二人目の怪盗-14-




 なるほど、怪盗紳士が置いていった絵画は彼女の髪が短くなっている。すり替えられた絵に描かれた髪の短くなった彼女は何処かであったことがあるような気が確かにした。ちなみにはじめちゃんは見事に本物をみつけ、本物と模写をすり替え終えている。

「さくらちゃんの髪が切られちゃうのかな?」

 そう尋ねれば、彼女は自分の髪を摘む。

「うーん、頑張って伸ばしたんだけどな」

 さくらちゃんの声に、短いのも似合うと思う、と返そうとすれば、後ろから知らない手――しなやかな女性の手が伸びてきた。きゃっ、と二人で声を上げて振り返る。そこにいたのは醍醐さんである。

「あら、短いのも似合うんじゃないかしら?」
「醍醐さん……?」
「怪盗紳士さん、ですね」

 私の問いかけに彼女は「あら、わかってたの?」とおちゃらけた声を出した。

「飯塚龍一が来た時、嫌そうな顔をしてましたから」
「そうよ、あの男、私たちの事件にはノータッチなんだけど、違う事件を引っ提げてくるから厄介なの」
「では、貴方も死神くんと?」
「呼ばないわよ。何処かの白い怪盗さんじゃあるまいし、私は怒られちゃうわ」

 肩をすくめた彼女はそのままさくらちゃんの髪をすいた。

「失恋した女の子は髪を切るって言うけれど……髪を切ることが何かの踏ん切りにはなると思わない?」
「気持ちの切り替えにはなると思いますが……」

 そう私は返す。あれは個人の意思できるものではないだろうか。さくらちゃんは、怪盗紳士の言葉に何か考えて――切ってください、と怪盗紳士をみた。

「さくらちゃん」
「だって、たしかにこのままウジウジしてたら何もはじまらないもの」
「じゃあ、とびっきり美人にしなきゃね」

 怪盗紳士が彼女の髪に鋏を入れる。私はただそれを見つめる。器用な手だ。彼女の髪はあの肖像画のように短くなっていく。まるで美容師の様だ。ほら、肖像画くらいの短さよ、と告げた怪盗紳士がハンカチをさくらちゃんの口にあてる。そうして寝息を立てたさくらちゃんに怪盗紳士は私を見た。

「……貴方、私を捕まえるために来たのに捕まえないし、お友達を眠らせるのも止めもしないのね」
「私は確かに捕まえる協力をして欲しいとは頼まれましたが、探偵ではありません。探偵役がいないのであれば考えましたが、今回はぴったりな探偵役はいますしね。貴方がさくらちゃんや私に危害を加える気がないのもわかります」

 はじめちゃんと美雪ちゃんがいるなら、奇術師が出しゃばることでもない。快斗くんも恐らくはそう思っているのだろう。助言はするが基本的に手を出していない。少し楽しそうではあったけれど。それに危害を加える気があるならば、私も含めて最初から眠らせてしまえばよかったはなしだ。怪盗紳士はクスクスと笑う。

「貴方、お父さんに似てるって言われないかしら?」
「生憎、似るほど父とは関わりはありませんので」
「貴方の家族の事情は知らないけれど、そういうところも本当にそっくりだわ。どう? 一緒に怪盗業でもしてみる? 貴方なら事件をひっつけてこないし上手くやれる気がするわ」
「……せっかくのお誘いですが、お断りいたします」

 そう言って首を左右にふって、目を伏せる。

「私には、一緒にいたい人がいるので」

 共犯者となっても。そばにいたい人がいる。

「そう、残念ね。気が変わったら教えてほしいわ」

 怪盗紳士はそう言って私に近づくと、さくらちゃんと同じように口元にハンカチをあてた。私の意識は暗くなる。2回目だなぁ、と、頭の片隅で思いながら目を伏せた。