二人目の怪盗-11-



 扉の先にいたのは仮面をつけた父親――作者近影の姿である。彼はサラッと、「それはかのコナン・ドイル達に比べればそうだろうな」と告げると、扉にもたれかかった。

「――ちょっと! 飯塚龍一じゃない!」

 記者である醍醐さんがちょっと苦々しげに口を開く。飯塚龍一だと、と告げた周りは騒然となる。父親は醍醐さんをチラッと見た。

「飯塚龍一ってことは……アキのおっちゃん!?」
「アキちゃんのお父さん!?」

 はじめちゃんとみゆきちゃんが口を開く。父親はそれを見て仮面を外した。

「お初にお目にかかる。俺は飯塚龍一、この娘の父親だ」
「……!」
「娘はいくらか賢いとは思っていたのだが、こうも無礼を働くとは思っていなかった。親として謝罪しよう」

 言葉だけだ。そこに誠意などない。蒲生剛三は飯塚龍一の登場に驚いて何も言わない。父親は飾られた絵画を見回りながら口を開いた。

「さて、蒲生剛三。俺の依頼を貴方が引き受ける前にいくつか話しておこう。お前たちにとって、良い話が一つ、悪い話が二つ、いや、三つ……どれから聞きたい?」
「なんの話だ」
「とぼけるならそれはそれで結構。さて、良い話だが――おめでとう、貴方の持つ絵画の値はあがるだろう。更なる評価が上乗せされる」

 父親は簡素にそう告げる。

「だが、悪い話を総括すれば、お前達の名誉は地の底まで落ちるだろう」
「なんだと?」
「波照間島にもう沖縄県警が向かっている。病院の診療録の開示、他医師や看護婦の証言も集まっている頃だ。夜逃げするなら今だと思うが、まぁとぼけたままでいるのではあればそれでいい。明日には怪盗紳士の為に用意された警察ではなく、貴方のために用意された警察とFBIが到着する」

 父親の言葉に、なんでFBIまで? と苦々しく醍醐さんが告げた。

「蒲生剛三の絵を買い付けた美術館は?」
「著名でしたらメトロポリタン美術館などがありますが……」

 父親の問いかけに羽沢さんがそう答える。

「彼らにはアメリカにいる妻が、アメリカの家に飾ってある絵を持って鑑定に行った」
「では、FBIが動いているということは」
「ゴーストペインターがいた、と判定された」
「FBIは貴方と一緒に来日したの?」
「いいや? よく知らないが、別件で来ているチームを動かすようだな。俺と特別仲がいいチームではないさ」

 醍醐さんの問いかけに答えた父親はもう一度蒲生剛三をみる。はじめちゃんとおなじような、まっすぐな目で。

「さて、貴方の地位は墜落する時は近い。映画となったキーン夫妻の夫のように。名画を描く国際的に評価された画家から国際的な詐欺師へと落ちる。待っているのは多額の賠償と牢屋だ。詐欺罪、殺人罪、海外への面目がある。刑事告訴は免れられない」

 淡々と、無情に、声に表情を載せずに。父親は蒲生剛三を追い詰める。それに対し、蒲生剛三の顔色は悪くなるばかりだ。

「蒲生剛三、貴方が国際的な詐欺師である証拠は出揃っている。間も無く、貴方達の監禁罪や殺人罪の証拠も出揃うだろう。現実は小説のようにはうまくいかない」

 その言葉に、蒲生剛三が崩れ落ちた。海津さんがちょっと! と彼の腕を引いた。ふむ、このパターンならば。私は手袋をはめる。快斗くんがチラッと何かを取り出しかけて――私をみてやめた。何かをぼやいた蒲生剛三に、海津さんがポケットから先ほど隠した何かを取り出そうとする。私は海津さんの手を掴んだ。

「海津さん、これは今必要ないのでは?」

 そう言って注射器をラベンダーに変えておいた。まぁ、こちらに向かってきた海津さんははじめちゃんが足を出して転倒させたけれど。

「あ! 悪い! 海津さん、危ないだろ、急に走り出すなんて……」

 転倒した海津さんに、快斗くんが奇術用の手錠を取り出すのと、私が同じような手錠を取り出すのはほとんど同時だった。

「ほらよ、仲良く御用ってことで」