4/5の信頼もしくは殺意-2-


 服部くんが和葉ちゃんの言動に百面相をしていて、少し面白い。ちょっとした和葉ちゃんの言動に怒ったようにムッとするのだ。主に星河さんや他の男性と話していたりするときに、だ。ヤマトとコナンくんがそんな服部くんを眺めてなんともいえない顔をしていた。もしかして嫉妬的なことなんだろうか? と思いつつ、食材を買ってMr.正影の家にいく。真田さんとのショーがしたいし打ち合わせついでに、私がマジック技術の資料をみたいようだと告げた範田さんにMr.正影さんの奥さん――正影満里さんは私を見た。

「あら、貴方もしかして……」
「おや、七恵さんもSNSの動画をご存じで?」
「SNSの動画?」

 星河さんの言葉に彼女は首を傾げる。私は頭を抱えたくなった。家にMr.正影と写った写真があるのであれば、次に来る言葉はなんとなくわかる。

「死神くんの娘ちゃんじゃないかしら?」

 死神くんとはまごうことなく父親のことだろう。私はなんとも言えない顔でうなずく。周りが首を傾げた。

「死神くん?」
「この子のお父さんのことよ! この子のお父さんの前で下手なマジックをすると見破ってしまうから、マジシャンキラーだっていってみんなで揶揄っていてね、だから死神くんって呼んでたみたい」

 満里さんの言葉に和葉ちゃんと蘭ちゃんが「マジシャンキラー」といいながら服部君とコナン君を見た。探偵気質の人はやはりそういうところがあるのだろうか。はじめちゃんも時々下手なマジックをみると指摘したりしている。

「一時期、日本のトップにいる奇術師達が、『若手の実力試しだ』だなんておもしろがって大会には必ず呼んでいたんだけど……若手がことごとく見破られちゃって」

 そう言った困ったように告げた満里さんにヤマトが「何やってんだあの人……」とぼやいたのが聞こえた。私もそう思う。立派な営業妨害では。服部くんが愉快犯やな飯塚龍一、とぼやいたのも聞こえた。おやそれは恐ろしいねと言った範田さんに満里さんが私を見ながら口を開く。

「でも、この子は正反対! この子はどんなマジックをみても喜ぶし、そのマジシャンに魔法使いじゃないか? ってコソッと聞いて回るのよ。主人ったら、それをみて死神が若手をフォローするために天使を連れて来たなんて言っていて……懐かしいわ」
「……」

 私は顔を両手で覆う。これは恥ずかしすぎる。絶対に耳まで赤くなっている。か細い声で、覚えていません、と言えば、満里さんが笑った。

「貴方は小さかったし、覚えてないのは仕方ないわ。そう、貴方は奇術師になったのね」
「まだ見まだ習いです……プロの方々には敵いません」

 手を退けながらそう言えば、星河さんが「敵うと思うけどなぁ」といってくれる。それは素直に嬉しいのでありがとうございます、とお礼を告げておいた。そのまま満里さんはでもこの人数じゃ夕食の食材を買い足しにいかないと、と少し困った顔をする。それもそうである。毎年訪れる範田さんならともかくいきなりこの人数で押しかけたのだし。

「いやいや、そうだと思って……」

 範田さんは蘭ちゃんと和葉ちゃんの前に布をかぶせる。私は二人に範田さんの後ろから食材の入った袋を渡す。範田さんは「ほらね!」といって布をどけた。満里さんからはきっといきなり食材の入った袋を持ってもらっているようにみえるだろう。

「へえ、範田さんは毎年この日になるとここへ」
「ああ、先生が帰ってきているのを期待してね!」

 家の中に入り、そんな会話をしながら進む。どうやら今日はMr.正影がいなくなった日らしい。残念ながら10年間、何の連絡もないけどね、と満里さんは困ったように告げた。奥さんである彼女は心配だろう。姫宮さんが周りを見渡しながら口を開く。

「でも懐かしいわね」
「昔は三人ともここに住み込んで先生の特訓を受けていたからなぁ」

 星河さんの言葉に私はなるほどと思う。私がずっと高遠さんに教わっているようなものだろう。

「あら、星河君は主人が弟子を取る前からよく遊びに来ていたわよね?」
「せやったら、星河さんは一番弟子やね?」

 和葉ちゃんの言葉に星河さんは困った顔をした。姫宮さんが口を開く。

「何番弟子かなんて関係ないわ。ようは、三人のうち誰が先生をしのぐ奇術の使い手かということ」

 彼女の言葉に範田さんが少し窘めるように「おいおい展子ちゃん」と彼女を見た。

「もし本当にみんなでショーをするなら、私の奇術の目玉は『魔女復活』!」

 私は彼女を見る。魔女復活、名前からして少しダークな雰囲気のイリュージョンだろうか。星河さんや範田さん、満里さんも「え?」と反応した。

「客席のど真ん中に巨大な十字架を立て、私の体をその十字架にがんじがらめにしてその先を客に持たせ……十字架に火をつけて前尽きる前に姿を消し――その灰の中から再び現れるのよ」

 姫宮さんの説明に、やっぱりダークな世界観ではあるが、きっと緊迫感もあって面白いショーになるな、と思う。まさに、中世の魔女の処刑の様で――魔女復活、という名前の通りのショーのシナリオだ。姫宮さんの言葉を聞いて、感心する私やヤマト、蘭ちゃん達に対し、範田さんや星河さん、Mr.正影の奥さんである正影満里さんは何かハッとしたように固まったが。

「どう? ぞくぞくして面白そうでしょう?」

 姫宮さんの言葉に、三人は生返事をして話題がなかったように、それぞれ違う場所でまつことにしたらしい。魔女復活という奇術に何かあるのだろうか? ヤマトやコナンくん、服部くんも疑問に思ったのか、不思議そうに四人の背中をみつめる。星河さんが振り返って手招いた。

「飯塚さん、こっちだよ」
「ヤマトも来ますか?」
「うーん。いや、見たい気はするけど今トリック色々知っちゃうと食後のマジック楽しめなくなるし、コナンたちといる」

 ヤマトはそう言ってコナンくんや服部くんと並んだ。私はそのまま星河さんに二階へ案内される。どうやらこの階の狭い廊下の先に書庫があるらしい。

「……この狭さは設計上で?」
「あぁ、この家は師匠が設計してね」
「……と、言うことは、何かのためにこうしてるんですね」

 そういえば彼は目を瞬いてから、よくわかったね、と告げた。ここでちょっとしたショーができるんだよ、と彼は笑う。ちょっとしたショーと繰り返した私に彼は少し笑った。

「先生はいないけど、範田さんが見せてくれるんじゃないかな? 本当はクリスマスにするんだけどね……」

 星河さんはそう言ってから何か思いついたように私を見下ろす。

「でも、もしかしたら、君が正影ノートを見つけるかもしれないね。見つけたらそこに書かれているよ」
「正影ノート?」
「あぁ、先生のトリックノートさ。もしかしたらこの書庫の中にあるかもしれない」

 少しだけ願うように彼はそう言って書庫の電気をつける。なるほど、部屋いっぱいの棚にたくさんの本が敷き詰められている。これが全て奇術の本なら凄い量だ。この中にトリックノートを隠すのもわかる。まぁ、私はそれを探しに来たわけではないけれど。

「万が一見つけたらMr.正影先生の奥さんにお渡しするか、同じ場所にそっと戻しておきますね」
「……珍しいね、欲しくないんだ」
「私はMr.正影先生の弟子ではありませんし、彼の子供でもありませんから見つけたとしても私がいただくのは少し違う気がします。そう言うものは皆さんやMr.正影先生が話し合って決めるべきです」

 トリックノートは誰かしらMr.正影が選んだ人に渡るべきだ。いや、Mr.正影のトリックノートだけの話でもないけれど。星河さんは「でも確かに満里さんに渡すのが一番いいかもしれないな」と穏やかに告げた。その心中はわかりかねるが。

「僕は近くの部屋にいるから、何かあったら声をかけて」
「わかりました、ありがとうございます」

 そう部屋を後にした星河さんにお礼を告げて、ところ狭しと並べられた本をみた。……どれから読んでいくか迷うなぁ、と悩む。本当に古今東西色々なマジックの本がならんでいる他、マジックの新聞記事がスクラップされたものや誰かとMr.正影が写る写真をまとめたアルバムもあった。試しに興味本位でアルバムを巡ってみれば、今より若い父親の写真もあるし――近宮先生や黒羽先生の写真もある。その中に一枚、来客者が映し出された写真の中に見たことがある姿をみつける。

「なんで堀場先生が……?」

 そう言って首を傾げた。間違いない。この人は逮捕された化学の堀場先生である。ミス研を巻き込んだ事件で、所属してはいたものの、たまたまヤマトの関係でそこまで関わらなかった事件である。意外と先生とMr.正影は知り合いだったのだろうか? クリスマスに尋ねるくらいには。一緒に写っている写真にはツリーも写っているし、堀場先生の他にも何人か人がいる。
 そう言えば、人が死んでいるし美雪ちゃんも怪我をしたのであまりこんなことは言えないが、彼のトリックははじめちゃんの推理を聞いていて面白かった記憶がある。
 普段は箱の底であったり、床を写すことに使用する斜めの鏡を使ったマジック――スフィンクスのトリックを、彼はどこを切り取っても同じ景色になる学校の狭い廊下から部屋を映すことに使用して――死体が消えたように見せかけた。パッとした思いつきの割にはマジックで扱う技術を応用してよくできた――。

「狭い廊下……?」

 そう言って少し考える。先程、星河さんはちょっとしたマジックができるのだといっていた。この写真は狭い廊下でツリーと共に写っている。ふむ? と考えて廊下を見ようと扉を開ければ姫宮さんが通りかかった。彼女はこちらを見て口を開く。

「あら、どうかしたのかしら?」
「いえ、本棚の中にあったアルバムに廊下で撮られた写真がたくさんあったので……海外で活躍されている姫宮展子さん、ですよね。貴方の活躍はお聞きしています。今度はラスベガスでショーをされるとも」
「あら、おだてても私は星河くんみたいには行かないわよ」

 その言葉に首を傾げる。

「星河君に真田一三……あなた、取り入るのが随分と上手なのね。まぁ、貴方は若いし、確かにそう言うことを上手くやりそうだわ」
「……どう言う意味です?」

 嫌味だろうとは分かっているが、何も知らない子供のように尋ね返す。彼らは私の実力を評価してくれていて、なおかつ年下である私に年上として助言しようとしてくれているだけだと思うのだ。私は彼らに取り入るつもりなんてさらさらない。

「いいえ? さっきの星河君との会話を聞いていたけど……本当はトリックノートに興味があるんじゃないの?」
「先程星河さんに答えたように、トリックノートは部外者である私が持つべきものではありません。後継者の方、Mr.正影が選んだ方、もしくはお弟子さんに渡されるべきものだとわたしは思います」

 私の返答に彼女は「あら模範解答」とだけ告げる。

「さっき動画で見たわ、貴方のマジック。まるで山神魔術団の生きたマリオネットみたいだったけど、貴方あの魔術団にもとりいったのかとおもったけれど……」
 それとも盗んだのかしら?

 そう言われて私は口をつぐむ。あの人形がマジックショーを行うという演目は、高遠さんが教えてくれたものを、彼に相談の上、手を加えたものだ。生きたマリオネットを改造したもの、と言われたらそうである。恐らく彼女に何を言っても無駄であるし、高遠さんと私の関係をいうほどでもない。一応念のため口を開く。

「あれは私の師にあたる方と一緒に作ったマジックです。変な勘ぐりはおやめください」
「……まぁ、そう言うことにしておくわ。トリックノートを探しても意味はないしね。真田さんに連絡頼んだわよ」

 私は彼女を見送ってから息を吐いた。ああいうタイプは苦手だ。変な勘ぐりはやめてほしい。とりあえず、星河さんや範田さんにも迷惑がかかる。廊下をみるよりも先に真田さんにメッセージだけ入れておいた方が良さそうである。