ふえたほごしゃ



 ケイファの前にいるのは赤い服をきた男性である。子供? と首を傾げた男性にケイファは「こんにちは!」と挨拶した。青となれば最初にであった荀攸の国の色で、緑色となれば次に荀攸と喧嘩していた徐庶の国の色であるとは双方に教わったことではあるが、赤は見たことがない。

「おぉ、こんにちは。お嬢さんはこんなところで何を?」
「散歩!」
「散歩か。ここいらはちょっと物騒だぞ」

 丁寧にケイファの目線に屈んで見せた男性の言葉にケイファは「知ってる」とだけ返した。

「この辺りはケイファの家の近くだから停戦地帯って言ってた」
「停戦地帯……?」

 ケイファの発言に、男性――魚粛は「はて?」と首を傾げる。特に三国の間でそんな取り決めはない。よくよく見ると異民族の装いをしている。そこで魚粛は初めてケイファが見たことがない生き物を連れているのに気がついた。頭巾の中でぐうすか眠る丸い何かであったり、足元に座るのは虎のような何かだ。ふむ? と魚粛が考えていると、茂みが掻き分けられてまた別の男が現れる。

「ケイファ、ちょっと待ってくれ。こっちの方はまた違う国だから……あっ」
「お前は確か、蜀の……」

 そう言って魚粛は隠し持った武器を握る。別の男――徐庶も同じように隠し持った武器を握った。それを感じたのかケイファは顔を顰める。

「む、またもや喧嘩の気配。ダメだよ喧嘩は」

 ケイファがそう叱ると徐庶は困った顔をした。ケイファには徐庶達の都合は関係ないのだ。確かに徐庶には敵意がない。魚粛も平服を着ているあたりそうなのだろうと仮定する。徐庶は敵意はないのだと示すように武器から手を離した。

「貴方は確か、呉の魚粛殿ですね」
「あぁ。蜀の徐庶殿がなぜこんなところに? 戦の準備か、はたまた偵察か……」
「おじさん違うよ、徐兄はねぇ、私を心配して様子見に来てくれてるだけ」

 ケイファの発言に、魚粛は「様子を?」と子供を見下ろした。

「ケイファがあっちの方で一人で暮らしてるから、心配してくれるんだぁ。コータツさんも一緒」

 虎のような獅子のような動物を抱えながらケイファが言う。コータツとは、と考えたが、恐らくは先程の停戦云々という言葉から魏の誰かとは想像がつく。

「徐庶殿、詳しく話を聞いてもいいだろうか」

 これは話した方がいい。徐庶はそう判断してケイファを見下ろす。

「ケイファ、彼を連れて一度君の家に戻ろう」
「わかった〜、ガーディちゃん、戻ろう?」

 子供の促しに虎のような生き物は犬のように吠えるとケイファの腕からぴょんっと飛び出し、元きた道を引き返していく。警戒心は相変わらずまるでない。その後ろ姿を徐庶と魚粛は追った。まぁ、真っ直ぐ帰るなどと言うことはない。綺麗な花を摘んでみたり、見知らぬ果実だといいながらさくらんぼをつついてみたり、流石に毒がありそうな食べ物については徐庶がとめたが。

「あの子供は見慣れない動物を連れているな」
「えぇ、恐らく他の世界から来たのだと俺たちは仮定してます」
「俺たち?」
「魏の荀攸殿です。怪我をしたところをケイファに助けてもらったのだとか……色々俺もケイファと話してみましたが、他の世界というのがしっくりします。何より見たことのない生き物だらけですからね」
「ははん、停戦地帯というのは」
「魏と蜀、というより俺と荀攸殿の効力のない取り決めですね」

 そう苦笑いした徐庶に、ケイファはいつもの通り茂みをぬけた。まぁ、そこで見知った顔を見つけたのか、「あ! コータツさん!」と駆け出したが。そのあとを追って茂みを抜けたところで、魚粛は驚いた。この山の合間にこのようななだらかな平原は広がっていなかった。なにより、柵の内側にいるのが知らない生き物だらけだったからだ。

「これは……」
「ぽけもんというそうです」
「ぽけもん?」
「はい、なんで、もっ!?」

 何かが飛んできたかと思えば、徐庶の体に張り付いた。大きい虫のようにも見えるが、大きすぎる気もするし、なによりも見たことがない。緑色の菱形の羽を震わせたかとおもえば、その顔はニコリと笑っているようにも見える。徐庶はそれを剥がすと、飛竜、と少し恨めしそうにその生き物をみた。生き物はこたえるようににっこり笑って挨拶をしたが。

「飛……竜?」
「ああ、えっと、なんでも大きくなると竜になるとか」
「仙界の生き物か?」

 魚粛がそう言って生き物をみる。相変わらず長い尻尾を徐庶の体に巻き付けて背中のあたりに張り付いた生き物は嬉しそうだ。ケイファが青い平服をきた男性――荀攸をつれてくる。それを追いかけるように青い鳥――ココガラがついてきた。

「徐庶殿、相変わらずのようで……」
「ひりゅーは徐兄が大好きだからねー」

 ね? とケイファが問いかけると、飛竜と名付けられたポケモン――ビブラーバはにっこりとまた笑って羽を揺らして羽音をたてた。徐庶が頭を撫でてやれば気持ちよさそうにしている。なるほど、害があるわけではないらしい。荀攸は魚粛に向き直る。

「貴方は魚粛殿ですね」
「あぁ、魏の荀攸殿だな」
「はい。荀公達と申します。呉で最初にここにきたのが貴方でよかった。話は中でしましょう。ケイファ、家を借りても?」
「いいよ。ケイファはもうちょっと外できのみ畑の世話してるね」

 ケイファはそう言ってまた駆け出す。それを追ってビブラーバも青い鳥も宙に舞った。


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