「貴方の叶えたい夢はなんですか?」
 そう尋ねたインタビュアーに私は目を瞬く。なにこれ、と有里さんを見ればそう言うテレビ番組みたいなのよ、と返される。
「選手やスタッフにも聞いてるんだって」
「みんなはなんて答えてるんです?」
「色々よ」
「みたかったなぁ」
 私が質問そっちのけでそう溢せばインタビュアーさんが困っていた。ごめんなさい、と謝って彼らを見る。私の夢か、と頭を掻く。叶えたい夢。そう考えて、浮かんだそれに叶うことはないだろうな、と自嘲する。はやく答えが欲しいインタビュアーを見ることもなく、私は手元にある書類をみた。
「幼馴染みともう一回でいいからサッカーがしたいかな」
 ぽつりと呟く。向いた視線に、ああ、やっぱり今のなしと私は苦笑いする。
「ETUがタイトル取ること」
「今更とり作っても遅いッスよ、苗字さん」
「いやー、やっちゃったな」
 ケラケラと内心を隠すように笑う。もうその夢は諦めたはずだろう。インタビュアーは首をかしげて見せた。
「幼馴染みとサッカーですか?」
「はい、そうですね、でも、こればっかりは難しいかなとは思います……」
 いる場所が違う。立場が違う。彼にも嫌われている。失望もされている。もう昔のようにそこに私は立てない。そもそも私はサッカーできないわけであるし。有里さんが私を見上げる。
「苗字さん、幼馴染みとかいたんだね」
「まぁね」
「その幼馴染みがサッカー辞めてるんですか?」
「いや、まだやってる」
「えっ、まさかプロ選手?」
 世良くんの問いかけにケラケラ笑う。それは教えてあげない。向こうに迷惑がかかるからだ。彼は「なんスかもー! 教えてくれてもいいじゃないッスか!」と怒ってみせたのだが。私はそのまま荷物を持ってフェードアウトする。世良くんがワンコのようについてくるが、秘密ーと言いながらビブスの洗濯に向かった。

 ――ああ、酷くうらやましい。怪我をしてもピッチにたつ彼が。その彼と並ぶ仲間が。相対する選手達が。サッカーのゲームを眺めてもそういう感情しか湧かなくなる。夢を告げていってしまったからか。

 試合の内容は酷い物だった。選手達の顔も晴れ晴れとした東京ヴィクトリーの面々とは違い重苦しい。選手の荷物の撤収を手伝っていれば、「なんだ、まだいたの」と声がかかった。そちらを見れば蓮がいる。こちらを見つめる目は随分と冷めた目だな、と人ごとみたいに思う。その視線が覆ることはもうないのだろうが。機嫌もあまり良くなさそうだ。
「なんで消えたの、お前」
 彼の言葉に私は息を詰めた。恐らくは説明すればいい話なのだ。でも、それが出来なかった。説明してしまえばきっと。彼は言葉を続ける。俺たちにあんなこと言っておいて、自分は逃げて。そうだ、それが彼らの認識だった。でも、言いたくない。言ってしまえば。そうぐるぐると考える私に、彼は余計に腹を立てたようだった。
「そんなで出てくるくらいならずっといなくなってた方が良かったんだけど」
 すれ違いざまに言われた言葉に私は視線を下に下げる。やっぱり死ぬ前に日本にくるべきじゃなかったのかもしれない。一縷の望みなんて抱く物じゃない。遠ざかる背中に私は声をかける。
「あの、ね、蓮」
「黙れよ、今はお前と話したくない」
 私は言葉を飲み込む。
 ――こんな状況で、私の夢なんて叶いっこない。
 廊下の先に消えたその背中を見送って、私はETUのスタッフに合流する。重苦しい雰囲気の選手達に紛れる。形だけでも笑顔を乗せて。でも家に帰る頃にはそれは解けた。悔しいのか悲しいのかごちゃごちゃの心に、枕に顔を押しつける。仕方ないのだ、と自分に言い聞かせる。これも神様が、私に与えた、運命なのだと。



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