二人目の怪盗-16-
「本当にある……」
そう言ってアルバムにしまわれた写真をみる。そこにある写真は私の記憶にないものばかりで、だから恐らく両親は分かりにくい場所に隠していたのだろうとわかった。めくってみても、本当に覚えていない写真ばかりだ。さくらちゃんと私が遊んでいる写真もあった。私が知っているのは高遠さんと写っている写真ばかりなのである。それ以前の写真など存在しないと思っていた。叔父と写った写真もあれば、家族で写っている写真もある。マジシャンと写っているような写真も何枚かまとめられていて、その中にその写真はあった。快斗くんが帰りに「絶対写真がある!」といってはじめちゃんとみゆきちゃんと彼の家にお邪魔してみたが、両親を知る彼の母親が私の家にもあるはずだと告げたのだ。
――父親と私、快斗くんと黒羽盗一。そして――。
「おや? その写真は?」
「きゃっ」
耳元でいきなり聞こえた声に小さく悲鳴を上げて振り返る。そこにいたのは高遠さんだ。どうやら仕事を終えて帰ってきたようだ。
「高遠さん、おかえりなさい」
「ただいま、アキ。それは?」
そう言って指差したアルバムに私は恥ずかしくなって閉じようとするが、彼はそれを許さなかった。
「昔の……」
「昔の?」
「遙一くんに会う前に撮られたと思われる写真です。両親が隠していたようで……」
そう言えば、彼は「アキが置いていかれる前の?」と尋ねた。私はそれに頷く。マジシャンばかりですね、と告げた彼に私はなんとも言えなくなる。
「木下吉郎……九十九元康……これはミスター正影」
彼の指は写真のマジシャン達をなぞっていく。そうして最後、その写真に指を向けた。
「黒羽先生と、母、ですか」
そう、その写真には私と父親、黒羽先生と快斗くん、近宮先生が写っている。私は鳩を抱えて満面の笑みを浮かべて。
「……覚えてないんです。どんな会話をしたのか、何故私がそこにいたのか」
「この写真のアキはどれも幼いですから、仕方のないことですよ。それに君の父親と私の母親が知り合いだとは以前聞いていましたから、何処かのタイミングで会ったのでは?」
高遠さんはそう言って気にしないというふうに私の髪をすく。私はアルバムを見ながら口を開いた。
「私は高遠さんのマジックと、高遠さんと一緒に行った奇術師のマジックしか覚えてません」
それはそれで私は良いのだが、少し残念ではある気はする。当時世界を圧巻していた木下さんのマジックなど、見てみたかったかもしれない。参考になるだろう。まぁ、この集合写真を撮るときにはもう彼は亡くなっているのであるが。
「それは嬉しい限りだ」
高遠さんはふっと笑って、私の後ろからアルバムをかすめとる。私が慌てて取り返そうとすれば、まぁ、身長が高い彼に弄ばれる形になる上に、最終的にバランスを崩した私は彼に抱きつく形になったのだが。高遠さんが、ゆっくりと私の背に手を回す。安心する。アキ、と呼ばれた名前に彼を見上げる。
――タイミングが悪いといえば。
「何やってんだ高遠」
「おや、おかえりなさい、ヤマトくん。もうちょっと眺めていてくれてもよかったんですよ?」
ヤマトが歩いてくると固まる私と高遠さんの間に割り込む。おっと、と言いながらも少し
「その様子ではキャンプですか。どちらまで?」
「波照間島で天体観測」
「波照間島……と、いえば、南十字座ですか」
「おー。でも、父親に仕事振られてキレそうだった。目的達成できたからよかったものの」
そう言ったヤマトはお土産を取り出す。きちんと私と高遠さんの分まで買ってきてくれるヤマトはいい子なのだが。
「ごめんなさい、ヤマト。その事件、私も一枚噛んでいたと言いますか……」
「は?」
ヤマトが首をかしげる。高遠さんが同じく少し不思議そうに私を見た。それもそうだ。ヤマトのキャンプより後に私は青森に向かったし、高遠さんの手伝いというわけでもない。
「キッドに対していい立ち回りをするヤマトも高遠さんもいないので……」
「え!! キッドの予告状あったっけ!」
「いえ、中森警部から、怪盗紳士の相談をうけて……二人がいないので……」
「あぁ、それで黒羽先生の息子と?」
そう言った高遠さんに私は彼をみる。なんで知っているのだろう、と見つめていれば、彼は「駅で見かけたので」とすんなり告げた。ヤマトは怪盗紳士? 南十字座? と何か疑問に思ったらしい。ふむ、と考える。
「その後金田一くん達と四人で移動されていましたが」
「快斗くんが家に幼い私が写った写真があるんだって言って見に行ったんです。そしたら家にもあるんじゃないかって言われて」
「それでこれを見つけたわけですか」
高遠さんの言葉に頷く。何か考えていたヤマトは高遠さんの手にあるアルバムをみた。
「何それ?」
「アキが君くらい……いえ、もう少し下くらいの時のアルバムです」
「え、普通にみたい」
「見なくていいです」
そう言ってまた取り返そうと手を伸ばす。高遠さんはアルバムをどこからか取り出した布を被せて――消した、ようにみせかけた。ヤマトがおお! っと声を上げる。私はタネがわかっているのでそちらから取り返す。まぁ、高遠さんもそこまで本気で取り上げるつもりはないのだろう。攻防はそこで終わった。
「それで、ヤマトくんは何か考えているようですが」
「いや、蒲生剛三のゴーストペインター云々にアキが関与してたのかって思って」
「そもそものお願いが怪盗紳士から蒲生剛三の絵を守ってほしいだったのですが、快斗くんが偽の予告状だと気付いて、様子を見にいけばはじめちゃん達がいて」
「その面子でいくと事件は?」
その台詞に高遠さんはすっかりはじめちゃんがいると事件が起こると認識しているのではと思う。
「……父親が起こさせるなと言ったので」
「だーかーらー俺に急かしてきたんだな」
なるほどヤマトは疲れているのか機嫌がわるそうだ。書斎にかけられた時計を見れば、夕飯の準備をしないといけない時間である。
「夕飯の準備を……」
「いえ、せっかくですから、外食にでもいきましょうか。事件の話も聞きたいですしね」
高遠さんの言葉に、ヤマトが頷く。手招いた高遠さんにヤマトが付いていくのを見送り、私はアルバムを分かりにくい元あった場所に戻した。
――もし、あの写真に高遠がいたなら、どうなっていたのだろう。
はじめちゃんが小さく呟いた台詞である。そんなものはもしもだ。仮定に似た何かだ。ありえもしないものである。でも、恐らく私は変わらない。ここに高遠さんが写っていても、何も変わらない。それに高遠さんも、本質的なものは何も変わらないのだ。だって、私と遙一くんの秘密――霧島お兄ちゃんのことは近宮先生の生きている時である。恐らく、あの日、遙一くんは。
「……何も変わらないよ、はじめちゃん」
そう、何も変わらない。私は何も変わらない。きっと、高遠さんを好きになっているに違いない。
「アキー、いこうぜー」
そう言ったヤマトと外出準備を済ませた高遠さんが扉から声をかける。私は「今行きます」と告げてその場を後にした。
二人目の怪盗/fin