ラスベガス国際マジックコンテストにて
-オールドタイム:赤と白の奇術師と小説家-
飯塚龍一に会うと事件がおこる。その二人は飯塚龍一に出会った時点で大小どんなものであっても事件に巻き込まれると知っているので慣れたものであるし、飯塚龍一が必ず解決するとも理解している。それほど少女の父親がいるところでは事件が起こるのであるが、必ず解決されて終わるのだ。――怪盗事件以外は。
どうやら飯塚龍一は怪盗事件が好きらしく、いつか怪盗小説を書くためにマジシャン達のマジックをみにきているのだ。死神君はマジシャン達につけられたあだ名のようなもので、一部のマジシャンの間では浸透したそれだった。彼がいると事件が起こるからそう言った意味での死神。加えてもう一つ、意味がある。
「玲子さんにも確か息子がいたんでしたね」
「そうね、前の旦那との間に一人いるわ」
魔法使いの男性――黒羽盗一の言葉に魔女――近宮玲子はそう告げる。この子達よりは少し年上よ。少女の父親――飯塚龍一はその言葉に二人を見た。先程までは、やれ冒険だというふうに走り回っていたが――それが起こった事件の解決につながるのであるが――今は大人しく二人は鳩と遊んでいた。
「会わない?」
「……きちんとはあってないわね。会ってしまえば、離れがたくなっちゃうもの」
そう言って近宮玲子は困ったような表情を浮かべる。珍しい表情だ。黒羽盗一はそれを聞いて口を開く。
「トリックノートを渡す頃にはきちんと会えますよ」
「……そうなることを願うばかりね。マジシャンになるかどうかもわからないし」
「なるだろう」
飯塚龍一は近宮玲子に告げる。やけに断定的だ。あら、何か根拠はあるの? と尋ねた近宮玲子に、貴方の息子だから、とあっけらかんと告げた。理由もなにもない。近宮玲子はなんとも言えない表情を浮かべた。普段は根拠も理屈も理由も通る説明をするのに、たまに飯塚龍一はこうして根拠も理屈も理由もない言葉を告げるのだ。黒羽盗一はそれを聞いて頷いた。
「同感ですね。離れていてもきっと、貴方の息子は私の息子と同じように奇術の虜になる。私たちはどうやっても欺く側ですからね」
「あら、その理由でいくと死神くんの子供は死神になっちゃうわね」
「……それだけはやめてくれ」
「おや? あの子は『魔女』になりたいようでしたが」
黒羽盗一はそう言って遊ぶ子供をみた。
「あら、そうなの?」
「魔法でパパが事件に巻き込まれないようにしたいようですね」
黒羽盗一の言葉に、龍一は肩を落とした。ついこの間も娘に「またパパは事件に巻き込まれたんでしょ!」と叱られたのを思い出して。娘にも心配をさせているのが心苦しいばかりではあるが、まだ娘に危害が及んでいないからマシだ。これで危害が及ぶようになれば、彼は娘を安全な日本にどうにかしてでも留まらせるつもりだ。
飯塚龍一はそこで何か思いついたらしい。二人をみると口を開く。
「娘が魔女になったら、魔法で俺の死神扱いは卒業か……」
「それはないわ」
「それはないですね」
二人揃っての返答だ。飯塚龍一は眉間に皺をよせた。何故、と問いかければ、二人は顔を見合わせる。近宮玲子の奇術団の団員が、そろそろと声をかけた。
「貴方が貴方である限りは無理よ」
「そうですね、自覚もないようですし」
近宮玲子の言葉に黒羽盗一は頷いた。そろそろ行くわ、と手を叩けば、少女の腕の中にいた鳩は彼女の手にとまった。鳩を辿って近宮玲子をみた少女――飯塚アキは鳩を追って彼女のもとにやってくる。近宮玲子はアキに合わせて屈む。
「……もし、私の息子にあったらその子と一緒に仲良くしてくれたら嬉しいわ」
近宮玲子の言葉に、アキは彼女に首を傾げた。期待を宿した目で。
「魔女の子供ということは、その人も魔法使いですか?」
「さぁ、どうかしらね。本人に聞いてみて、その答えを私に教えてちょうだい。またね、お嬢さん」
そう言って近宮玲子は茶目っけたっぷりにウィンクをすると、「じゃあね、死神くんと魔法使いさん」と手を振って歩き出す。手を振っている少年――黒羽快斗は飯塚龍一をみあけだ。
「死神? なんでおじさんが死神?」
「君の父親にきいて是非とも俺に教えてくれ」
飯塚龍一はそう言って黒羽盗一をみた。まぁ、彼は「そのうちわかるさ」と黒羽快斗の頭をなでたのだが。
――飯塚龍一は『死神』である。
飯塚龍一に会うと事件がおこる。彼の知人は飯塚龍一に出会った時点で大小どんなものであっても事件に巻き込まれる。しかし、飯塚龍一が必ず解決する。最近は事前に止めることもちらほらあるようだが。
しかし、事件が起こらなくなっても、彼の『死神』というあだ名は奇術師界から消えることはない。
何故なら――彼の前で下手なマジックを披露すれば見破られる。そう、マジシャンキラーとしての死神である。 それは奇術師達の暗黙の了解のようなものと奇術師達にとっては腕試しのようなものでるため、本人に伝えられることはない。
現に、近宮玲子はマジシャンキラーがいると聞いて面白がって飯塚龍一の前で奇術をして――まぁ事件に巻き込まれて――仲良くなったし、噂をきいた黒羽盗一も彼の前で奇術をして――事件に巻き込み――仲良くなって今に至る。
――現在においても飯塚龍一は死神である。今となってはそのあだ名で呼ぶのは、同業者が一人だけ。奇術師界でもそのあだ名で呼ぶ人はいなくなった。同業者と奇術師以外に「死神」と呼ばれることを飯塚龍一は酷く嫌うのも理由にあがるが、その理由を知る人もいない。
――その娘が、死神となるのか魔女になるのかも、誰も知らない。