三人の奇術師、新しい秘密-3-





「今回のキッド、芸術点が高い」

 少年探偵団とのお出かけから帰ってきたヤマトがテレビの報道を見ながらそう告げる。テレビではキッドの犯行と、宝石が返却され次第キッドの犯行当時のまま展示を行う予定だという館長のコメントが映っていた。芸術点が高い、とヤマトの言葉を繰り返せば、ヤマトが「なんかさー、キッドってもっとこうシンプルだけど逃げる時は派手だというか」ともごもごと呟いている。なるほど、確かにそうかもしれないと思いながら晩御飯のあとかたづけをする。ソファに座ってテレビを見ていたヤマトが振り返った。

「なんか、今回のはガチで観客を楽しませるためのショーっていう感じ」
「それはちょっと興味あるかな」

 と、言っておかなければヤマトが怪しむだろう。ヤマトは近くに置いてあったタブレットでわざわざ今回の事件の検索をしたらしい。ヤマトが私に画面をみせるためにタブレットを持って来ようとすれば、その背後から近づいていた高遠さんがそのタブレットをとった。

「あ、おい!」
「ふむ? これが今回のキッドですか」

 なるほど? と告げてタブレットで映像を再生する高遠さんにヤマトがタブレットを取り返そうとぴょんぴょんと跳ねている。少しかわいい、と思ってしまったのは仕方がないと思う。

「確かに今回はなかなか……しかし、彼は偶にこういったこともするでしょう? 大海の奇跡の空中歩行しかり」

 そういった高遠さんに、ヤマトは「じゃあ、前みたいにどうやったのかわかんのか?」と尋ねた。

「ヤマトくんならわかるのでは?」

 高遠さんはヤマトにそういってタブレットを返す。どういう意味? と首を傾げたヤマトに、私も首をかしげる。ヤマトならわかるのでは、とは。まるでヤマトがそのトリックを知っているような台詞で――……。
 ――そこで私は思い当たる。あの絵画を利用したエレベータは。あの糸がないようなマリオネットの動かし方は。習っているときは覚えるのに必死すぎて何も思わなかったし、片方は私も話に聞いていただけで見たことはなかったけれど。落ち着いた今ならわかる。

 ――あれは、魔術列車のトリックと、生きたマリオネットの応用だ。

 これは私がやっていいようなマジックの種ではない。これは高遠さんがやるべき奇術だ。私がやってはいけない。だって、これは、高遠さんが作ったトリックと、近宮先生――高遠さんのお母さんが彼に残したトリックだ。いくら仲が良くても、私は部外者なのである。高遠さんの言葉を聞いてタブレットに釘付けになったヤマトに、高遠さんはヤマトの頭を撫でると私を見て彼の口元に人差し指を立てた。彼の唇が弧を描いて、音にならない言葉を紡ぐ。ひみつ、と告げた彼はそのまま近くにかけてあったジャケットを手に取った。

「アキ、また私は出かけてきます」
「――待ってください、高遠さん」

 そういって慌てて高遠さんを追いかけて玄関に行くと、靴を履く彼に呼びかける。

「あのトリックは――」
「言ったでしょう? 私たちだけの秘密だと」
「あれは、私がやっていいものでは――あれは――」

 高遠さんのための。彼は立ち上がると振り返って「おいで、アキ」と両手をひろげる。私はそのままそこに収まった。

「――アキだからですよ」
「でも、」
「貴方なら――君なら使いこなせる。大丈夫」
「大丈夫じゃ――」

 ないです、という言葉は高遠さんに飲み込まれる。すこしだけ。ほんの数秒だけ。私が告げようとした言葉を飲み込んだだけ。彼はまじめな顔で私を見下ろすと、どこからともなく薔薇の花を取り出した。

「次までに、これを頭にいれておいてください」

 彼はそう言って私の手に薔薇の花をおく。

「では、アキ。すぐ戻りますが無理をしないように」

 そういった彼は玄関から出ていく。私はそれを見送って手元をみた。薔薇の花が手帳に変わっている。中を開いてみれば、彼がマスクマンとして活動するときのマジックや、近宮先生のものとおもわれるマジックの種が書かれていた。

「――こんなの、受け取れない」
「あー!!」

 ヤマトの叫び声がしたとおもえば、ヤマトが玄関までかけてきた。

「アキ、高遠は……ってどうしたんだ?」
「――いえ、高遠さんはしばらく留守にされるようです。すぐに戻ってくるみたいですが」

 そういって苦笑いする。ヤマトはその言葉に何とも言えない顔をしたけれど。