RE:カルペディエム 08『seize the day』-1
「ババア、なんだかんだ元気そうじゃん」
見かけた姿にそう声をかける。向こうは覚えていないかもしれないが。ユニフォームを着た苗字ナマエは俺を見て目を瞬いた。あとはついでに近くにいた年上の選手たちも俺をみた。反応はさまざまである。持田蓮は爆笑し、花森圭悟はそんなことはないなどといい、確か女子のキャプテンだった城西――昔は確か貝沢葉実は不機嫌そうな顔をする。隣にいた昔からの友人は「お前何言ってんの!」と俺を叱って苗字ナマエに言葉をかける。おそらく本人がフォローだと思っている言葉は決してフォローではない。現に苗字ナマエと同い年の人物はカチンときているようだった。
「ちょっと」
「葉実ちゃん、気にしないで。こっちの少年はちょっとした知り合いだから」
苗字ナマエはそういって俺を見た。どうやら覚えているらしい。
「ねえ、ナイーブボーイ。病室で慰めてあげたもんねぇ?」
誰が。ひくりと口角をあげる。おそらくこれは挑発されている。それを聞いた持田蓮がまた爆笑した。そしてその言葉に同い年同じ高校に通っていた関崎小夏も爆笑した。かたや、花森圭悟の背中をたたきながら。かたや、俺の背中をたたきながら。花森圭悟もなんやかんや言いつつ、笑っている。決めた。こいつらから絶対ボールを奪い取ってやる。負けねえ。と思っていたところで思い出す。そもそもここにいる全員は味方なのだ。平均年齢はそろえたとかプロデューサーらしき人物はいっていたが、それだと当然俺と友人と関崎はこの年上と組まされるわけである。慰めた、とこちらを見た周りに友人は変な妄想に足を踏み込んだのだろう。
「えっ、お前年上好みだったの?」
「……お前は変な妄想癖といい、発言といい、一回録音して聞いたほうがいいよ」
「わかる。ほんと、新名は背後に気を付けたほうがいいよ。ちなみに答えは?」
「お前ら殺す」
そう言って二人の頭をはたく。いでで、と痛みに悶える友人と、レッドカードと騒ぐ関崎は無視だ。コイツらはこういう面で俺を怒らせるのだと理解したほうがいい。とりあえず、俺は同い年でこんなやり取りをするためにここに参加したわけではない。新旧併せてA代表の選手と一緒にフットボールができるというから参加したのだ。苗字ナマエの夢をかなえるという企画らしいが、そのおこぼれを俺はもらったにちかい。それはきっと関崎もそうなんだろうが。元気だねえ、とぼやいた持田蓮に「ジジイだ」と苗字ナマエがこぼし、花森圭悟が吹き出して持田連に制裁されているのを見るとこの三人は恐らくはずっとこんな感じなのだろう。とりあえず、俺はやることをやらなければならない。
「――持田、さん」
友人から手を放して持田蓮をよぶ。彼は「なに?」と俺を見た。
「あの時は、ありがとうございました」
恐らくこの人がいなければ俺はここにいないと思うのだ。あのまま、つらいリハビリをこなすこともなく、ただの観衆になっていたと思うのだ。だから、俺はいつか同じ青を着たときに礼をしたかったのである。しかしながら、俺がオリンピック予選に選ばれたのに対し、彼と花森圭悟は第一線から退いた。それでも国内トップの能力を持つことは間違いないのだが。もう同じチームでプレーできることなどないと思っていたから、これは思いがけないチャンスだったのだ。あの時の、お礼をいう。しかし、俺の言葉に持田連はただ俺を見た。
「なにそれ、何の礼?」
その言葉に俺は黙る。きっと、この人にとって俺は多くの一人だったのかもしれない。俺みたいな人間はアマチュアにもプロにもいっぱいいるのだろう。そして、その多くがあきらめて行ったのかもしれない。
ただ、あの時彼に言われた言葉は俺の原動力になっている。俺は絶対この番号を譲りたくないし、今もあの時も俺の場所を譲りたくもない。だから、この人のように俺は蘇ると決めたのだ。誰もが奇跡といったそれはこの人がいなければ起こらなかったのだから。
「どうせ礼すんなら金メダルとってからにしてくんない?」
――超えるんだろ、俺たちを。
持田連の言葉に俺は目を瞬く。確かにインタビューでそう言った。いつか、この人達を超えたいと。相も変わらず好戦的な目だったから、俺はふはっと息を吐いて、彼のように笑うのだ。
「絶対超えてやる」