RE:カルペディエム 04『喧嘩』
腹が立ったのだ。とても。自分が悲劇のヒーローであるかのように諦めたアイツは俺の知るアイツではない。1番2番なんて関係がなく、同じくらい。俺たちは高校生の中でも上手い方だと自負して、当然同じ道に行くものなのだと思っていたからだ。だって、高校さえ分かれてしまったがそれまではずっと同じ場所にいたからだ。次にもし同じチームにでプレーするときはあの空のような青を着る時だな、と漠然と俺は思っていたのである。そうだと言うのに、向こうは。
でも、その反面、それは仕方ないのだとも思う。
いきなりのことだった。俺が所属する高校との練習試合の日である。いくら待っても来ないアイツに、向こうの監督がしびれを切らしかけた時だ。アイツの親から連絡が入ったのは。
そこからはまるで漫画のワンシーンのようだった。フットボールをもうプレーすることができないかもしれないという話を聞いたのだって、病室でベッドにいる人物をみたのだって。茶化してやろうだなんて言葉も吹っ飛んで、お前が無事でよかった、だなんてありきたりな声をかけてしまった。それが、コイツにとってどれだけ鋭利な言葉であったかなんてわからずに。
俺は諦めて欲しくなかった。だって一緒にまたピッチに立てるのだと俺は信じているからだ。だから次に会うときは、不死鳥と呼ばれる持田蓮の雑誌を持っていった。アイツにもそうであってほしいと願ったからだ。テレビやスタジアムで見る彼はまさに不死鳥だった。言動はどうであれ、怪我をしても戻ってきて華々しい活躍をする。あいつにもそれができると俺は当たり前のように信じていたのだ。まぁ、そんなものは相手にとっては鬱陶しかったようだが。次第に俺もアイツの言動に腹が立って、アイツの病室に向かうのはやめた。
「そういや、この前の事故、お前のダチじゃなかったのか」
そう言ったのは昔は日本代表にいた選手である。3部リーグに今でプレーしている彼のプレーを見るのが俺は好きだった。一部リーグより空いているし、そもそも父親が3部リーグのこのチームの関係者だったのもある。だからこのチームにいる選手と俺の距離は他の客よりも少し近い。自分のプレーに関してアドバイスをもらうこともある。昔だったら絶対ありえないとは本人の話であるが、今は彼は俺の師匠みたいな人物なのだ。彼の問いかけに俺はスタジアムの観客席から「そうだよ」と返事をする。
「でも、なんか、腹が立った」
「アイツ元々結構腹立たしいけどな。生意気というか」
そう言って、成田さんは「大丈夫だったのか?」と聞いた。
「知らない。見舞いに行っても喧嘩するだけだから、見舞いに行くのもやめた。なんか、医者に無理かもって言われたらしい」
俺はそう言ってピッチをみる。
「諦めるって言うから持田蓮特集を持ってたら、投げられてキレられたから俺もキレた」
俺はまた一緒にプレーをしたいのだ。絶対言葉になんか出したくないが。それなのにアイツは。
成田さんは壁にもたれると、そうか、と返した。そうして大きな手が俺の頭に触れる。ぐしゃぐしゃと。不器用な優しさである。
「辛いな」
「辛くない。呆れただけ」
鼻がツンとする。
「アイツにとって俺との約束なんてそんなものなのかって」
「……プロになるってことはそう言うことでもある」
彼はそう言って手を離した。上の世代に食い込まなきゃならない、下の世代から上手い奴もでてくる。そう羅列した彼は最後に付け加えた。
「怪我をしてピッチを去る奴を見送ることもある。俺みたいに長くやってると、そういう奴を何人も見送った」
「……うん」
「――でもな、何かしらの形で意外とみんなフットボールに戻ってくる」
どこかのコーチ、どこかの監督、解説。そう羅列した彼に俺は顔を少し上げる。
「今は医療も進歩してるしな、本当にわからないぞ。そのうち戻ってくるかもしれない。でも、お前は先に行けばいい。お前が相手に合わせて待ってやる義理はないからな。怪我してた奴を待ってたらキリがない」
――日本代表になるんだろう。
もう一度ぐしゃぐしゃと俺の頭を撫でて、彼は笑った。俺はそれを聞いて、うん、ともう一度返事をすれば、スマホがメッセージの到着を告げる。スマホを見れば、ただ一言だけのメッセージが届いていた。
――やっぱりフットボール辞めてやんない。
その言葉に俺は結局泣いたのだが、そのあと一緒に送られてきた写真をみて俺は腹が立てた。
「はっ? なんで持田蓮と花森圭悟と写真撮ってんのアイツ」
「なんだって?」
成田さんに画面をみせる。持田蓮と花森圭悟、病衣を着た同い年くらいのやつと知らない女性が写っている。それを見て成田さんが微かに目を見開いて、ほらな、と口を開いた。「やっぱり戻るところに戻るんだよ」と。