三人の奇術師、新しい秘密-1-
トランクの中にあったのはやはりキッドの服に似せて作られた服だ。それなりに高級そうな布で作られているそれを見て私は眉間に皺を寄せた。これを着ろということはやはり快斗くんのかわりに怪盗キッドをしろ、ということだろう。私の説明に高遠さんはというと、ふむ、と何か考えている。
「占い、ですか。些か信じられませんが……しかし、奇妙な点もあります。ニュースをみるに該当する美術館にはまだ予告状は来ていない。それに私のことを示唆するとは」
高遠さんはそう言って私を見下ろした。
「どうします?」
「どうしますって、私はハンググライダーで飛んだことないですし、泥棒だなんて……」
それは流石に少しいただけないのでは。
私の言葉に高遠さんは少し驚いた後、おかしそうに笑った。それに私は首をかしげる。何か変なことを言っただろうか。
「……いいえ、なんでもありませんよ。しかし、アキ、これは考えようによっては貴方の奇術の練習にもなるわけですが……」
「練習……?」
そう繰り返して高遠さんをみる。確かに舞台でするような奇術の練習にはなるかもしれない。いや、練習にしたって警察を目の前にやるのは少し。捕まってしまう可能性だってあるわけであるし。私が眉尻を下げて拒もうとすれば、高遠さんはにっこりと笑った。……この表情は、知っている。台湾でのスパルタ前の表情である。
「私もアキには危険な目にあって欲しくはありませんが……弟子のためを思うならしかたありませんね。なによりアキは大掛かりなイリュージョンが少し苦手だから、頑張ろうか」
「えっ」
「大丈夫、私も手伝いますよ。それに、占いが当たるかどうかなんて五分五分、でしょう?」
高遠さんは少し面白そうに笑う。なに、アキが盗まなくても、彼が犯行を行える時間を与えたらいいんですよ。高遠さんの言葉はそうなのだが。
「さて、では明日にでも下見にいきましょうか」
楽しそうな高遠さんの声に私はとりあえず頷く。不服だと伝わったのか、彼はまたそれにクスクス笑うだけだった。
そのあと一週間は高遠さんのスパルタである。なんせ、本当に怪盗キッドがその美術館に予告を出したのだ。警備を予測、のち、行動のすり合わせ。トリックを考えて練習。大道芸をしている暇などないが、やらないとヤマトに不審がられるし、毎回見に来てくれる人に悪いのでそれもこなす。そんなこんな時間を過ごしていると、前日になって快斗くんがやってきた。恐らく諸々が落ち着いたのか、私のようにちょっとした隙間にやってきたのかわかりかねる。
「よっ、アキ」
そう手を上げた快斗くんに私はやれやれと息を吐く。当の本人はのんびりしている。私の様子に、快斗くんはどうした? と首を傾げた。
「最近、快斗くんと同じ高校の子が来るんだけど……」
「同じ高校?」
「女の子二人ぐらいだよ。一人はもう少ししたら来るんじゃないかな」
「ふぅん……」
「で、もう一人の女の子に快斗くんがピンチになったら助けてほしいっていわれたんだけど……心当たりは?」
「は? 俺がピンチ? 全く覚えはないんだけど。誰だよそいつ」
快斗くんがそう言って首をかしげる。
「小泉さんっていう、黒い真っ直ぐな髪の女の子だよ。彼女は今回助けてあげられないからって」
そう言えば彼は何か思い当たったのか、紅子か……となんとも言えない顔をした。
「で、アキはなんて?」
「快斗くんには借りがあるから私が返せる分なら返しはするって言いました」
彼にそう言えば、彼は目を瞬く。私はそれを見ながら口を開いた。
「それに加えて遠山さん……お師匠さんが、乗り気といいますか、イリュージョンの練習をせざるを得なくなったといいますか」
「アキはこういう小さな舞台だけではなく大きな舞台にもなれないと、という私の親切心ですよ」
後ろからかけられた声に私は肩を跳ね上げる。快斗くんも同じく肩を跳ねさせた。二人で振り返ってみれば変装した高遠さんである。高遠さんが快斗くんをみると、快斗くんは少し息を呑んだ。
「君の危機がどんなものかはわかりかねますが、ね。時間を稼ぐくらいはできるでしょう。私の可愛い弟子をお貸しするんですから、どうにかしてもらわないと困ります」
恐らく何かあればその時間に対処しろ、と暗に言いたいのだろう。快斗くんが眉間に皺を寄せたが。なんのことだ? ととぼけて見せた快斗くんに、高遠さんもまた肩を竦める。
「君がとぼけるのであれば、私も同調しましょうかね。さぁ、アキ、ヤマトくんが帰って来る前に練習をしましょうか」
「頑張ります……」
「大丈夫、できますよ。昨日はもう完ぺきだったじゃないですか。貴方は優秀な奇術師です」
そう笑った彼に、私はなんとも言えない顔をしたのであるが。