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「椿くんまた頼んで悪いけど、花森選手に渡してほしい」
 そう言って頭を下げる。ちらりと彼を伺えば、彼は目を瞬いて、はい、と笑った。椿くん優しすぎないか?? そう思いながらも私は彼に手紙を託すのであるが。
「元気ねぇな花森圭悟ってなった時に渡してほしい。多分途中どっかでそうなる気がするから。元気なら渡さなくていいよ」
「えっ?」
「世界の舞台、絶対に楽しいから楽しんでね!」
 背中をバンバン叩いて手を振る。頑張れって言わないのか? と尋ねた後藤gmに「あー」と私は口を開く。
「サッカーは一人でするものじゃないから、しんどくなったら周りを見てみたらいいよ。みんないるからさ。そこに私達は見えないけども、確かに私達はキミと一緒にいるんだから」
「ウス」
「……でもプレッシャーになるなら私の発言は忘れたまえ。花森圭悟と並ぶそこは私がいけなかった場所だ。がむしゃらに楽しめ、若者」
 背中をもう一度叩く。苗字さんも若いよね? と言った部長に、私はまたケタケタと笑ったのだが。


「苗字さん宛に手紙届いてるよ」
「何故にクラブハウスに私宛の手紙が届くんですかね?」
「私達が聞きたいわよ」
 はい、と受け取ってみれば英語表記で宛名が書かれているのがみえる。なるほど、エアメールだ。覗き込んだ有里さん達と手紙をひっくり返す。差出人のところを見れば流暢な筆記体で『Keigo Hanamori』と書かれていた。
「……椿くんがクラブハウスで働いてるって話をしたんだな」
 あの時は連絡先をわざと書かなかったのであるが。恐らくは今回渡した手紙と入れ違いになるだろう。周りに見守られながら手紙を開く。その中身に私はふはっと笑ってしまった。肩が揺れる。どうしたの? と有里さんが私をみた。
「チケットとメモだけ」
「チケット?」
「UAEに来いってことですかね」
 日本代表戦のチケットである。恐らく予選の試合を選んでいるのは試合が確かだからだろう。あとのメモは航空券のチケットのものだろうか。ホテルも手配されているようだ。試合のチケットを裏返せば、会えるのであれば会って話がしたいと走り書きされていた。
「……やることがいちいち可愛い。でも仕事は休めないのでパス」
「いやいやいや、行きなさいよ」
 有里さんのセリフに「いやでもクラブが大事な時期なのに有休取っていけないでしょ」と言えば「中断期間だから試合もないし大丈夫よ」と言われてしまった。会長が私を見下ろした。
「後藤がどっちにしろ椿の試合を見に行く予定を立ててるんだ。通訳としてついてやってくれないか。クラブから宿泊費は出そう」
「通訳はいいんですけど、やっぱり個人的なことも秘めてるのでお金は私が出します。普通に代表戦観戦したいですし。休みをくだされば十分です」
「む、いいのか? 結構高くなると思うが」
「使うことあんまりないんで貯まるんですよ」


「ハナちゃんに呼ばれたからちょっとUAE行ってくる」
 そう言えばソファに座った持田蓮は私を見上げた。呼ばれた? と不思議そうな表情で私をみた彼に私は頷いた。私は彼にお見舞いの品としてサッカー雑誌を渡す。決してパシられたわけじゃないぞ。
「椿くん経由で手紙渡したこと話したっけ?」
「そういや言ってたなそんなこと」
「その手紙の差出人住所わざと書かなかったんだけど、クラブハウス経由で私宛にエアメールがきた」
「ふはっ、回りくどいことしてんな」
「さらに回りくどいことに中に文面がなくて試合のチケットと航空券などが入っておりまして」
 私の発言に蓮が爆笑した。笑うと思った。なんだそれ、とケラケラと笑う。
「チケットの裏側に会いたいと書かれてるやつじゃん!!」
「書いてた」
「書いてた!? アイツドラマの見過ぎじゃねぇの!! 超ウケんじゃん!!」
 ひーっ、と蓮はついにはお腹を抱えた。私は容赦なく近くに座る。座るなとは言われてないからいいだろう。
「……で、お前はノコノコハナに会いに行くって?」
「仕事もあるし断ろうと思ったんだけどね。クラブハウス経由できたものだから周りに見られてて、クラブから椿くん出るし英語喋れないgm行くしだからついでに行ってって言われた。ETUからA代表は達海さん以来なんだって」
「ふぅん、一試合?」
「わかんない。予選だけかも。でもハナちゃんに会えるのはちょっとだけじゃない? 国際試合だし罰金云々あるでしょ」
「……会いたいの?」
「うーん……蓮に面と向かって話したんだから、ハナちゃんにも面と向かって話すべきじゃない?」
 そう首を傾げる。彼は私をじっと見下ろした。そしてため息をついてソファの背もたれに手を回す。
「まー、アイツ拗らせてるからな、気を付けろよ」
「何を?」
 何を拗らせて、何に気をつけろというのか。約束を違えたことを怒っているならそれを私は享受するべきだ。蓮は私をまた見下ろして、私の髪に触れた。
「……お前さ、いい歳なわけじゃん」
「まー、おばさん一歩手前だね」
「誰それとどうこうしたいっていうのないわけ?」
「んー……」
 蓮の言葉に私はお決まりの台詞を告げる。
「私早死に確定だからさー、あんまりないよ。おいていく私より、おいていかれる方が辛いの確定じゃん。おいていかれる方の人生にそんな傷残したくない。私はきっと誰かを幸せにできないよ」
 アメリカで何度も繰り返した言葉だ。多分、向こうも同じようなことを繰り返す。
「……幸せにしてもらおうとかないわけ?」
「私は今が幸せだよ、蓮とまたこうやって話してるし、ハナちゃんとも会えるし、なんやかんやサッカーに関わる仕事してるし。これで二人とサッカーできてたら最高の人生だったね」
 私はそう言って肩を竦める。
「私が思うにさ、私みたいに限られた時間しかない人は多くは望んじゃいけないんだよ」
「限られた時間しかないのは全員一緒じゃん」
 少し悲しげな声を出した蓮を見ずに私はただテレビを見つめる。
「お前さ、ババアになるまで生きてやろうっていう気はないの?」
「わかんないや」
「生きたくないわけ?」
「生きたいよ。でも多分無理なんだと思う」
「だから、なんでそんな消極的なんだよ」
 怒った。そう彼を見上げる。やっぱり怒っている。私は苦笑いして、「お医者さんや両親を見てたらなんとなくわかる」と返した。
「よくさ、人並みの幸せっていうじゃん。結婚して、子供ができて、添い遂げる。でも私はさ、サッカーできたらもう人並みの幸せは越えるんだよ」
「俺がいうのもなんだけど、お前サッカー馬鹿だよな」
「サッカー馬鹿でいいよ。こちとらサッカーできないからサッカーについて拗らせてんの」
「あっそ……お前がもっと幸せになる方法、教えてやろうか?」
「なにそれ、怪我治ったら二人一緒にサッカーしてくれんの?」
 そっと、蓮の手が頬に伸びる、かと思えば鼻をつままれた。変な声が出たけれど気にしない。
「……それが終わったら教えてやるよ」
「なにそれ」
「ぶはっ、超ブス面じゃん!」
 ケラケラと笑った蓮を軽くパシパシ叩く。まぁそのまま頭にチョップ落とされたけどな。痛い。



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