徐庶と飛竜



「ひりゅーは徐兄のことが大好きだもんね」

 ケイファはそう言って徐庶から離れないビブラーバをみる。元はというと、なぜかひっくり返って動けなくなったナックラーを徐庶がひっくり返してあげたことがこんなにも懐いた原因だとケイファは思っているのだが、恐らく徐庶はその亀みたいな頭でっかちの生き物=飛竜と徐庶が名付けたビブラーバだとは理解していない。

「きっとひりゅーは徐兄と一緒にいたいんだよ。ねぇ?」

 そう尋ねたケイファにビブラーバは頷いた。そうしてくるくると徐庶の周りを羽ばたいて、すこし距離をとって地面に降りた。

「いやでも、俺だけ飛竜を連れて帰るわけには……」
「んん……あぁ、そっかー! 大丈夫だよ、ココガラはコータツさんが好きだし、ギョシュク殿もおんなじようにしてもらうし!」

 ケイファの説明に荀攸がそういう意味ではありませんと注釈を入れる。

「飛竜は俺たちの世界には存在しません。目立ってしまいます。危害を加えられる恐れもあります」
「大丈夫大丈夫」

 ケイファは箪笥から球体のものを取り出す。

「はい、徐兄、これ持ってー」
「えっ?」
「飛竜に向かって投げて〜」
「えっ? こうかい?」

 軽く球体――モンスターボールを投げればビブラーバぶつかった。するとビブラーバはボールに吸い込まれて、左右に揺れる。そうしてカチリと小気味が良い音を立ててボールは静止した。ケイファはそれを拾い上げると、徐庶にわたす。戸惑いながら受け取った徐庶に、ケイファは真ん中押してみてと言えば、徐庶は言われたように真ん中を押した。ポンッという音と共に再度現れたビブラーバに、三人は目を瞬いた。

「これはモンスターボールって言ってポケモンを持ち運ぶ時に使う道具だよ。一人六つしか持てないから、ケイファはたくさんいるから全員は移動出来ないけど。道中見つからないし、大丈夫大丈夫!」

 ケイファの言葉に徐庶は「ああ、うん、なるほど……?」と頷いた。荀攸がすかさず「徐庶殿、そういうところですよ」と突っ込んだ。



 恐ろしい生き物というわけではない。恐ろしい生き物というわけではないが、異形の生き物と言えば異形の生き物であるには違いなかった。徐庶はケイファを通して触れ合ったから恐ろしい生き物ではないと理解しているが、普通はそうではない。ケイファの感覚からすれば、犬や猫、馬や鳥や虫と同じような感覚なのだろうが。
 どうしたものか、と受け取ってしまった玉――モンスターボールを見つめていれば、「元直、どうかしましたか?」と背後から声がかかった。うわっと声を上げて、落としそうになったモンスターボールをなんとかキャッチした徐庶は振り返る。そこにいたのは諸葛亮と龐統である。

「孔明と士元か……驚かせないでくれ」
「驚くも何もあっしらは結構前からここにいたんだけどねぇ。えらく熱心に考えごとしてたね……やっぱり良い人ができたのかい?」

 そんな問いかけに徐庶は良い人……? と首をかしげる。そんなことはない。

「よく休みの日に出かけるようになったでしょう?」
「あぁ、それは違う。子供に会いに行ってるんだ」
「子供?」

 首を傾げた二人に徐庶は正直に告げるべきか悩む。荀攸は特に話すなとは言っていなかった。あそこに出入りする人が増えるのは構わないのだろう。ぽけもんが新手の妖魔と勘違いされる方が厄介です、とも言っていた。ケイファの生活に危害が出る方が問題なのだろう。

「実は国境のあたりに他の世界の子供が迷い込んできたみたいで、様子を見に行ってるんだ」
「国境あたり?」
「元の世界と場所が動いて……今は三国のちょうど真ん中のあたりだ。ほら、この間、魏の軍師がそのあたりを出入りしてるという話があっただろう?」

 その問いかけに、二人はああと納得する。孔明が徐庶に調べるように頼み、徐庶が魏の軍師は確かにいたが問題はないと報告していたはずである。

「魏の荀攸殿が最初その子供に助けられたみたいで、許昌に戻ってからも彼が一人で暮らす子供を気にして様子を見に行っていたようなんだ。それで俺も頼まれてしまったというか、流れというか……まぁ、俺も心配だから見に行ってるんだよ」
「保護はしないのですか?」
「本人が兄が帰ってくるかもしれないと言って移動はしたくないらしい。なによりも不思議な生き物をたくさんつれているから、移動は難しいしやめておこうという話になった」
「では、今は二人で?」
「魚粛殿も加わって三人だ。お互い休みの日に様子を見にいくことにしてる」

 徐庶の言葉に、龐統は「それでも心配だねぇ」と告げる。徐庶や荀攸、新しく魚粛が向かえるようになったとしても三人共に忙しい身だ。休みなど限られているのだ。無防備この上なく聞こえるし、徐庶も無防備だと思っている。

「武器を取り出すと子供に叱られるんだけど、聞かない人は聞かないだろうし……」
「……おや、元直、叱られたのかい?」
「叱られたよ。刃物は人間やぽけもんに向けるものじゃありません! ってね」
「こりゃまた平和な世界から来たんだねぇ」

 龐統の言葉に徐庶は頷く。子供が一人で暮らせるくらいには平和なのだと言えば二人は困った顔をしたが。この歪な世界もいくらか平和になったとはいえ、子供一人で暮らせるかと言われたら無理がある。

「不思議な生き物とは?」
「あぁ、えっと、みてみるかい? 一匹ならこの玉に入ってるんだけど」
「玉に」
「俺に懐いてるから一緒にいてあげてほしいと言われて」

 そう言って振り出しに戻る。徐庶はモンスターボールを見つめた。

「恐ろしい生き物ではないんだ。でも、見たことがない生き物だから連れて行けないとは言ったんだけど」
「元直のいうことは聞くのですか?」
「うん、まぁ」
「なら連れていてもいいんじゃないかい? どのみち説明はしなきゃいけないだろうさ」

 龐統の言葉に、徐庶は二人を見る。恐らく興味があるのだ。出してあげてもいいかな? と言えば、二人が頷いたので徐庶は習った通り真ん中をおした。ぽん、という音と共に現れたビブラーバは徐庶を見てにっこり笑う。

「巨大な虫……?」
「虫ではないらしい。大きくなると竜になるとか」

 パタパタと飛んでビブラーバは徐庶の前にやってくると、孔明と龐統を見てにっこり笑って挨拶をするように前足を上げて羽根を震わせた。

「おや、挨拶してるようだね」
「変なことを言うようだけど、本当に挨拶しているんだと思う」

 困ったように告げた徐庶は「挨拶できて偉いね」とビブラーバの頭を撫でてやれば、嬉しそうにしている。この生き物の名前はなんと? と聞いた諸葛亮に徐庶は「言いにくいから俺は飛竜と呼んでるよ」と答えた。

「あのあたりは妖魔もでます。子供一人では何かと大変でしょうし、劉備殿に説明しなんらか動いた方がいいでしょう」
「……うん、そうだね、そうするよ」

 徐庶はそう言ってビブラーバをボールに戻す。不思議な道具ですね、と告げた孔明に徐庶は使う本人もどうなっているのかよくわかってないのだと苦笑いしたのだけれど。


top