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例えば夢が叶うかどうかなんて。それは神様による采配が大きい。時には努力で同仕様もないことが起こってしまうからだ。そこで諦めなかった人が叶えられる、と言う話でも決してない。諦めた人がその後に別の形で夢を叶えると言うこともあるからである。
私が思うに夢を叶えた人は運が良いのだ。神様が最初から与えられた物であれ、神様の与えた試練を乗り越えたからついたものであれ。そう考えると、私も蓮も結局は運が良いのだろうか。
私について考えると体はまず最悪であるが周りの人の運が良かったに違いない。私がここにいるのも周りがいたからだし、なによりもとんでもない約束をしてしまった二人がそこにいたからだ。
案の定というか、猪瀬さんの言うとおりに私には二つの手が差し伸べられたわけである。古巣のヴィクトリーか昔なじみの監督がいる鹿島か。その手を取るかどうか迷った私の背を押したのは紛れもなく椿くん達ETUの選手と達海監督とフロントだった。行ってこい、と押された手に私はその手を取ったのである。ただ通院の関係もあるために東京のほうの手を取ったのだが。そうして戻ったそのチームで私と同時期に入った11番を背負い続けたチームメイトは私を見て泣いた。待っていたといった彼女に、はじめましてやこれからよろしくと考えていたありきたりな言葉を飲み込む。ただいま。お待たせ。彼女にはこの言葉で十分だ。よくよく考えたらそれはきっとあの二人が待っていた言葉でもあるのだろうか。
「自分で言っといてなんだけど、マスコミ映えするからねー」
男子の方の不死鳥が蓮だとして、男子のシンデレラが椿クンだとして。私はある意味双方の要素をもつのだ。だからマスコミも一部のファンも私に興味津々だった。夜逃げのごとくいなくなった当時18歳の選手が10年以上の時を重ねてプロの世界に戻るなんて世界にはそうそうないシンデレラストーリーだろう。東京ヴィクトリーは私をまた抱えるにあたりコメントを出した。私が緊急手術を受けて戦線離脱したことと、リハビリに年月を費やしたこと、そして再手術した結果サッカーが出来る状態まで戻ったこと。私の十年を綺麗に要約して。あたりまでだがそこには私の悔しさも苦しさも含まれないし、私がいちいち言う言葉でもない。
――でも、あるテレビ会社だけがその一部を知っていることを思い出したのは私がトントン拍子で青を纏うことが決まり、二人がワールドカップで活躍した年の冬のことだ。
覚えていますか、とやってきた彼らに私はそういやそんなことがあったな、と思い出す。今思い出せば私は彼らにたいし大人としてどうなんだという対応をしたのを思い出す。
「今年はヴィクトリーなんですか」
そう尋ねればインタビュアーは苦笑いして見せた。近くにいたスタッフが首をかしげる。
「私、ほら、一昨年ETUのフロントではたらいてたじゃないですか。その時に来て……すいません、あのときが一番色々あったんです」
頭を下げた私に彼らは目を瞬いた。「お前何してんの?」と言って近くを通った蓮に私は顔を上げる。
「謝罪会見? お前年なんだから発言に気をつけろよ。すぐファン減るぜ」
「そのままバットで打ち返してやんよ」
「相変わらず俺のことみんな好きだかんね。……何のテレビ?」
「夢を叶えてくれるかもしれないテレビ」
そういえば蓮は「ふうん」とテレビカメラとインタビュアーを見た。私はマイクを借りて蓮に向ける。
「花森選手から10番奪還した持田選手の次の夢はなんですか」
「海外移籍」
そう言いながら歩いていく蓮に私は言葉を投げる。わりかと本気だった。固まった広報さんの代わりに私は口を開く。
「おい、かりにもフロントの前で言っちゃ行けない言葉でしょうか」
まぁ、その言葉に対する返答は「うるせー」だったが。インタビュアーにマイクを返せば彼は私をみて口を開く。
「苗字選手、夢は叶いましたか?」
その言葉に目を瞬く。そうして、私は「まだです」と返す。
「幼馴染みとまだサッカーできてないのでまだです」
私の発言に誰が幼馴染みかわかっている広報さんは私を見る。
「じゃあ、今度こそ叶えてみませんか」
「いいんですか」
「はい」
「じゃあ、ちょっと幼馴染みに声をかけてみます」
そう言ってから私は蓮の方を見る。城西さんと一緒に別の広報さんに捕まった彼に私は声をかける。
「蓮ー、昔の約束通り私も青色着たわけだしさ、一緒にサッカーしよう!」
私の言葉にテレビ局のスタッフは固まった。蓮は振り向くと「いいよ」と答える。断られるかなと思っていた私は彼を見て目を瞬く。
「ハナも今年は帰ってくるし出来るでしょ」
「え? え? 待ってください」
混乱するスタッフに私はニコリと笑う。一緒にサッカーしたい幼馴染みってとぼやいた彼に私はうなずいた。
「あのとき私の幼馴染みの名前を言ってませんでしたよね。私の幼馴染み、持田蓮と花森圭悟っていうんですよ」