なんか騒がしいな? と思ってみていたら達海監督がボールを持っていた。なんだろう? と有里さんに聞こうと近づく。有里さんより先に私に気づいた彼は私に向かって「おっ、丁度いいタイミング」とひらりと手を振った。
「苗字ー、苗字も入ってくんない?」
「えっ、なに、なんですか?」
「今からボール蹴るし、俺に付き合って。大丈夫大丈夫、ドクターいないしミニゲームだし無理はしなくていいからさ」
「……じゃあやります」
 そう言って持っていた書類を有里さんに預ける。スパイクとってきます、と言えば準備されていた。これは最初から数に入れられていたな。なにやら納得してなさそうな有里さんに書類を預けて中に入る。あとはコーチとかでなんとかなるかと言った彼らに私は椿くんをみた。
「椿くんもやるんだ。お手柔らかによろしくね」
「ウ、ウス」
 固まってらっしゃる。ので、笑いながら背中を叩いておく。
「なに、なんでそんな固まってるの? あ、達海監督、私、久しぶりだから期待しないで」
「いや、松っちゃんよりは期待はしてる」
 そう言った彼にやれやれと息を吐く。全く王様はどんな王様でも同じような感覚らしい。後藤さんが私をみて彼らをみて、達海監督をみる。
「達海、なんでも苗字さん巻き込むことないだろ? 危ないぞ」
「大丈夫大丈夫、苗字ああ見えて結構上手いから。下手すれば並のプロより上手い」
 やめて欲しいなぁ、と苦笑いする。俺は現役復帰する、苗字もまたこれがうまくいけば現役復帰する。お互い引退したなんて言っていないし。なぁ? と彼は私をみた。それもそうだ。ふはっ、と小さく笑みを溢す。
「オーケーオーケー、私が活躍したら是非ともプロチーム紹介してね」
 冗談だ。そんなことできやしない。きっとミニゲームが精一杯だ。カラカラと笑っていれば王子が私をみた。
「おや、ナマエはやっぱりサッカーをしてたのかい? 何処かで見た気がしていたんだけど、思い出せなくって」
「十年前まではやってましたよ。でも多分見たのは気のせいじゃないですか。まぁ、何はともあれよろしくお願いします、王子も後藤さんもコーチ陣も」
 へらりと笑ってそう告げる。よし、黒田さん達の胸を借りるつもりで頑張りまーす、と宣言をしておく。黒田さんが私をみた。
「遊びじゃねぇんだぞ」
「知ってる。でも私っていうハンデありながら君達負けたらさ、酷い笑い話だよ」
 私の挑発的な言葉に黒田さんはカチンとくるだろう。でも、周りも便乗する。私はハンデ要因なのだから。

 いやー、やっぱり達海監督も王子も上手い。パスが繋がる。にゃろ、と止めようとした相手にボールを後ろから前に浮かせる。私だからマークが甘いんだよなぁ、とそのまま相手を飛び越えゴール目指して蹴る。湯沢くんがほら反応していないから決まってしまうんだよなぁ。周りが静まったけれど。流石苗字じゃん、とケタケタ笑った達海監督に私もケタケタ笑う。
 だってついていけるからだ。足もとがお留守だからボールを相手の足元に潜らせる。接触は流石に負けるけれどテクニックでならそれを補える。体力はまぁ手を抜けるところは手を抜けるからまだ温存できる。あー、面白いなぁ、と思う反面、やっぱり未練たらたらなんだよなぁと思う。瞬時にやってきた椿くんに笑う。
「やっぱり楽しいね、サッカーは」
 そう言って逆サイドにボールを振る。そこにいた達海さんがボールを蹴ろうとして足を止めたのであるが。

 なし崩しというか。それでも最後までプレーをする達海監督に私はボールを送るしコーチ陣や王子に声をかけてフォローもする。私の負担も増えてきた。これ以上私も無理をしてはいけないとはわかっているが、それでも私も彼の意を汲むべきだと思ったのだ。しかしながら、体はいうことをきいてくれない。うわー、やっぱり駄目だなー、と走る足を止める。早くなる拍動に目を伏せた。仕方ない。近くにあった水分を取り、頓服剤をのむ。しばらくしたら治るはずだ。近くで苗字? と声をかけた笠野さんにヘラリと笑っておく。
「……やっぱりフルのゲームはできやしないみたいです」
 鳴った笛に私はそのまま達海監督の元へ向かうことなくそこにしゃがむ。笠野さんが私に声をかけた。
「……お前もやっぱりどっか悪いのか」
「……ちょっとね、ホントはあんまり激しい運動しちゃ駄目なんですけどね」
 マシになった拍動に、そのまま立ち上がって監督のところへ向かう。
「ナイスゲームでした、達海監督」
「おー、苗字もありがとな」
「いえ、お礼を言うのはこちらです。ありがとうございます。いやー、やっぱりミニゲームでも体力が持たないし結構ガタがくるからプロにはなれないや」
 笑いながらそう告げる。でも久しぶりにサッカーできて楽しかったです。そう言って彼に手を伸ばす。握手した彼は結構無理させたけど大丈夫? と尋ねた。
「生きてるから大丈夫ですよ。倒れてもないですし」
 そんな会話をしていれば黒田さんが私に向かって吠えた。
「ってか、苗字が一番謎なんだよ! なんだお前! あんなのただの事務員ができる芸当じゃねぇよ!!」
「ふふ、あははは、」
「なーに笑ってやがる!」
「スパイなら面白かったんですけど、残念ながら私はただのアルバイト事務員です」
 ケラケラ笑いながらそう告げる。まぁ、向いた視線に、やっぱりサッカーは楽しいものですね、と私は笑っておいたが。


 練習後の片付けをしていれば、わりかと真面目な顔で選手がやってきた。なんだ? と首をかしげる。杉江さんが私をみおろす。片付けを手伝ってくれるらしい。
「苗字、あれくらいできるなら本当に女子のプロテスト受けたらどうだ?」
「残念ながら、無理ですよ。私、フルでゲームできませんしね。流石にアレ以上の激しい運動は自分の命に関わってくるので」
 ひらひらと笑いながら手を振った。自分の命、と固まった彼に私は苦笑いをした。
「心臓があんまり良くなくて。手術もしたんですけどね、どうも激しい運動は死ぬ可能性があるみたいで」
「それ、大丈夫だったのか」
「大丈夫です。倒れなかったし」
 そう言いながらボールを選手たちがはけたのを確認してピッチから荷物を運ぶ。運んでくれる彼はいい人だ。
「本当は私もサッカーやりたいんですけどね。私、健康だったら絶対私はいい線までいってたとおもうんだよなぁ。絶対日本代表には入れてたと思うんですよ」
 女子の日本代表のエースになってましたね、絶対。そう私がいえば、杉江さんは「すごい自信だな」とつげた。私はその言葉にケラケラと笑う。
「そうですね、自信しかない。絶対メダルを取りまくって、タイトルもとりまくれたと思います。幼馴染みと一緒にオリンピック行きたかったし、同じくピッチにも立ちたかったんですけどね、神様が私にサッカーするのを許してくれなかったんですよ。神様が言うなら仕方ないです」
 そう割り切るしかないのだ。悔しさも悲しさも。全部神様のせいにして割り切るしかない。でなければ私はこの宙ぶらりんの感情をどう対処すれば良いかわからなかったのだ。




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