RE:カルペディエム 07『夢追う人』

 楽しそう。私はテレビに映る彼女を見て思った。私よりもうんと年上だ。干支一回り違うかもしれない。それでも毎年赤色と女王争いをしている緑のチームの中でもトップクラスで、日本を代表する青色を着てプレーをしている。体力は少し他に劣るかもしれないが、彼女はテクニックがあるし何よりもボールに対しての嗅覚がいいのだ。それを生かしてフットボールをするその表情は誰よりも楽しそうで、あっという間に私の好きな選手に彼女は加わったのである。怖いイメージがあった緑のキャプテンは彼女が来てから楽しそうにフットボールをするようになった。赤色のゴールキーパーもそうで、彼女と敵対するときはとても楽しそうなのである。
 もしかしたら、あの人と一緒にプレーするととても楽しいのかもしれない。今のチームが楽しくないだけで。私はそう思った次の日、学校の部活をやめてしまった。

 思えば別にこのチームにこだわることはないのだ。選択肢はたくさんある。女子フットボールの強豪校ではあるけれど、どうも監督と私の感覚が合わなかった。まあ、私は推薦ではなく一般入試でそこに入っただけだ。今後を期待されるような選手でもな買ったため、引き留められることもなくすんなりと辞めさせてもらえた。正しくは男子のほうで事故にあった男子生徒が復活したという騒ぎのほうが監督やコーチ、ついでに顧問の先生にとっては重大事件だったのだろう。先輩たちだってあきらめて辞めていく人が多いのだから、私みたいなやつが一人辞めたとしても気にしていられないのもある。
 私はもう学校では使うことのないスパイクをシューズケースにいれた。そうして電車に揺られる。行き先はたった一つだ。

 ――椿大介という選手を見て、私はフットボールを始めた。父親が地元のチームであるFC武蔵野をたびたび見に行くので私はついていったのだ。彼はフットボールをする間、楽しそうだった。それが練習であっても。ミスをしたらそれはもう世界の終わりみたいな顔をするけれど、プレーをする間とても楽しそうだったのだ。そんなにフットボールは面白いのかと私もフットボールを始めた。最初は難しかったけれど、できるようになり始めたらとても楽しくて、あっという間に私はそのスポーツに夢中になった。そうしてただ漠然と「いつか椿選手とフットボールしてみたいな」という夢を抱いたのである。ETUに移籍して、スター選手に駆けあがり、そんな夢はほとんど不可能になってしまったのだが。そもそも私は女で、彼は男なわけだし無理な話だ。
 駅について電車を降りて慣れたようにそのまま目的地まで進む。目的地につくまえにコンビニによるかと思ってよれば、アイス売り場に知っている姿を見つけた。同じく、私を見つけたその人は口を開く。
「あれ、小夏じゃん。何してんの? 練習休み?」
「部活辞めてきました」
 さらっとそう言えば、彼は目をぱちぱちと瞬いた。
「なんで」
「違うチームに移籍しよっておもって。なんかあのチームでフットボールしてても楽しくないし、監督苦手だし」
 私の言葉に彼は何とも言えない顔をした。知り合ったのはここの近くの公園で私が練習していたところに彼が声をかけてくれたのだ。まあ、そこから何がきっかけかわからないが、私の愚痴のようなものを聞いてくれるようになったのである。
「俺何回もいってたじゃん」
 彼は当たり付きアイスを二本とりながら告げる。そうだったっけ、と思い返せば、そういう感じの言葉を彼は私にかけてくれていたのを思い出した。レジを済ませた彼は私に当たり付きの棒アイスを一つ差し出す。私はそれを受け取って、同じ方向に向かうのである。
「でもまあ、なんで急に」
「女子の苗字選手が楽しそうにプレーしてるのをみて、私も一緒にフットボールしたいなぁってぼんやり思ったんです」
「うん」
「あと、それ見ながら考えると今全然楽しくないなって思って。今のチームがもしかして悪い? って思った次第ですね。監督と考え方あわないし」
「もう一回いうけど、俺、何っ回も小夏にいってたんだけど。今のチームだけがすべてじゃないって」
「そうでしたっけ」
「そう。お前、俺の話聞いてなかったの?」
「聞いてましたよ」
 そう言って私は袋を開ける。昔からあるソーダ味の棒アイスである。
「で、次のチームどうすんの。苗字ナマエって東京ヴィクトリーの女子のほうだろ? 乗り込むのか?」
「んんー。この前浦和の人と知り合ったので、そっちに声をかけてみようかなって。同じチームじゃなくても面白そうだし」
「へえ、いいじゃん」
 彼はそう言って悪戯好きな子供のような笑みを浮かべた。きっと私も同じような顔をしているし、おそらく達海さんは私と似たようなことを考えている。
「どうせなら苗字ナマエをぶちぬいてやったら?」
「もちろん、違うチームになるならそのつもりです」
 なんだか、今からワクワクしてきた。新しいチームはどんな風なフットボールをするのだろう。そこからはいつものように戦術だとか、今シーズンの成績だとかそういう話にかわっていく。食べ終わったアイスの棒を見れば、当たりと書かれていた。



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