この子、どこの子、異界の子
荀攸が山奥に住む女の元に通っている。どうやらその人は荀攸を助けた人物であり、そこで恋に落ちたのだろう。そんな噂が流れ始めたのは三月ほど前の話である。本人は噂だからと気にしていないが、確かに彼は休みの日はきのみや布などを買って何処かに行くことが増えていた。他人の色恋沙汰である。しかし、他人の色恋沙汰というのは取り巻きからすれば面白いもので、なおかつそれが寡黙で有名な人間なれば気にする人間も増える。とりわけ、同じ職務にあたる人間も気になったようで休み前の荀攸を誘い、飯屋に行ったというわけだ。
「それは全くの誤解です」
酒を飲んだ荀攸はそう言って首を左右に振った。そんなことを言って、だなんて郭嘉に酒を注がれ、荀攸はそれをまた口に運ぶ。
「確かに助けてはもらいましたが……」
「荀攸殿を誑かせるなんて、どんな女性なんだろうね?」
「そもそもその前提に誤りがあります。俺が会いにいくというよりは様子を窺いに行っているのは子供です」
「子供ができたんですか!?」
「そうではありません。子供が一人であの山奥で暮らしているので様子を見に行っています」
荀攸の言葉に声を荒らげた荀ケや他の軍師たちは「なんだ」と納得しかけて、動きを止める。
「子供が? 一人で? 三国の国境あたりに?」
厄介な場所である。混ざり合った世界では三国の境界あたりなのだ。だから、他の国になりすました妖魔に度々狙われるのであるが。それはもうお互い様というものだ。一番戦になりやすい場所、と言ってしまえばそうなのだ。
「はい」
「それは……連れてきた方がいいんじゃないのか?」
「いや、荀攸殿がそうしないということは何か理由があるんじゃないかな?」
「異民族の装束に身を包む子供ですが、他の世界から来たのだと思います」
荀攸の言葉に荀ケは困った顔をした。
「ならば尚更保護した方がいいのでは?」
「いえ、そういうわけにもいかず……たくさんの見たことがない動物と暮らしているようで。流石に連れては来れませんし、本人にも断られた次第です。だから今は蜀にいる徐庶殿と交代で様子を見に伺っています」
そうするしかありません。そう言って荀攸は盃を煽った。徐庶となれば、一応は今のところ敵意を見せない。だが、国境付近で会うとなれば何かあるのではないだろうか。
「徐庶殿と……」
「この前、俺が出入りしている報告があったからか、偵察のためにやってきていたらしく、その子供の家の付近でばったりとお会いしました。戦闘になりかけましたが、子供に喧嘩はダメだと叱られる始末です。俺たちの方が大人なんですが……」
「ははぁ、子供にとってはあまり世情は関係がない、その上違う世界だから、余計に蜀だの呉だの魏だのという事情はわからない、というわけか」
「それに加えてあの子の世界は恐らく平穏なのでしょう。敵意というものを見せない。代わりにその子供の兄が連れていたぽけもん殿が警戒を……」
ポケモン殿とは。そう四人が顔を見合わせる。
「一応徐庶殿とはそのあたりでは出来るだけ戦を避けることや、子供の様子を伺いにいくことなどの個人的な約束を取り決めてはいますが……」
荀攸は何かを考えて、「それにしてもやはり子供一人というのは何かと不便ですし……危ない気はします」と付け加えた。
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