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 椿くんの頭をわしゃわしゃと撫でる。あの、と小さく声を出した彼にやめることなくわしゃわしゃと撫でる。悲痛そうな顔ではなく、困惑した表情で私を見下ろした彼の頬を両手で軽く包むように叩く。今度こそきょとんとした彼に、よし! と声を上げた。
「おつかれさま、椿くん! ETUにおかえり!」
 パシパシと彼の背中を叩きながらそう言えば彼は私を見下ろした。ハナちゃんそっくりなその表情に私は彼の頭をわしゃわしゃともう一度撫でた。
「大丈夫、大丈夫。私が保証する。君は大丈夫」
 そう言って彼の頭から手を離す。
「また一緒にサッカーしようね」
 ケラケラとそう笑いかけて私は練習に向かう彼に手を振った。何か吹っ切れるわけでは決してない。でも、彼を叩く人もいれば彼を応援する人もいるのである。彼と一緒にサッカーがしたい人もいるだろうし、彼が青を纏った姿を見たい人も必ずいる。それに彼が気付くように。私のように視界を狭めないように。そう小さく願って私は事務所に向かった。


 言い出すタイミングは難しい。優勝して喜ぶ中いうのもなんだしな、と思っていれば後藤さんが私をみた。
「苗字さん、あのことだけど会長に言わなくていいのか?」
 なにやら鹿島の猪瀬さんとの差をなげいているというか、そんなタイミングである。後藤さんをまぁ後藤さんもハングリーに行こうぜと背中を叩いていた私は目をパチパチと瞬いた。
「なんだ? 何かあるのか? 苗字」
「あー、会長、ETUがタイトル取った次のシーズンなんですけどね」
「辞めるとか言わないだろうな」
「いや……席を置いておいてくれるなら嬉しいんですけどね。面接の時に私の持病のことお話ししたと思うんですけど」
「あぁ、言ってたなそんなこと」
「もう一回手術することになったので、お休みを頂くか一度辞めさせていただきたいんです」
 そう言えば一部は初耳だったのか私をみて目を瞬いた。
「……そんなに悪化してたのか?」
「いえ、元々ですね、余生をサッカーに関わることの仕事しつつ過ごそうと思ってたんですけど」
「余生」
「なんかここのスタッフとか選手とか監督とか、幼馴染みとか、そういう人と会って話してたら、もっと生きてみようかと思いまして。まぁ私の寿命伸ばすための手術です。あわよくばフルタイムでサッカーできるようになりたいし」
「いーね、プロ目指すの?」
 達海監督はそう言って私の肩に手を置いた。私はケラケラ笑いながら彼を見上げる。
「鹿島のプロテスト受けないかって言われましたよ。事務員としてもおいでよって言われましたけど」
「だめー! ダメ! プロテストは納得まだできるけど、事務員はだめー!」
 有里さんがそう声をあげて私をゆする。後藤さん止めてくれないんですよ、と私が言えば有里さんが後藤さんに敵意を向けた。後藤さんが苦笑いをする。
「だからお断りしました。ETUのスクールのコーチ枠狙おっかなって思ってたんですけど、今思えば私村越さんより年下じゃん。現役全然行けるな……?」
「おーいけるいける」
 そう達海監督とケラケラ笑う。私が笑っているのを見て、そこまで深刻じゃないと理解したのか、彼らもまた笑ってみせた。




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