4/5の信頼もしくは殺意-4-
「……ごめんね、君に気を遣ってもらって。助かったよ。奇術師人生に傷をつけるところだった」
そう言った星河さんに私は首を左右に振った。満里さんが持ってきてくれた救急箱で私はヤマトと彼に手当されていた。おとなしくしてほしい、とヤマトに釘を刺されたからでもあるが。範田さんや蘭ちゃん達、満里さんたちは料理の続きをしてくれている。服部君とコナン君は何か引っかかったのか私たちの様子を見ているけれど。
「……いえ、貴方が踏みとどまってくれてよかった。無理に周りを巻き込んでまでことを起こそうとする人もいますから」
服部さんとコナンくんがその発言に私たちをみた。どう言うことだ、と聞きたげな視線であるが、コレは簡単に伝えていいものでもない気はする。しかし、私のちょっとした配慮をよそにヤマトが口を開く。
「……姫宮さんがMr.正影のトリックノート持ってる?」
「……私も詳しくはわかりかねますが、星河さんが怒っているのをみると恐らく譲られたわけでも見つけたわけでもないんでしょう」
聞いてしまっていたが、それは私が告げることじゃない。私の言葉に星河さんがしばらく黙ってから頷く。
「――彼女は先生のトリックノートを盗んだんだ、師匠が姿を消した十年前にね」
「盗んだ?」
コナンくんがそう問いかける。星河さんが頷いて私を見た。
「君をからかってトリックノートが書庫にあるだなんて言ったけれど……あの中にはトリックノートはないんだ。いつも師匠が持ち歩いていたから」
星河さんはそう言って困った顔をした。私は気にしていないから首を左右に振る。
「なんでそれを姫宮さんが持ってんのがわかったんや?」
服部くんの言葉に星河さんが少しだまる。代わりに私が口を挟んだ。
「魔女復活は貴方の師匠が作ったマジックだった」
「ああ、ただしくは魔王復活と言ってね、あまりに危険だから師匠と一緒に封じたマジックなんだ。彼女の弟子入り前にね。だから彼女が知る由がない」
「――だからあの話題がでた時、三人は空気凍らせたんやな」
「あぁ、その通りだよ」
星河さんはそう言って私の手に巻いた包帯をパチンと切った。その時はまだ殺意なんてなかった。でも、彼は高遠さんのように『聞こえてきた』のではない。
「貴方はだから面と向かって姫宮さんに尋ねた」
「そうだね、そこで盗んだと聞かされたし、師匠を侮辱するようなことを言った彼女にカッとなって――」
「そこでヤマトの姉ちゃんに止められたんやな。だから、こけたのに棚に向かって前向きやのうて後ろ向きで勢いよくぶつかった。違うか?」
そう尋ねた服部くんに彼は頷いた。やっぱり彼らは洞察力というか、観察力というのか、そう言うものが鋭い。本当にアキさんがいてよかったね、と告げたコナンくんに、服部くんが口を開く。
「そやな、人を殺したら奇術師失格どころか人間として失格やで」
その言葉にぴくりと反応してしまうのは仕方ない。私は服部くんをみる。彼は視線に気づかないままコナンくんと、星河さんに盗んだと言う証明ができるか否かという話に転じていく。アキ、とヤマトが手を引いた。
「大丈夫か?」
「……大丈夫」
自分に言い聞かせるようにそう告げる。私は大丈夫だ。全く大丈夫である。それに、服部くんの言うことは正しくはない。高遠さんは奇術師失格じゃない。あの人はそんな人じゃない。そう繰り返して念じる。
高遠さんは、遙一くんは、すごい魔法使いで。すごい奇術師で。
何度も何度も言い聞かせる。手を握りしめていれば、ヤマトに手を引かれて視線をヤマトにうつす。ヤマトが眉尻を下げて私を見下ろしていた。このままではヤマトに心配させてしまう。たかが他人の評価だ。高遠さんのことを何も知らない人の評価だ。気にする必要はない。
――本当に?
その評価が犯罪を行わなかった時の評価では? 私が今回みたいに彼を止めていれば、彼は正しい評価で世の中から賞賛されたのでは?
地獄の傀儡師として、ではなくて、近宮玲子の後継者として、世界中の拍手を見に浴びていたのでは?
頭の中に駆け巡った問いかけに私は目を伏せた。そんなことを考えても意味がないのはわかっているのだけれど。
「本当に止めてくれたアキさんには感謝しなきゃね」
そう言ったコナンくんに、私は出来るだけ綺麗な笑みを浮かべる。今の内心はどうであれ。だって、と続いた言葉を胸の中に押し込んで。
「たまたまですが――本当に間に合ってよかったです」