You're not someone I can count on.
チェックアウトを済ませて、従業員に適当な嘘をついてホテルから離れる。連泊はさすがに怪しまれるだろう。工藤邸まで行ってみたが、やはり留守なのか何なのか家の電気がついない。沖矢と名乗った彼もいないのだろう。このまま別の場所に行こうか、と考えていれば「君は」という声がかかる。振り返れば昨日の店員である。ジョギング途中なのだろう。軽く頭を下げれば彼は首をかしげる。「家はこのあたりなのかい?」
その言葉に私は苦笑いを返す。それを見て彼は眉間にしわを寄せた。
「まさか家に帰ってない?」
「――帰りましたけど、出てきました」
嘘だ。また私は嘘をついた。彼はじっと私を見る。それは工藤息子や工藤父、警察と同じ目だ。真実を見抜こうとする目だ。彼は「まったく」とため息をつく。
「それ、嘘だろう」
「えっ」
「見ればわかる」
彼はそういって工藤邸を見上げた。
「ここを見上げていたけれど、ここがどうかしたのかい?」
「工藤父……工藤先生に会いたくて」
私の返答に彼は少し考えて「昨日言っていた頼れる人?」と私に問いかけた。私はうなずいた。いつ戻るかわからないなら、昨日の夜だとか、今日の朝だとかに帰っていてもおかしくはないと思ったのである。
「まだ帰ってきていないようだね」
「はい」
「そんなに家に帰りたくないのかい?」
彼はそう言って私を見下ろした。私はなんといえばいいのかわからない。「彼女」のように帰る家なんてないからだ。返答をしない私に彼は不思議そうに私を見た。そりゃあそうだ、彼は私を家出少女だと思っているのだ。帰りたくない、と即答するとでもおもっていたのだろう。
「帰る家がないので」
ぽつりと言葉をつぶやけば彼は一度言葉を止めた。そうして、「ついておいで」と私に告げた。
「立ち話はなんだし、詳しい話はバイト先で聞こうか」
まるで警察官である。私が渋っていれば、彼は「朝ごはん、まだ食べてないんだろう?」だなんて笑いながら告げる。どこをどう見てそう思ったのかはわからないがその通りだった。最終的に僕のおごりだという言葉に私はとりえず彼の後をついていくことにするのであるが。
どこから来たんだ、と尋ねられた言葉に私は口を閉ざす。定住しているわけではないのだから「どこ」というのはどこかわからなかった。私が口を閉ざすのを見て梓となのった女性店員は「家出少女だ」とからかうように告げた。安室透と名乗った彼はどうやら探偵であるらしい。警察とかかと思った、と言えば彼は目を瞬いたが。
「公務員はこんなところで働けない。副業は禁止だからね。探偵業は助手かな」
「助手?」
「この上に探偵事務所があるのよ。眠りの小五郎、知らない?」
「ニュースで見たことはあります」
でもいまいちすごい人かはわからない人である。眠りながら解決とはどういうことだろうか、といつも思うのだ。とりあえず、彼は警察に突き出す気はなさそうだ。目の前にモーニングセットが並べられていく。
「で、こう見えて僕は毛利探偵の助手なわけだけど」
どうしたんだい、と彼は私に尋ねる。私は口をつぐむ。梓さんが「いろいろあるのよね」と私に告げた。
「梓さん」
「私もこれくらいの年のころはいろいろあったもの。落ち着くまでここにいたら?」
彼女はそう言ってウィンクをした。私は何も言わずに手元を見つめる。安室さんはため息をついてあきらめたようだった。ああ、でも手伝ってくれるとうれしいな、と告げた梓さんに私はとりあえずうなずいた。
