブラン監督だけが「いいなー」と声を上げた。
「なんだい、ハナモリとモチダには君みたいな幼馴染みがいたんだね、羨ましいよ」
「ははは……次のワールドカップは二人と椿くんと窪田くんが揃うので楽しみですね」
「それは保証はできないかな。そうであればいいとは思うけどね」
そう告げた監督に私は口端をあげて口を開くのだ。
「ほら、やっぱり辞めない」
蓮に呼びだされたからあの病院に行って、開口一番にそう告げる。はぁ? という顔をした彼に、だってサッカー辞める顔じゃないじゃん、と指摘して買ってきた缶コーヒーを彼に渡した。私はケラケラと笑って病院の待合室、彼のその隣に座る。
「辞めないんでしょ?」
「……辞めない。俺は殺されでもしない限り無理だわ」
蓮はそういって缶コーヒーを開ける。私はやっぱりといってジュースの缶を開ける。
「貴賓室でブラン監督とサッカー見てたんだけど」
「知ってる。見えたし」
「見えるもんなの?」
私が首を傾げれば、意外にな、と彼は告げた。距離が結構あるのに? と返せば、隅田川は近いと返された。
「で?」
「蓮とハナちゃんはチーム関係なく応援してます、二人と椿くんと窪田くんが揃う次のワールドカップ楽しみですねって言ったらそうであればいいけど保証はしないって言われた」
「……お前なんて返したの?」
「絶対にそうなることを私が保証しますって」
そう言って笑う。だって絶対にそうなるよ、と私は彼を見上げた。私が保証して何になるの、と蓮はきっと続ける。しかしながら、私の推測とは違った。蓮に抱き寄せられたからだ。驚いたけれど、まぁ、何だ、やることは理解している。そっと手を伸ばして彼の髪を撫でる。
「私が聞いた話だけど、神様はさ、越えられる試練しか与えないんだって。だから今回のも神様が蓮なら当然越えられるでしょって吹っかけたんじゃない?」
「……」
「今のうちに神様に貸し作っときなよ。ワールドカップから先のために」
頑張ってとは言わない。だって蓮は頑張っているのだから。やめろとも言わない。だって蓮がやると決めたのだから。それは全部私が口に出すことではない。私はそうであると信じるだけなのだ。
「……お前さ、ホントなんなの」
「帰ってきたキミの幼馴染みです」