誰がために薔薇は咲くー1ー
透明度が高いその薔薇は水に濡らすとさらに美しいガラス工芸品のようになる。私の育てている薔薇は高遠さんの薔薇に比べると透明度が落ちてしまうけれど、それでも十分に透明である。休みでよかったと思うのは、その処理をその日中に行うことができたからだ。たった半日で枯れる薔薇、それをどれくらいはやくドライフラワー、または、プリザーブドフラワーにできるか、時間が命である。高遠さんに教わった方法で、私が育てた薔薇からさらに色を抜き保存液に浸す。ヤマトと二人でそんな作業をする。高遠さんは、朝食を食べてから不動の方にあるらしい家の鍵をおいて行ってしまった。仕方ない、誰かしらに見張られているのであれば。
「これで完成かー」
ヤマトはそう言ってプリザーブドフラワーに加工した薔薇をみた。日光が反射してキラキラと輝いている。さて、快斗くんと青子ちゃん様に一輪ずつ、家に飾る薔薇をおいても薔薇は残る。
「ヤマトは灰原さんに渡しますか?」
「んー、あゆみちゃん無視して灰原にだけ渡すのもなぁ」
「いつもの様に先に言って渡せば良いのでは?」
そう言いつつ、快斗くんや青子ちゃんにわたすものの様にラッピングをして渡す。ヤマトはただ、おー、とだけ告げてその薔薇を見たのだけれど。ヤマトがチラッとこちらをみる。言いにくい何かがある時はいつもこうだ。私はとりあえず片付けをしながら、どうしましたか? と尋ねる。
「……高遠さん、どこいったんだ?」
てっきり数日はいると思った。そう言ったヤマトに私は目を瞬く。普段は噛み付いたりしているのに、こういう時は少ししおらしくみえる。まぁ、昨日は私が少し不安定だったし、あの事件に似た事件も起こりそうだったから、私を心配してのことだろう。
「いつも通りです。しばらくは来れないと……」
私の言葉にヤマトはふぅんとだけ告げた。
「遠山さんに聞きました。連絡してくださったんですね」
「……なんか色々あったし、アキがしんどそうだったから」
ヤマトはそう言って薔薇を触る。私は素直にお礼を告げる。伺う様に見上げたヤマトに、もう元気ですよ、と笑いかけた。
「……本当に?」
「本当に……と言っても信じてもらえないかもしれないですが」
元気です、と力瘤を作る様な動作をする。できてないけどな、とヤマトは笑ったが。
「灰原に渡してくる」
「では、私は約束通り快斗くんに渡しますかね」
朝が少し早いが、恐らく快斗くんは起きているだろう。ヤマトはジャケットを羽織るとそのまま加工した薔薇を持って外へ出た。
「加工したからこの色ってわけじゃないのかー」
そう言って快斗くんは透明な薔薇――蜻蛉をみる。私はまだ咲く前の蕾を彼にみせれば、はーサンカヨウみたいだな、と告げるあたり彼もまた博識である。
「なんていう品種?」
「蜻蛉というそうです。遠山さんの家族の持ち物だったのですが、そこから頑張って株分けして今ですね。遠山さんと私しか持っていないのだとか」
「へー、あの人の家族ねぇ」
快斗くんはそう言って薔薇をどこかにしまった。そう言えば彼は学ランを着ているのを見ると、祝日だというのに登校だろうか。
「快斗くんの学校は今日は登校日?」
「登校日っつーか、学園祭の準備に駆り出されるんだよ。アキもくるか?」
「他校の生徒が手伝うなんてよくわからない構図すぎない? 私は昨日できなかったぶんの練習しないと」
そう言って薔薇の花を飾る。新しいマジック? と聞いた快斗くんに秘密とだけ告げておいた。
――さてはて、蜻蛉に花言葉はあるのだろうか。薔薇には色ごとに花言葉があって、それぞれ意味が違う。となればこの薔薇にあってもおかしくはない。高遠さんの家族が作ったとされる薔薇。近宮先生が作ったのだろうか? と首を傾げてみてもわからないが。あの高遠さんのお父さんがこう言った研究をしている素振りはなかったけれど。
この時の私はまだこの薔薇が引き起こす物語を何も知らない。