四人目の奇術師
手元にあるのはマジックショーのチケットである。渡してくれた男性は、よかったらおいで、と言って笑ってみせる。
――この間、プロポーズを手伝ったマジックショーの動画が彼らではなく他者によってSNSで拡散されたらしい。それに伴い私の大道芸を見に来るお客さんが増えた。その中にはちらほらと真田さんのような奇術師の人であったり、芸能事務所の人であったりがやってきたりしている。芸能事務所の人は興味がないためお断りしているが、あまりにもしつこいとヤマト達が追い払ったりしてくれているのが現状だ。ただ、マジシャンの人は話をしていると私も参考になるので無碍にできない。そんなこんな、今日のちょっとしたショーの終わりにやってきた奇術師に、これチケット、といって差し出されたのがマジックショーのチケットだったのだ。近くにいたヤマトが嬉しそうにチケットを受け取った。揃いも揃って私をどこかに行かせるにはヤマトを経由したほうがいいと思われている気がする。星河童吾のマジックショー! と言いながらチケットをみるヤマトから渡してくれた人――マジシャンの星河童吾さんに私は視線を移した。
「弟の分まで……いいのですか? 星河さん」
「あぁ、構わないよ。僕だけが見てるのも悪いしね。君の参考になるかはわからないけど」
彼はそう言って笑った。星河童吾。九十九奇術団の真田さんとイケメンマジシャンとして国内人気を二分している彼は、動画を見るまえから私のちょっとしたショーを見にきてくれていたらしい。で、動画を見て改めて声をかけてきたとのことである。
「飯塚さんは高校生だったね。高校生の大会には出ないの?」
そう尋ねた彼にヤマトがチケットから私に視線をうつす。私はそういった大会に出るつもりはないので首を左右に振った。
「部活でもないですし、好きでやっていることなので、でる予定はないです」
「勿体無いなぁ、出たらいいのに。きっと賞を総なめできる」
彼の言葉に、そんな過剰なといえば過剰でもなんでもないと言われたが。ヤマトが首を傾げて星河さんを見上げた。
「星河さんは出たことあんの?」
「あぁ、僕も出ていたよ」
「って言うことは真田さんも?」
「いや、彼は出ていなかったかな? 同い年だけどそういう大会で会った記憶はないなぁ。ああいう大会にでると有名なマジシャンにも名前を覚えられるからいいと思うけど……」
「では、星河さんはそこでMr.正影先生に?」
私がそう尋ねれば彼は首を左右にふった。
「先生に弟子入りしたのはもっと前なんだ。そこから連覇してたんだけど……」
そして、少し困ったような顔をして口を開く。
「最後の大会は当時高校一年だった女の子に負けちゃった」
「はー、その人もプロ?」
「さぁ、僕もその後を探しては見たけど見つからなくてね。名前は藤枝さんって言うんだけど」
「藤枝……?」
「知り合いかな? フルネームは藤枝つばき……だったかな」
その言葉に私は動きをかすかに止める。藤枝さん。遙一くんの先輩の一人だ。恐らく、彼女は事件に巻き込まれて亡くなっているはずである。あれは当時ニュースで報道はされていなかったのだろうか。私がそう考えていると、ヤマトが知り合い? と首を傾げた。私は聞いたことがあるような、ないような、と言葉を濁しておく。ヤマトには関係ないことだ。そんな話をしていると星河さんに電話がかかってきたらしい。バックヤードに入れるように手配をしておくよ、とチケットに印をつけてウィンクした彼は電話に出てそのまま歩き出した。私はそれを見送ってから口を開く。
「ああいう方は本当に世間一般にはかっこいいというんでしょうね」
真田さんがキリッとした所謂ハンサムな人だとすれば、彼はすこし童顔なのも相俟って可愛い系に見えるのかもしれない。
「アキは真田さんと星河さん、どっち派?」
ニヤリと笑って揶揄うように告げたヤマトに、マスクマン派です、といえば「それはなし」となんとも言えない顔で言われた。
「高遠さんは二人に引けを取らないと思うんですが……」
「恋は盲目っていうか……あの人はなし! 二人のうちのどっちか!」
「……どちら派かと言われても困ります。真田さんはイリュージョンも勿論スタンドアップマジックやカードマジックといったものの技術が凄いですし、星河さんは大きなイリュージョンなどを好まれ、特に脱出系の技術が凄いです」
二人とも参考になるし、発想が違うのでみていて面白い。高遠さんはどちらも一流であるのだが、彼は近宮先生と同じく特に生花を扱ったマジックが上手い。私はどうしても高遠さんに教わった為、高遠さんの二番煎じになってしまっている面があるし、まだまだ彼にも彼らにも叶いそうもない。彼らが魔法使いや魔女であるなら、私が魔法使いや魔女を真似た魔術師だ、もしくは魔女になりたい村人あたりなのだ。
「ヤマトはどうです?」
そうヤマトに尋ねれば、うーん、と悩んだ。ほら、ヤマトも悩むじゃないですか、と言おうとすれば「まぁ二人ともイケメンだよな。顔の好みの問題」と答えとは取れない返事が来た。どうやらマジックではなくて顔で判断してほしかったらしい。どちらのマジックが好きなのかについて教えて欲しいので、マジシャンとしては? と尋ねれば、ヤマトはうんうん悩んで「でも確かにイリュージョンってあんまり見たことない」と告げた。露西亜館の気球然り、獄門塾で高遠さんが披露した炎からの脱出だってある意味ではイリュージョンである。マジックショーもよく行くし、一般人よりはよく見ている気はするけれど。しかしながら高遠さんの逃走云々を言ってもそれはべつだとかは言われそうである。なので、それを飲み込んで笑みを浮かべた。
「……楽しみですね」
ただそういえば、ヤマトは年相応の笑顔で、おう! と頷いた。