4/5の信頼もしくは殺意-1-




 星河さんのマジックショーをみていたら、目の前の舞台に現れた女の子達に目を瞬く。フィナーレを飾る水中からの脱出である。周りの観客は女の子二人の登場は演出だと思い込んでいるようであるが、恐らくは違うだろう。まぁ事件に何度も巻き込まれている彼女達だから最悪の事態を考えての行動だと思うけれど。ちなみにヤマトはその二人を見てピシリと固まった。舞台に現れたその二人が蘭ちゃんと和葉ちゃんだったからだ。それにしても、蘭ちゃんは空手をしていると聞いてはいたけれど、あの強化アクリル板が割れるのだろうか。彼女が破る寸前、カーテンを開いて現れた星河さんに周りは安堵する。こういう演出だと思い込んだ周りが拍手をした。ヤマトも星河さんが現れたことに「おお!」と声を上げる。そうして星河さんの拍手の促しに、パチパチと拍手をしながら私に問いかけた。

「なぁ、アキ、念のために聞きたいんだけど、これってこういう演出?」
「いえ……あの蘭ちゃんと和葉ちゃんがそっくりさんでない限り、恐らくは本気で溺れていると勘違いした二人の行動を星河さんがうまく収めたのだと思います」

 そう言って私は客席に戻っていく二人を目で追う。少しだけ振り返れば後ろの方の席にやはり服部くんとコナンくんがいるのがみえた。
「やっぱりヤマトのホームズがいますね」
「ぜっったいに今日は関わらない。関わったら最後、今日はさすがに事件が起きる」

 ヤマトはそう言って力説したが、それをフラグと人は言うのではないだろうか、とも思うわけで。ショーも綺麗に幕を下ろし、私とヤマトは拍手をする。さて花を持ってバックヤードに行こうと立ち上がった。


 やっぱりフラグだったのでは。星河さんのバックヤード……控え室に向かえば、蘭ちゃんや和葉ちゃんが話す声が聞こえる。控え室手前にいる二人は星河さんと同門のマジシャンの方々ではないだろうか。ヤマトが合流をちょっと渋ったし、私も会話が盛り上がる中邪魔するのはいかがなものだろうかと思ったが、アシスタントの女性がこちらですよ、といって案内するものだからそこに混ざるしかなくなった。ヤマトはがっくしと肩を落とす。その様子に私がクスクスと笑う。彼らと合流するというフラグは見事に達成である。事件は起こらないかも、とは私も慰められないのだけれど。
 私の笑い声が聞こえたのか、星河さんは私に気づいたらしい。「あ、飯塚さん」と私に向かって声をかけた。それに従い周りの視線がこちらに向く。和葉ちゃんと蘭ちゃんが「アキちゃん!?」と驚いたように大きな声を出すのは同時だった。私は苦笑いしてまずショーの主人である星河さんに声をかける。

「こんにちは、星河さん。とても素敵なショーでした」
「ふふ、参考になったかな?」
「はい、とても。空中遊泳や脱出など、大きなイリュージョンは私はできませんし、かなり参考に……あとはアキシデントの交わし方も」

 そう星河さんに花束を渡しつつ少しだけ二人に意地悪をしてみる。二人は固まって、服部くんやコナンくんがなんともいえない顔をしたが。星河さんはサラッと「ふふ、彼女達がいなければ俺は溺れていたからね」と告げた。ふむ、スマートだ。こう言うところも人気の秘訣かもしれない。星河さんは蘭ちゃんや和葉ちゃんをみて口を開く。

「この子達は飯塚さんの知り合いかな?」
「はい、友人です……こんにちは、蘭ちゃん、和葉ちゃん、服部くん、コナンくん。偶然だね」

 そう言って蘭ちゃんたちに向き合えば、ほんまやね! と和葉ちゃんが声をかけてくれる。ヤマトは私の足元でなんでいるのだと言わんばかりに彼らを見ているが。ヤマトのそう言う雰囲気を感じ取ったのか、苦笑いしたコナンくんが私を見上げる。

「アキさんは星河さんの知り合いなの?」
「はい。最近知り合ってよくお話ししてくださいます。今日はヤマトとショーにご招待いただきました」

 そういえば女性マジシャンの姫宮さんが星河さんをみる。

「あら? もしかして」
「違いますよ、変な勘ぐりはやめてください。ほら、彼女、今ちょっとした話題になってる米花公園の!」

 星河さんの言葉に、おや、と声を出したのはサングラスの男性――マジシャンの範田さんだろう。

「最近SNS話題になっているマジシャンだね。どこかに所属してるのかい?」
「いえ、未熟な身なので……」
「あら、そうなの? もったいないわね」

 と、いわれても、だ。好きでやっていることである。というか、そちらの界隈にも噂が飛んでいるのは少し困る。そういう人が増えるなら、考えることが少し増えてしまう。私が困った顔をしていたからだろうか、ヤマトと何か話していたコナンくんが私を見上げた。

「そういえば、アキさんって九十九奇術団の真田さんとも知り合いだったよね? この前も九十九奇術団のお屋敷に行ってたし、九十九奇術団にはいるの?」
「ううん、真田さんは多分冗談でそう言ってくれてるだけだよ」
「アキちゃん、真田さんと知り合いなん?」
「うん、真田さんも日本にいらっしゃる間はよく様子を見に来てくれて……」

 和葉ちゃんの問いかけに私が答えれば、星河さんが口を開く。

「そうだったのか。でも僕は鉢合わせたことないよね?」
「はい、ちょうど星河さんが来られるようになったくらいから海外周りをしてらっしゃいますので」
「蘭姉ちゃんや小五郎のおじさんが連絡するより、アキ姉ちゃんが真田さんに連絡したほうがいいんじゃないかな?」

 そう告げたコナンくんに周りはそれもそうだ、と頷いた。連絡とは? と私は首を傾げる。

「真田くんと私たちでショーをするのはどうかと言う話になっているんだよ」
「え、普通に見たい」

 ヤマトの言葉に私も頷く。星河さんも範田さんも姫宮さんもMr.正影の弟子でそれぞれイリュージョンが素晴らしいのである。まぁ多少は星河さんや真田さんの人気にあやかりたい思考もあるかもしれないが。まぁ、一緒にショーをしてそこから他の奇術師の魅力に気づくなんてこては多々ある話だ。

「それは一奇術ファンとして是非拝見したいです」
「でしょう?」
「ただ、真田さんと僕らに繋がりがなくてね。彼女がちょっとした知り合いだってきいたから彼女に頼もうとしたんだけど……」
「あ、なるほど、九十九奇術団は前に毛利探偵に依頼されてましたし、繋がりができた蘭ちゃんに連絡をとってもらおうと言う算段だったんですね」
「そうなの。アキちゃん、連絡取れそう?」

 蘭ちゃんの言葉に私は少し考える。この間、ショーの成功を祝うメッセージを送れば今日か明日くらいには帰国すると書かれていたし、今回行われている九十九奇術団の巡業、その最後の公演は台湾で終わるはずなので時差もそこまでないはずである。それに真田さんは私の連絡も律儀に返してくれている。

「うん、真田さんが忙しくなければとれると思う」
「なら、お嬢さん達も交えて行こうか」

 そう告げた範田さんに、行くとは? とヤマトと二人で首を傾げる。

「今日はMr.正影の家でショーの相談でもと言う話になっていてね」
「飯塚さんもどうかな?」

 そう尋ねた星河さんに少し考えるふりをして断ろうとしたのだけど、星河さんが先手を打った。

「あの家には師匠が集めた古今東西マジックに関わるいろんな資料があるから君の参考にもなると思うんだけど」
「それにちょっとしたマジックショーもお見せできるが……」

 双方それは少し見たいような。しかしながら、高遠さんが家にいないとはいえ、帰ってマジックの練習や高校の予習などやることも多いわけだし。私がそう考えていれば、ヤマトも興味があったのか「行く!」と返事をした。この流れは、真田さんのときと同じでは。姫宮さんがヤマトをちらりと見下ろした。

「あら、こっちの子は行くみたいよ」
「……わかりました、ご一緒に行きます」

 そう頷く。ヤマトが行くといったなら仕方がない。ヤマトの興味があるものはできるだけ見せてあげたいとは思っているからだ。
 Mr.正影の家に向かう途中によった大型スーパーで、コソッと和葉ちゃんが「アキちゃん、もしかしてなんか予定あったんちゃう? 気使わせた?」と聞いてきてくれたが、マジックの練習をしたかっただけだし帰ってから練習すれば大丈夫だよ、と答えておいた。