魚粛とガーディ


「仔虎、ですか……?」
「虎ではないらしい」

 確かに虎のような模様はあるのだが。魚粛の足元にちょこんと座っているのはケイファから預かっているガーディである。火を扱うがこちらが指示をしない限りは炎を扱うそぶりは見せない。魚粛の命令を待機している様はどちらかといえば忠実な犬のようにも思える。
 ケイファとならばコロコロ転がるように遊び回っていたのであるが。甘寧がガーディに合わせてかがめば、ガーディはバウ! と吠える。尻尾をゆらりと振ったガーディに、同じく屈んで様子をみていた孫策が口を開いた。

「お、その鳴き声は、犬か!」
「いや、犬でもない」
「犬でも?」

 周瑜はそう言って魚粛をみる。孫策にワシワシと撫でられたガーディは遊んでもらえると思ったのか、尻尾を振った。球を投げると喜んで取りに行くからと渡されていた玉を魚粛が投げてやれば、ガーディは駆け出してそれをうまい具合に口でとってみせた。おお、と歓声を上げた周りにガーディは得意げに戻ってくる。孫策が同じように投げれば同じように駆け出して取りに向かった。それをみながら魚粛は孫権や周瑜、孫堅や古参に説明するために口を開く。

「三国の国境あたりにまた異なった世から人間が迷い込んだようでしてな。魏や蜀にも同じように獣を渡すから、俺にもと言われてしまった」
「魏や蜀にも……?」
「他の国に通じていると言うよりはあそこ一体はしばらく穏やかだろう」
「そのものが他の国に加勢する可能性は?」
「いや、ないでしょう。なにしろ、迷い込んできたのは奇妙な生き物をたくさんつれた子供ですからな」

 はっはっはっ、と笑いながら魚粛が言えば、子供? と孫堅達は魚粛をみる。

「子供なら保護しなくていいのか? あの一帯はよく戦地にもなる。危険だろう」
「兄が帰ってくるかもしれぬと意地でも動かないようでして。奇妙な生き物を連れているが故に変に動かさない方がいいということで魏の荀攸殿や蜀の徐庶殿と見解が一致、お互い休みの日に様子を見に行くと言う話に落ち着きました。まぁ、何か争うそぶりを見せれば子供が叱る」
「子供が?」

 ふふ、と笑いながら告げた孫堅に魚粛が肩をすくめた。

「子供の世界では刃物は人やこの獣に向けるものではないらしい」
「む……ならばどうやって身を守るというのだ」
「いや、権、逆にそうしなくてもいいほど平和なんだろう」
「それもありそうですが、なにより、この獣と共に生きるからこそでしょう」

 魚粛の言葉に、周りは首をかしげる。

「火や水を吹いたり、木の葉を操ってみせたり……なにぶん興味深いものです。争い事はこの獣と人間が一緒に争い……最後には仲直りの握手をして讃えあうとか」
「ということはこの獣も?」
「賢いので指示しなければ火を噴かないそうですが。まぁ、子供曰く、ひのこぐらいだから竈門に火をつける時に良いとか」

 ははは、と笑いながら魚粛が告げる。火、と繰り返した周りに「おっと、火計には使うなよ。預かり物だからな」と魚粛がサラリと釘を刺した。



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