郭嘉とポケモン
飛竜が徐庶から離れないのはいつものことなので、ケイファは大きなコートを渡した。ぴったりくっついたままコートをきた徐庶はケイファを見下ろした。
「竜属性は寒いのが苦手かい?」
「うん」
「なら、飛竜も冬の準備が必要だねぇ」
「ポケモン用のマフラーがあるよ!」
「この服の原料はウールー殿の毛から編んだ糸ですか?」
「そうだよ! あとはくさポケモンの綿も使ったりしてるよ!」
そんな話をしながら、建物の前にたどり着く。前にいても微かに冷気を感じることができる。ケイファが閉じている扉を開けようとするが、硬くて開かないらしい。ぐぬぬ、と言いながら押しているケイファに馬岱と徐庶が加勢した。途中まではかなりかたかったというのに、ある一点を超えるとすんなり開いた扉に三人は見事に転倒し、雪に埋まることになった。二人の下敷きになる羽目になりぎゃっ! と小さく声を上げたケイファに、慌てて徐庶と馬岱が退いた。雪のおかげで怪我はなさそうである。悪戯に成功したというようにポケモンはきゃっきゃっと逃げていく。ケイファは「こ〜ら〜!」と言いながらポケモン達を追いかけた。
徐庶と馬岱が起き上がり、ケイファが追いかけるのを見送って、魏の五人が中に入ればなるほど冬の環境である。深々と冷えるその室内には真っ白な雪が降りつもり、静かな一面銀色の世界だ。銀色の世界のなかに、ポケモン達がいた。ひらひらと粉雪がふっていて、蝶のようなポケモンが雪と戯れているように見える。
「室内なのに、雪が……?」
「ポケモン殿が降らせているのでしょうか」
そう荀家の二人があたりを見渡す。ひらひらと雪のようなものを舞い散らすように蝶がやってきたかと思うと、その氷のように美しい翅を見せびらかすようにひらりと飛んでいった。
「美しいポケモン殿ですね」
「はい、とても……」
「うわー!!」
静かな場所であったのに、ケイファのそんな声が聞こえて七人は顔を見合わせた。そうして雪を掻き分けてケイファがいた方へ向かう。
辿り着けば、うつ伏せになって雪に埋もれたケイファの上に、ポケモンがちょこんと座ったり、ご機嫌に雪をかけたりしていた。どうやら転倒したらしい。氷の甲羅のようなものをつけたポケモンが、はむはむとケイファの髪をはんでいる。もー! と勢いよくまた起き上がったケイファはポケモン達に抱きつくとコロコロと転がる。ポケモン達は子供のようにキャッキャと喜んだ。
「ケイファー、大丈夫かい?」
そう徐庶が声をかければ、ケイファは大丈夫と手を振って戻ってきた。氷の棘を持つ白いポケモンがケイファの頭の上ではむはむとケイファの髪をはんでいる。
「ケイファ、髪を食べられていますが」
「ユキハミちゃんは雪しか食べないから、食べるふりしてるだけだよ」
「なるほど、雪を食むからユキハミということかな?」
そう言って郭嘉がユキハミをみる。ユキハミはにっこり笑った。
「ユキハミがあの蝶のようなポケモンになるのですか?」
「うん、モスノウって言って、寒い山奥に住んでるんだよ。綺麗でしょ」
そう言いつつケイファはユキハミを頭から下ろすと、近くの岩場にのせる。満寵がユキハミを突けば、ユキハミは満寵の指に向かって冷たい糸をふっと吐き出した。ぴょこぴょことポケモン達――アマルスやダルマッカ達がやってきて、七人とケイファを見比べた。
「ケイファが今お世話になってるお兄さん達だよ!」
そう言えば納得したのか、アマルスはにっこりと笑って前足を上げた。目元のひれのような鱗がオーロラのように色を変えた。
「このこはアマルス! アマルスちゃんはね、大昔のポケモン!」
ケイファはそう言ってアマルスを撫でる。アマルスは嬉しそうに擦り寄った。満寵がへぇと言いながらアマルスのよこの模様に目を留めた。
「ここは鱗かい?」
「そこ触ったら手が凍るよ〜。すごい冷たいんだぁ。この子はダルマッカ! こっちがウリムーで……」
そう説明し出したケイファに、徐庶と荀攸が顔を見合わせた。経験からしてこれは長くなる。
「ケイファ、材料は取りに行かなくてもいいのかい?」
「そうだった! カクカさんは、気になったポケモンがいたら声をかけてね!」
ケイファはそう言ってまた雪道を進んでいく。その後ろをポケモン達は追いかけた。
「しかし、本当にいろんなものがいるんだな」
賈詡はあたりを見渡してそう告げる。大きな氷の塊のようなポケモン、うりぼうやいのししのような、あるいはくまのようであったり、アマルスのようににた動物がいないポケモンもいる。ポケモン達が岩陰や雪の中から顔を覗かせては、なんだケイファかという風に挨拶したり、七人を見て隠れたりしている。
いつのまにかケイファの隣に並んだ満寵が、あれこれとポケモンに興味を示してケイファも寄り道するものだから、徐庶と荀攸と馬岱が軌道を修正していく。
「で、郭嘉殿? アンタの相棒は見つかりそうか?」
賈詡はそう笑いながら尋ねた。郭嘉はふふっと笑うと「それだけどね」と口を開くと立ち止まって振り返る。同じように賈詡と荀ケも後ろを振り返った。雪を跳ねるように移動してきていた何かが、郭嘉の視線に気づいたのか近くの岩場に隠れる。
「先程から私達についてきているんだ」
チラッとつぶらな瞳が郭嘉達を見ては、郭嘉達の視線から隠れるようにまた岩場に隠れた。
「あっはっはー、相手は非常に奥手なようだ」
「可愛らしいポケモン殿ですね」
郭嘉が少し屈んで、おいで、と言えばそのポケモンはちらりと郭嘉を見たが、そこから出てくる様子はない。
「これは口説きがいがありそうだ」
「アンタほどの色男もポケモンには関係ない、か」
「あったー!」
ケイファのそんな声に三人は前を向く。ケイファ達が何かの前で立ち止まっているのが見えた。追いかけてみれば、大きな透き通ったいたらのようである。透き通ったそれに「氷ですか?」と荀ケが尋ねればケイファはうーん? と首を傾げた。
「春から秋に明けて、みんながガラスに溶けない氷をはってくれるよ。にじゅうになるから強度が強くなるんだって」
「これをどこに使うの?」
「設計図を見る限り、屋根や壁の一部に使うようだ」
「お日様の光をこれで入れるんだ〜。だから、冬でも部屋の中はポカポカしてあったかいんだよ。グレちゃん達、これ入り口まで運ぶの手伝って〜」
ケイファがそう言えば近くにいたグレベースが頷く。ガラスを背中に乗せれば、カチコールがそれを固定するように端に乗った。のしのしと歩き出したグレベースに、ケイファはカチコールと同じようにぴょんと背中に乗る。そうして岩陰に隠れたポケモンを見つけたらしい。
「あれ、ロコちゃん、お客さんが来てるのに珍しいねぇ、どうしたの?」
「あのポケモンはロコっていうのかな?」
「ううん、ロコンだよ。お兄ちゃんがくれた卵から孵ったんだけど、あの子は他の子と毛色がちょっと違って見分けがつくからロコちゃんって呼んでる。人見知りだから、あんまり人がきてたらあの子はあんまり顔を出さないんだけどなぁ」
「ロコン?」
「うん、ロコちゃん、おいでー」
そう言えば隠れていたポケモン――ロコンは困ったような声でないた。郭嘉がもう一度屈んで、ロコン、おいで、と言えばロコンはそれはもう困り果てたようにおろおろとしている。雪が少し強くなって、何かが岩陰からやってきたかと思えば、ロコンの首元をかぷりと咥えた。そうして雪の中を移動してくると、郭嘉にずいっとロコンを差し出した。ましろな狐のようではあるが、姿が大きいし、何より尻尾がたくさんある。
「キュウコンちゃん、ありがとう〜」
「キュウコンちゃん?」
「ロコンの進化系で、ロコン達のお母さんだよ。お兄ちゃんのポケモンで……カッコいい人が好き」
ケイファの言葉に、フハッと周りは息を吐き出した。ポケモンにもそんなのがあるの? と尋ねた馬岱に、ケイファは多分? と首を傾げた。
「お兄ちゃんは黙ってたらカッコいいんだけど、昔はお兄ちゃんに恋してるみたいねって知り合いのお姉さんがいってたみたい。ちなみにお兄ちゃんの友達には塩対応する」
キュウコンがロコンをぐいぐいと郭嘉に差し出す。郭嘉が抱き上げれば、一瞬ジタバタしたものの、撫でてやればすぐに大人しくなった。キュウコンはとても満足そうにしている。
「キュウコンは尻尾が九本ということは、ロコンは尻尾が六本かい?」
「増えるって聞いた! ロコちゃんの兄姉はねー、尻尾の数が色々ある」
「それにしても、雪が強くなってませんか?」
荀攸の言葉にケイファが頷いた。
「キュウコンのとくせーだよ。このキュウコンちゃんはねぇ、雪を降らせる特性があるから、このキュウコンちゃんがいると雪が降るよ」
「とくせい?」
「ポケモンによって色々あるよ、天気を晴れにしたり、雷を吸収したり……」
「ではこのロコンも?」
「このロコちゃんは雪がくれだから、降らないけど、粉雪を降らせることはできるよ。強くなったら吹雪にもできちゃう……」
そこで、なるほどー! とケイファは手を叩いた。何がですか、と荀攸が突っ込めば、ケイファは「キュウコンはね、」と口を開く。
「多分、心配してたんだよ。他の兄姉達はほとんど他の人に仲良しになって貰われて行ったんだけど、ロコちゃん人見知りでそういう機会がなかったから!」
ねー? とケイファが聞けば、キュウコンは頷いた。
「おや、では私が連れて行ってしまっていいのかな?」
郭嘉がロコンを抱き上げながらそうキュウコンに尋ねれば、キュウコンは了承するように鳴き声をだした。そうしてペロリとロコンを舐めてから、雪道を戻っていく。キュウコンが遠ざかると雪は緩やかになって行った。
「ロコン殿は寒い場所の方が?」
「ロコちゃん自分で体温調節できるから大丈夫。氷でできてるわけじゃないから溶けないし。慣れたら名前つけてあげてね!」
頑張ってね、ロコちゃん、とケイファが言えばロコンはキョトンとしたまま郭嘉を見上げた。
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