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 夢をみる。久しぶりに昔の夢だろうか。ロッカールームかいから始まる夢であるが、場所が違った。観客がいるスタジアムである。立ち尽くした私に、誰かが背中を叩く。振り返ればいた蓮は青を見に纏っている。私が一人感激していれば、彼は「さっさと行ってくんない?」と私に告げた。ピッチをみればあの青を見に纏ったハナちゃんが私を手招いた。私のユニフォームもあの青だ。その光景に、私は一歩喝采が聞こえるそこに足を踏み出すのだ。



 トライアウトと呼ばれるプロ試験には一応年齢制限なんかない。鹿島の稲瀬さんにやっぱり受けてみないかと言われたのは開催される一ヶ月前だっただろうか。手術後に事務員アルバイトとスクールコーチの掛け持ちをしていた私は記念に受けてみることにしたのである。下部リーグが広がる男子側とは違い、女子側には下部リーグは少なくやはり大学生やら高校生が目立つ。キャアキャアと話す周りに若いなぁ、とぼやけばオロオロしていた大人しそうな子が私を見上げた。
「えっと苗字さんは、大学生くらいじゃ」
「嬉しいなその勘違い。私は君たちからすればババアだよ。勧められたから受けにきたんだけどさー」
 そう言いながら彼女とピッチにむかう。記念に受けにきたんだよね、と言えば彼女と同じチームである周りにいた数人が私をみた。あまりいい印象を持たないだろう。何故なら彼女達は人生を賭けてここにいるのだから。なので私は肩を竦める。
「まぁ、私は君たちの引き立て役ってやつかな? ゲームで私がボール持ったら飛び出すぐらいのつもりで行けばいいよ、あんまり緊張してもいい結果のこせないからね」
 彼女達の背中をバンバン叩く。彼女達の顔から若干緊張が和らいだのをみて、私は真顔になる。
「さぁ、チャンスは私がつくってあげるから頑張ってアピールしなよ。君たちの夢の一歩は今日から始まるんだから」

 久しぶりのサッカーが楽しくって楽しくって仕方がないのだ。リハビリでエアバイクを乗り回し(?)、蓮の(個人的な)調整に付き合ったり、療法士の人と相談しながら無理のない範囲で体力をつけたりしていたのだが、まぁ半年ほど過ぎたところでサッカーできるお許しが出た。周りのレベルとか関係ないや。サッカーできることが楽しすぎる。その心理の駆け引きだとか、テクニックだとか。どんどこシュート決めてくれる周りに私も楽しくサッカーをする。相手チームには悪いけれども、まぁ彼女達はある意味運がなかったのだ。でも私がパス回し要員だと思われるのも癪なのでそのままシュートを決める。これは間違いなくスーパープレイである。敵味方から向いた視線に、静まった周りにめんごめんごと手を掲げた。
「楽しくなっちゃって、つい」
 そういえば、同じチームの彼女らは「なにあれー!」と叫ぶのだが。年下ってやっぱり無邪気で可愛いな。わちゃわちゃとくる彼女らの頭を撫でる。
「苗字、交代してください」
「はいはいー、あとは自分達で頑張りなよ」
 コーチなのかなんなのか。そんな人の言葉に、ピッチに残る彼女らにひらひらと手を振って後にした。そのままベンチから彼女達を眺める。若いねぇ元気だねぇ、とこぼせばスタッフが呆れたように私を見たのだが。ここにいるスタッフやスカウトの何人が私を知っているのかは知らない。恐らく殆どは知らないのだろう。私に向いていた視線はもうとっくに他者に向いていた。並べられた選手一覧、その中にある経歴などをみて落胆するのだろうか。私が違う爆弾を抱えているとわかりながら招く人はきっといない。私がいたことで成り立っていたゲームだ。そこから崩れてくるゲームをみて、軽く走るかー、と立ち上がる。流してきまーすと言えばスタッフは息を吐いた。

「苗字ー」
 流していれば時にそう声をかけられる。そこにいた鹿島のgmである猪瀬さんに私はひらりと手を振った。
「誘ってもらえてありがとうございます。久しぶりにサッカーできて楽しかったです」
「いや、いい。こちらも見たかったしな。それにしても随分と動けるようになったな。最手術したのは確か去年の暮れだったろ」
「まー、リハビリ頑張ったり幼馴染みの調整につきあったり年下の選手の面倒を見たりちびっ子とサッカーしたりで色々でここまでになりました」
 ケラケラと笑いながらそう告げる。前のが失敗寄りの成功、今度が完璧な成功とは当時研修医で見学だったのに今回は執刀していたアメリカのドクターのセリフである。訴えたら勝てるよ! と言われたがまぁ命が一度は助かっているのでお断りしておいた。それにあの十年のお金をもらっても時間は返ってこない。
 恐らくあの十年は私に必要なものだったのだ……と、綺麗に割り切れたわけではないのだが、まぁ似たような感覚はある。
「そういや、女子リーグで私夜逃げ説できちゃった説あるみたいですけど大丈夫なんです?」
「まぁあそこまで見せつけられたら黙ると思うぞ。どうであれ、東京ヴィクトリーも稲瀬もお前のチームメイトも同年代も沈黙したままだったからな。お前が動き出したらなんらかの公表はあるだろう」
「公表もなにも爆弾抱えてる選手を抱えはしないでしょ」
「お前の古巣と俺たちは動くぞ」
「鹿島はともかく東京ヴィクトリーの上層部大丈夫? 男女ともに爆弾抱えてる28歳揃わせて」
 差し出されたスポドリを手にとる。
「なんだ、プロになる気はあるのか?」
「うーん、わかんないや。ETUは居心地がいいし」
 そう言って私は柵にもたれかかるとピッチを見る。
「でも、思いっきりサッカーはしたいなぁ」
 私の言葉に彼はゲラゲラと笑った。もう出来るだろうと。私はそれを聞いてケラケラと笑う。それもそうだ、と。




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