二人目の怪盗-7-
さて、戻された自画像についているカードには快斗くんの言うように『(りっしん編が)跳ねてる方』のマークが書かれていた。――すなわち本物からのメッセージカードである。飛んだ茶番劇だ、今度は本物が盗みに来る、と書かれたそれに眉間に皺を寄せた。タイミングがいいとは言えない。
「なるほど、本物ですね」
「まぁー、アレだけおちょくられてたら本物が乗り込んでくるとは思うぜ」
快斗くんの説明に、それはそうだ、と思う。私たちの発言に本物? と首を傾げたはじめちゃんに、言うべきかを考える。
「うーん……今ちょっといっぱい考えてるから待ってもらっていい?」
「珍しいな、アキがそこまで考えてんの」
「ちょっと引っかかってるというか……」
私の返答に美雪ちゃんやさくらちゃんは不思議そうにした。
「何か協力出来ることがあったら、言ってね」
さくらちゃんの言葉に私はありがとうと頷いて――少し考える。そういえば、だ。私は小さな声でさくらちゃんに尋ねる。
「さくらちゃんの育てのお父さんがいなくなったのって、何年前だっけ?」
「? 五年前よ」
ぱちん、とパズルのピースがはまる。
――どこかで聞いたことがあると思えば、ここだ。
五年前から、蒲生剛三の画風は変わり高く評価されるようになった。
五年前、さくらちゃんの養父は失踪した。
最近まで絵を描いていた吉良さんのペンだこは硬いまま。
蒲生剛三のペンだこの皮膚は柔らかくなっている。
蒲生剛三は絵を描かなくなって籠るのをやめた。
蒲生剛三が絵を描かなくなって解放されたアトリエ。
――何故、偽物の怪盗紳士が国際コンクールにさくらちゃんの絵を送りつけなければならなかったのか。
蒲生剛三がかきあげた今までの絵画が、違う人物が描いた絵なのだと証明するためならば、送りつけた時点で違う人物が描いた絵だと告げればいい。それだけで話題になるはずなのだ。
――では、何故そんなに曲がりくどいことをしたのか。
こうは考えられないだろか。蒲生剛三のアトリエに入り込むために作品をコンクールに送った、と。送り付けた人物の思惑通りに蒲生剛三は行動し、その人物は見事に入り込んだのだ。逆にいえば、そうするしか有名な画家の近くに入り込む余地がなかったのだろう。入り込んだ末に起こることとなれば多くはないし、目的も察することがたやすい。お金のためか、真実を暴くためか、それとも――殺すためか。
殺すためとなれば、自ずと被害者になるだろう人物も犯人になるだろう人物も特定されることになる。
いや、全ては私の推測だ。まだ根拠も証拠もない。ただ、すべての事柄が綺麗に線になる。
そう考えるように誘導している? そうは考えにくい。
――高遠さんは。高遠さんなら。
きっと見守る。頼まれれば知恵を授けるだろう。
まぁ、知恵を授けてもこれだけの役者が揃っている中であればその人物が失敗する可能性は高く、きっとその人物は不出来な人形として彼に始末されるだろうが。
――果たして本当に殺すことが彼らを地獄に落とすことになるのだろうか。
幕が開いているこれは確かに復讐劇だ。それが悲劇で終わろうと喜劇で終わろうと、悲しい背景がある復讐には変わりない。恐らく私がまだ知らないピースが何かある。復讐を決意するような。
――でも、殺すことが正しいのか。
殺してしまえば、作品は蒲生剛三の名前のままのである。真の作者は恐らくは無名のままになってしまうのだ。
――いやでも肩を持ってしまうのは、数多の人のように他人ではないからだろう。
彼女が抱いた寂しさは、かつて私が抱いていたそれに似ていた。だから少しだけ気にかけた。放っておけばいいものの。