二人目の怪盗-15-




「嫌です」

 そうバッサリと告げる。父親と一緒に帰らないのか? と聞いた剣持刑事に対する返答がこれだ。睡眠薬で眠らされた後はどうしても頭がぼんやりとする、というか不快感がすごい。どうやら私が眠っている間に怪盗紳士ははじめちゃんと快斗君の工作に気づかずに、そのまま模写を持って行ってしまったらしい。敬語になるくらい嫌なのね、と告げた美雪ちゃんに、はじめちゃんが首を傾げた。

「なんで? 帰る場所は一緒だろ?」
「絶対嫌です。あの人行く先々で事件が起こるんで海外でも死神扱いされるくらいなんですよ。露西亜館を思い出してください。この前もヤマトに言われて仕方なく一緒に海外から帰宅しましたが、事件がおこりましたし。そんな人と帰ってみてください。絶対事件に巻き込まれます」

 私の言葉に、美雪ちゃんが、あら、はじめちゃんと同じね、と告げた。はじめちゃんが肩を落とす。うーん、はじめちゃんも自覚があるらしい。まぁヤマトにも死神死神言われているのだ。恐らくは仕方ない。快斗くんがそれをみて口を開く。

「金田一も?」
「そうなのよ、はじめちゃんと何処かへ行くとよく事件が起こるわ」
「苦労してんだな、金田一」

 そう言って快斗くんははじめちゃんの肩を叩く。はじめちゃんはますます肩を落とした。はじめちゃんと父親を比べるのは度が違いすぎる。説明するために口を開いた。

「あの人ははじめちゃんの比じゃないです。度がすぎるほどの不運体質に巻き込まれ体質です。話を聞くに巻き込まれるのは殺人事件だけじゃないですし」
「それは……」
「あの人の昔馴染み達がつけたあだ名何か知ってます? 死神くんですよ」

 私の言葉に、死神くん、と周りの視線が私の後ろに向く。そちらを見れば父親である。頭を抱えているようだが無視だ。父親に連れられてきたのだろう、同じく目を覚ましたらしい――恐らく彼女の場合警察に聴取があったと思われる――さくらちゃんは父親と私を交互に見た。コソッと美雪ちゃんが「……アキちゃん、謝った方がいいんじゃ?」と告げたが謝る理由などない。事実である。父親はため息をつくと、はじめちゃん達を見た。

「改めていつも娘が世話になっている。父親の飯塚龍一だ」
「いやー、お世話してます」
「なにいってるの、はじめちゃん! 私達がお世話になってるでしょ!」

 突っ込んだ美雪ちゃんははじめちゃんは頭をはたく。はじめちゃんがイテッと声を上げた。

「私は七瀬美雪です、こちらが金田一一です。アキちゃんにはいつもお世話になっていて……」
「……七瀬に金田一……というと、君たちは近所だな」
「はい」

 美雪ちゃんはそう笑顔で頷いた。父親ははじめちゃんをみると、口を開いた。

「君のお祖父さんは元気にしているだろうか?」
「え? まぁ、はい」
「そうか、昔俺も君のお祖父さんには世話になったことがある」

 じっちゃんに? と首を傾げたはじめちゃんであるが、父親はそれ以上答えるつもりはないのだろう。そのまま快斗くんをみる。

「俺は黒羽快斗。アキのマジック友達」

 その言葉に、父親はなんとも言えない顔をした。えっと? と首を傾げた快斗くんに、父親は「いや」と話を切り上げて何も言わないつもりだろう。

「説明したらどうです?」
「……君の父親には頭を悩ませている」
「えっ?」
「説明が少なすぎる。近宮先生と知り合いだったんですから、どうせ黒羽先生とも知り合いなんでしょう」

 私がそう言えば、父親はなんとも言えない顔をした。

「言っておくが、玲子にしろ盗一にしろ、快斗少年にしろお前も会ったことはあるぞ。お嬢さんの記憶と一緒で忘れているだけだ」

 その言葉に首をかしげる。私にはやはり記憶がないそれである。

「国際マジックショーで、周りのマジシャンを魔法使いと魔女だと信じたお前が迷子になった」

 父親の言葉に、美雪ちゃんが「あら」と声を上げ、さくらちゃんが信じそうと頷いた。うっ。はじめちゃんも、何か昔を思い出したのか、「ああー、俺の手品もすきだったもんな」と声を上げる。マジックは確かに好きであるし、高遠さんにも魔法使いかどうか聞いた記憶がほんのりある。しかしながら、快斗くんだけが少し違う反応をみせた。

「……あっ!! えっ!? はっ!!? 確かに、父さんが言ってた死神くんと目が青い迷子!!」

 快斗くんは私と父親を指差す。その様子に私が首を傾げれば、彼は口を開く。

「あん時の! 迷子!? は? あれアキだったのか!? うそだろ!」

 快斗くんは私を上から下まで眺める。父親がぼそっと「問題児コンビの片割れには記憶があるのか」とぼやくのが聞こえる。問題児コンビとは。いまだに何か目を白黒とさせている快斗くんをどうどうと落ち着かせる。美雪ちゃんが父親に向かって声をかけた。

「はじめちゃんも行く先々で事件が起こるんです。何かいい案はありますか?」

 そう尋ねた美雪ちゃんに、父親が「君が?」と首を傾げてはじめちゃんを見た。いやぁ、あはは、と笑ったはじめちゃんに、父親は少し考える。

「――君が事件を呼んでいるのではなく、誰かに解かれたい事件が君を呼んでいる」

 父親はそうただまっすぐにはじめちゃんをみた。はじめちゃんは「えっ?」と小さく声を上げる。

「俺が君くらいの年のころ、君のお祖父さんに言われた言葉だ」
「……じっちゃんに?」

 はじめちゃんの問いかけに、父親は何かを――昔の記憶を辿るように目を伏せて、ああ、と小さく頷いた。

「あぁ。こうも言われたな。――真実を暴くことの多くは誰かを傷つけることではあるが、暴くことと解き明かすことは似て非なることだ。後者は誰かを傷つけることではない。真実を解き明かすことによって救われる人間もいる」

 父親はそう言ってもう一度はじめちゃんをみた。

「――今まで君が暴いてきた人たちの多くは後者だろう。君は誰も救えないのではない。誰かを間接的に殺してなどもいない。隠された真実に寄り添って誰かを救えるのは、解かれたがった謎を解くものだけだ。それに早いや遅いなんで関係はない」
「飯塚先生」

 警察が父親を呼ぶ。父親はそれにひらりと手を振って「すぐそちらに向かう」と告げると、言葉を続けた。

「まぁ、どちらにせよ、君も俺もナイトバロンやその息子のように進んで巻き込まれるのではなく――、自分が巻き込まれた時だけ謎をとく。その限りは君は名探偵ではなく、ただの高校生だ。俺がただの推理小説家であるようにな」

 そう言って父親は私に先に帰ってなさいと親らしい言葉を吐いて、私たちに背を向ける。しかしながら、何かが思い浮かんだのだろう。

「あと、俺の経験上、謎を吹っかけてくる奴と謎を進んで解きたがる奴には気をつけた方がいい。何かと面倒だ」

 それだけいうと父親は警察とまた合流した。なんか、アキちゃんのお父さんって感じね、とは美雪ちゃんの言葉である。どこをどう感じ取ってそう思ったのかは謎でしかない。はじめちゃんがかなり困ったような顔で口を開いた。

「すでに目をつけられてる場合はどうしたらいいんだよ」

 多分、はじめちゃんにとっては謎をふっかけてくる人物は高遠さんのことだろう。私はとりあえず心配そうな表情を浮かべておく。まぁはじめちゃんに至ってはどう転んでも大丈夫だとは思うが。美雪ちゃんがもう一方を訪ねる。

「はじめちゃん、謎を進んで解きたがる人物に心当たりはないの?」
「明智警視とか?」

 私はそう言って首をかしげる。しかしまぁ、明智警視は仕事上関わるのであって個人ではやらないかもしれないが。「あの子がアキかぁ」とぼやいていた快斗くんがその言葉にはじめちゃんをみた。

「あれ? 金田一、工藤新一とか白馬探達に関わりないのか?」
「工藤新一? 白馬探? 誰だそれ」
「確か、有名な高校生探偵ね!」

 美雪ちゃんがそうつげる。さくらちゃんも、ああ、確か、と口を開いた。

「工藤くんは推理小説家の工藤優作先生と女優の工藤有希子さんの息子よね?」
「そうそう」

 工藤新一、確か蘭ちゃんの幼馴染みだったはずである。有名だったらしい。それにしても、工藤とはどこかで聞いたことがあるような。ふむ、と考えていれば、快斗くんは快斗くんで「へぇ、関わりないんだなぁ」とぼやく。

「多分同い年だし、金田一にとっての前者はそいつらだと思ったんだけど」
「あとは、ヤマトのお友達の小さな名探偵くらいですかね」

 私の発言に、はじめちゃんはなんとも言えない顔をして、小学生なら関わることはないだろ、と息を吐いた。

「ヤマトの友達ってことは米花だろ? 米花と不動は少し距離があるし」

 快斗くんが、だな、と頷いたが、そのうち関わりそうな気がするのは私だけだろうか。