4/5の信頼もしくは殺意-5-
「飯塚さん、お客さんがきてるわ」
手当がすんでそのまま片づけを手伝おうとしたが、星河さんと範田さんが片づけてくれることに名たらしい。なので私とヤマトは料理を手伝うことにした。和葉ちゃんがヤマトをほめるたびに機嫌が悪くなる服部くんを眺めていれば、玄関の方からやって来た満里さんに冒頭の言葉を言われたのである。Mr.正影の家に私宛の来客とは。私が首をかしげていれば、満里さんはあらあらと言いたげだ。和葉ちゃんが「もしかして遠山さんちゃう!?」と私を見る。そういや、遠山さんも奇術師やったな、と告げた服部くんに苦笑いした。高遠さんは恐らく東北の方にいる、のだとおもう。
「遠山さんは仕事で遠くに行ってるから違うと思うな」
「じゃあ誰だろうね?」
「うーん、みてくるね」
和葉ちゃんや蘭ちゃんに断って席を立つ。高遠さんなら嬉しいことはこの上ないけれど、その反面泣いてしまいそうだ。そう思いながら玄関に向かえば、真田さんとさとみさんがいた。こちらをみて息を吐いた彼に、そういえば、と思う。星河さんと姫宮三の間に割り込んだのは彼との電話の最中だったはずである。手当てやら色々していたし、スマートフォンはおそらく奇術用品に埋もれている。そのままにしてしまっていた。あ、と私がそれを浮かべるのとどうじに、さとみさんがかけよってきた。
「よかったー! 無事だった!」
そう言って私に近寄ってハグをしてきた彼女に目を瞬く。そのまま真田さんを見れば、お前な、と小さく低い声で漏らされる。
「無事なら連絡くらいしろ!」
そう叱った彼に私は言葉を紡ごうとしたがそれは出ない。驚いたのもある。こうやって声を荒らげて怒る人など今までいなかったし、彼の言葉は正論だったし、私が何を言おうとそれは言い訳にしかならない。前も一度高遠さんに叱られた。とりあえず謝らなければならないのはわかっている。ごめんなさい、と小さく謝れば、彼はため息をはいた。さとみさんが私から少し離れて「真田さんね」と言って私を見た。
「すっごく慌てて来たの。通話先で言い争う声とかすごい物音がして通話が切れちゃったから、飯塚さんが何か事件に巻き込まれちゃったんじゃないかって」
「……私が派手に転んだだけです」
そう言って私は無理矢理笑う。そんなはずないだろう、と言った彼と不思議そうにしたさとみさんにそう言うことにしておいてください、と告げれば真田さんがなんともいえない顔をしたが。
「……怪我は?」
「少しだけです。これくらい平気ですよ」
「馬鹿言え、手は奇術師の命だろ。しばらくは大道芸しない方がいいんじゃないか……とりあえず無事でよかった」
彼はそう言って私の頭をぽんと撫でる。その役目は貴方じゃない、と思ってしまった私は悪い子なんだろう。それを川霧に、押しとどめていた感情がまたふつふつと起き上がる。
――貴方達じゃない。こうやってくれるのも。
――貴方達じゃなかった。助けたかったのも。
私が助けたのは星河の奇術師人生を助けるためでも、姫宮さんの命を救うためでもない。全部。全部。貴方達じゃない。
――知ってる。時間が戻らないのも。あのマジックをすればどう見られるかと言うことも。人の醜さも。
――嫌い。わかったふりをする他人は嫌い。哀れんでくる人は嫌い。高遠さんを貶す人は嫌い。私の大切な遙一くんを悪く言う人は嫌い。
――いけない。こんなことを思ってはいけない。そう目を伏せる。
「飯塚さん? 大丈夫? やっぱり痛いの?」
さとみさんが私に声をかける。大丈夫です、と告げる。
「大丈夫ですよ、ちょっと叱られてびっくりしただけで」
そう返せば、真田さんにさとみさんが「もー、真田さんが頭ごなしで叱るから!」と声をかけるのが聞こえる。真田さんが悪いともう一度つげる。私は首を左右に振った。そんなときだ、上から星河さんがやってくるのと、ヤマトが様子をみにきたのは。
「飯塚さん、上にスマホを忘れて……おや、真田さん」
「アキー、誰だった……って! 真田さんにさとみさんじゃん!」
久しぶりだね、と言ってヤマトを見下ろしたさとみさんに駆け寄って来たヤマトは首を傾げた。
「なんでここに?」
「飯塚さんがこけちゃった時に真田さんと通話してたみたいでね、通話が切れちゃったからびっくりして駆けつけたってわけ」
「あー、すごい音だったもんな。そりゃそうなる」
ヤマトはそう苦笑いをしてから首を傾げた。
「二人はMr.正影の家、知ってたのか?」
「我らが団長の七恵さんがね。満里さんと友達なんだって」
そんな会話をしていれば、ヤマトの言葉を聞いた他の人達がやって来た。その間にヤマトは少し心配そうに私を見上げる。ああ、いけない。魔術列車の二の舞だ。ヤマトに心配をかけてしまう。ヤマトが私の手を握った。
「アキ」
「大丈夫だよ、私が悪かっただけ」
無理矢理笑う。ヤマトはなんとも言えない顔をしたが。真田さんが星河さんや範田さんをみる。
「星河、範田さん、妹分が世話になったようで」
「妹分」
そう繰り返した周りに、さとみさんが吹き出したのも服部くんが何か納得したような声を出したのも聞こえた。妹分、と繰り返した私が彼を見上げると、彼は私を見下ろして告げる。
「将来的に九十九奇術団に入るから妹分みたいなものだろ?」
また彼はそんな話をする。そう思っていれば、星河さんが口を開いた。
「彼女の実力なら最初から独り立ちでもいいんじゃないかな?」
「だが、世界に行くには奇術団や誰かと一緒に回って名前を売った方がいい。このお嬢さんは日本に留めておくべきじゃない」
実力を評価されているのは嬉しいが、高遠さんに教わりながらやっている私はまだまだ未熟なのだ。あくまで見習いの枠からでていないのである。
「私はまだまだ見習いですよ」
そう断れば、さとみさんが「そんなことないと思うけどなぁ」と告げる。
「SNSのやつ飯塚さんでしょ? あそこまでできるなら見習いじゃないよ……」
彼女はあの動画を見たらしい。しかしながら、山上魔術団にいた彼女がなにか言ってくる雰囲気はない。真田さんは星河さんをみる。
「……星河、このお嬢さんの意識改革が必要だと思わないか?」
「それは僕も思っていたところなんだ」
「ショーに関しては団長の許可が下りたなら出てもいい。団長に話はしておく。だが、フェアにすることが条件だ」
「フェア?」
星河さんが首を傾げる。
「アキをショーに出す」
その言葉に私はピシリと固まって真田さんを見上げる。和葉ちゃんや蘭ちゃんが「みたい!」と声を上げ、あらあらと満里さんが口を開いた。
「それはいいことね!」
「おお、それは楽しみだ」
範田さんもそう言ってはくれるが、私は困る。
「困ります、私はまだ教わりながらやってる身ですし……」
「ほんなら遠山さんも加えたら!?」
そう言った和葉ちゃんに、私は一瞬さとみさんに視線をむける。流石にさとみさんにはバレてしまう気がする。彼彼女は高遠さんをよく知らないからまだばれていないだけで。遠山さん? と首を傾げた真田さんと星川さんにコナンくんが口を開く。
「アキさんの恋人で、マジックのお師匠さんなんだよね!」
「はい……」
「聞いたことない名前だな。どこのやつだ?」
「遠山さんは個人でされてる方ですし、他の仕事と掛け持ちされてるようなので。今は東北の方にいらっしゃいますが」
そう言葉を濁す。連れてこいと言われてしまっても、会わせることなど難しい。話を逸らすために私は服部くんをみる。
「ところさっき、服部くんが何か納得してたけど、何かあった?」
「今日一日、なんか和葉さんみて百面相してたもんな」
ヤマトもそれに便乗してくれたらしい。二人で服部君を見れば彼は手をたたく。
「おお、そうな、俺は和葉のこと……子分やと思っとったんやなって納得したんや!」
なんや最近ムカムカしたりしたけど、子分取られてまうと思ってイラついてたみたいやわ。
そう言った服部くんに和葉ちゃんと蘭ちゃんが固まり、ヤマトとコナンくんが頭を抱えた。私は苦笑いをした。服部くん、鈍いんですね、とぼやけばコナンくんがなんとも言えない顔をして口を開く。
「アキさんもね」