二人目の怪盗-12-



 蒲生剛三と海津さんが連行されていくのを見送り、私は飾られていた絵画――親子が描かれた絵画をみる。落ち着いてから思い出したが――ヒャクニチソウの花言葉は「遠い友を思う」または「不在の友を思う」だ。おそらく、さくらちゃんのお父さんはあの父親に助けを願ったのではないか。今の状況からどこか遠くにいる『飯塚龍一』が助けてくれることを。それとも、謎を解いてくれることを。今はもう分かりはしないけれど。

「アキちゃん、ここにいたのね」

 呼びかけられた声に「うん」と返す。隣にやってきたさくらちゃんは同じように絵画を見上げたらしい。

「アキちゃんのお父さんは不思議な人ね」
「死神体質なだけだよ。きっと、さくらちゃんのお父さんはそれに巻き込まれた」

 私の返答に彼女は「だから」と呟いた。

「俺を恨めって言われたのかしら」
「――ここに書かれているヒャクニチソウの花言葉」

 私の言葉にさくらちゃんは知っているわ、と告げる。

「不在の友を思う、でしょう? さっきアキちゃんのお父さんから聞いたの。私のお父さんはきっと自分に助けを求めていたはずなんだって」

 どうやら彼はおなじような結論をだしているらしい。まぁ、そうとしか思えないものである。

「……でもね、わたし、違うと思うの」
「どうして?」
「だって、私のお父さんがアキちゃんのお父さんの話をするとき、いつも楽しそうだったのを覚えてるわ。アイツは事件を引っ提げてくる、仕方のないやつなんだ、ってね。それに、この絵がおどろおどろしい絵じゃないから。きっと、私のお父さんはあの人を恨んだりしてないのよ」

 そう言ったさくらちゃんをみる。その横顔はどこか悲しげだ。言い聞かせているような。それもそうだろう。何故ならこの結果は彼女の無名であった彼女の父親の名誉を与え、あの蒲生剛三から名声を排除しただけだ。彼女の殺したいほどの恨みも悲しみも晴らされていない。
 はたして、この結果に彼女は救われたのだろうか。彼女の表情を見るに、ちがうのではないだろうか。この結果は私の独りよがりだ。私は目を伏せる。

「――余計なことをしてしまいましたね」
「え?」

 彼女は恐らく絵画から私に視線を向けた。

「あの時は濁しましたが……貴方の計画は、蒲生剛三や海津さんが描かれた絵を盗み、モチーフである彼らを殺すこと。怪盗紳士のオマージュです。恐らくはそれなりにトリックも準備していたはず。貴方の殺したいほどの恨みはきっとあんなことでは晴らされてない」

 私はさくらちゃんをみた。ようやくあった視線に、私は笑みを浮かべる。

「もし、貴方が本当に復讐をされたいなら、しかるべき方に紹介できますよ」

 高遠さんなら相手がどこにいようが、きっとうまく誘導できる。こんなことならば最初から――彼女が蒲生剛三の娘だと公表された時に彼に話を持ちかけておけばよかった。そうすれば、きっと、彼女は本当に救われたはずなのだ。
 彼女はその言葉に目を伏せて、「ううん」と首を左右に振った。

「もういいのよ。ここにある絵はお父さんのものだって世間に認められるし――アキちゃんたちが言ってたみたいに、あの二人にはふさわしい罰が下されるわ。だから、もういいの」

 明るい口調の言葉ではある。でも、無理して明るく言っている声だ。私はその言葉に、そうですか、と返してまた絵画をみる。私は何も慰める言葉がない。これがはじめちゃんならなんていうのだろう。快斗くんや、コナンくん、ヤマトなら?

「……きっと、」
「うん」
「私の父やはじめちゃんが来たのは、きっと貴方のお父さんが貴方を止めるためだったんですよ」
「――うん」
「貴方のお父さん達は、きっと貴方の幸せを誰よりも願ってる」

 世間で多くいる幸せな家庭の親はそう願っていると物語ではよくそう書かれる。この言葉はきっと誰かへの慰めになるのだろう。かつての私たちには慰めにもならない言葉だったはずなのに、彼女は小さく嗚咽を漏らした。