二人目の怪盗-10-
犯人達がいない隙に、とはいうが、恐らく扉の近くで聞いているだろう。羽沢さんが「信じられませんが」とあくまでワンクッション置いた上で口を開く。
「……一番真実がはっきりするのは貴方の父上がかいた絵と蒲生先生の絵を筆跡鑑定することではあります」
「青い目の嬢ちゃんの家にあるんだろう。さっさとやればいい」
吉良さんが眉間に皺を寄せながら告げる。あの馬鹿め、とつぶやいた彼は何処かで蒲生剛三が描いたものと信じていたのかもしれない。醍醐さんは腰に手を当てて口を開いた。
「間違いなくこれはスクープね、新聞の一面も夢じゃないわ」
「アンタは美術雑誌の記者だろ」
さっくりと突っ込んだ快斗くんに、あら、記事を売りつけたら狙えるでしょ? ネットニュースもあるんだし、と彼女は笑った。まぁしかし、そんな会話も扉が開く音で終わる。そこにいたのは蒲生剛三だ。さくらちゃんはびくりと肩を揺らした。
「おい小娘、さっきからなんだその口ぶりは! 探偵だかなんだか知らないが、名誉毀損で訴えてやってもいいんだぞ! さくら、お前もだ!」
そう言った彼に両手をあげる。はじめちゃんと美雪ちゃんがさりげなくさくらちゃんの前にたった。
「生憎私は奇術師ですから、探偵ではありませんよ。探偵役は他にいます。さくらちゃんに関しては、貴方にお心当たりがあるのでは?」
私は首を傾げた。彼は「あるわけがない!」と杖を振り回して叫ぶ。
「ここにあるのは俺が描いた絵だ!」
「ならここで描いて見せたらどうだ」
吉良さんが冷めた顔でそう告げる。蒲生剛三が言葉を詰まらせた。私はそれを見て口を開く。
「貴方が作者ならちょうどいいです。こちらにある絵のモデルは間違いなく私の父と母でしょう。私の父はこの絵を描いた方を探しています」
私の言葉に彼は眉間に皺をよせた。私は彼の後ろ側、即ち扉側に歩いてむかい、逃げ道をなくす。蒲生剛三の隣にいた海津さんが何かをポケットにいれながら、二人は私に背中を向けないように中心方向へと向いた。
「は?」
「なんでも、家にある貴方の作品に合わせてもう二点同じサイズで同じ題材で描いて欲しいのだとか。あとは絵画の権利がどうだとか言っていましたが」
少し考えるふりをする。彼は動きを止める。身に覚えがないのだろう。あたりまえだ。
「また、描いていただけますよね? 父親はお金はありますから金額は何億でもきっと払うでしょう」
「何億だと……!?」
呼び鈴がなる。小宮さんが向かおうとして、蒲生剛三が無視しろといった。手のひらをみせるな。私はポーカーフェイスで彼を見た。
「この前会った時は小切手を常備していたので、すぐに大金は貴方にわたることになります。いかがですか?」
「ぐ……」
「それとも、描けないと? 見たところ手を怪我されたわけでも、筆が握れないほど握力がないわけでもない。吉良先生の言うように、貴方が疑いを晴らす一番いい方法は描くことです。模写ではなく、新作をね」
ある意味でタイミングがいい人である。さて、ここまで突っ込んでおいたが私は幕を下ろすべきだろう。私は探偵ではない。私は彼に笑みを向ける。
「まぁ、貴方が本人であろうが偽物であろうと私は別に構いませんが。父と商談の前に、貴方にひとつだけ尋ねましょう」
私はそう言って人差し指を立てた。
「父親の口ぶりから言えば貴方と私の父は旧友であり、だから貴方に本の挿絵を頼んだ。では、そんな2人の友情の証しのような――私の父が著作し、貴方が挿絵を手がけた本のタイトルは?」
彼は言わない。何も言えない。当たり前だ。彼が描いたわけでもない。初版本のみに使われたその挿絵はよほどのファンでなければ知らない。
蒲生剛三は、沈黙の上ようやく絞り出したのが、そんな有名でも何でもない作家の名前など知らん!! である。
――足音が扉の前でとまる。
「私が描いてやったのに、奴は売れなかった! 誰も知らないだろう! それが証拠だ!」
「……だ、そうですよ、売れない作家さん?」
そう告げて扉を開く。扉の前には父親がいた。