二人目の怪盗-1-




「警察が頼むのも変な話なんだが、協力してほしくてな」

 中森警部の言葉に困った顔をする。この人が追っているのは怪盗キッドだけだと思ったのだが違うのだろうか。
 手元に広がるのは怪盗紳士の新聞記事である。そういえば朝刊やネットニュースに被害総額の合計が40億を超えるという記事が出ていたし、学内でもちらほら怪盗キッド派と怪盗紳士派が別れつつあるのが印象である。
 怪盗紳士はユニークな怪盗だ。怪盗キッドが絵画や宝石を盗んでは本来の持ち主に返したり、目当ての宝石でなければ返却するのに対し、彼もしくは彼女は自分のコレクションに加えているようだ。それに、何よりも違う点は怪盗紳士は絵画中心に盗みに入り、モチーフごと盗むところである。例えば、木が書かれた絵画を盗む際は、モデルになった木を怪盗紳士のマークに剪定してみたり、猫が描かれた絵画を盗む際はライオンのよう(これはヤマトの表現である。正しくは顔の部分の毛を残し胴体の部分の毛を刈っている)にしてみたり。キッドとは違う方向で非常にユニークな怪盗なのには変わらない。

「中森警部は怪盗キッド専属では?」
「そうなんだがな、不動の方で怪盗紳士の事件があって不動署の知り合いがてんやわんやしてるんだ。俺が手を貸してやりたいんだが、いつキッドが予告状を出すかわからん」

 その言葉にふむと考える。怪盗キッドの正体であろう快斗くんは最近特に予定がなさそうで、なぜか根拠は特にないのにも関わらず快斗くん=怪盗キッドでは? と察しているヤマトからは怪盗キッドを最近見ないななどと突かれている。まぁ、快斗くん本人はそうだなで切り上げているが。ちなみに私が思うにしばらく快斗君は宝石などの情報を探っていそうではあった。恐らくキッドの予告状はしばらくはないだろう。

「そこで、だ。お嬢さんやあの男はキッドに対して鼻がきくだろう? 怪盗紳士を捉える手伝いをしてやってほしい」
 そう言った中森警部に私は生憎と眉尻を下げる。

「そう言われても、私の師匠はしばらく国外にいらっしゃいますし、弟は連休を利用してキャンプの予定です」
「では、飯塚さんだけでも」

 そう頼み込んだ彼に私は余計に困った顔をした。しかし、だ。キッドキラーと名高いコナンくんやその助手となったているヤマトではなく、私や高遠さんを連れて行きたいということは奇術師の面を期待されているのだろう。と、いうことは。

「では、同じく奇術に精通した別の友人と向かっても?」

 私の言葉に中森警部は目を瞬いた。彼はそれでもいいと頷いてみせたのだが。



「快斗くん、悪いんだけど次の連休に一緒に青森まで来てくれると嬉しいな」

 いつものように米花公園で小さなマジックショーを開いたあとだ。すっかり子供達に混ざって常連になった快斗くんにそう告げる。快斗くんは目をパチパチと瞬いて「え?」と声を上げた。私はとりあえず快斗くんに隣に座るように促して口を開く。

「快斗くんも怪盗紳士をご存知だと思うのですが」
「あぁ、あのモチーフごと盗む怪盗な」

 すぐに理解する彼はさすがである。なるほど、流石に商売敵には詳しい。

「中森警部が先日高校まで私を訪ねてきて」
「中森警部が? なんでまた」
「怪盗キッド対策でたまに私と師匠が意見を求められるでしょ? その関係で、怪盗紳士の捜査に加わってほしいと頼まれたの」
「へぇ。弟は?」
「コナンくんや少年探偵団と一緒に波照間島にキャンプに行ってて……師匠はしばらく海外で戻ってこられません。私一人では役に立てないのでお断りはする気だったんだけど、どうしても、と……」
「切羽詰まってんだなぁ」

 快斗くんはそう言って頭の後ろで腕を組んだ。私はトランクにマジック用品を片付けながら「そうみたい」とうなずいた。

「なので、怪盗に詳しくなおかつ奇術に精通した快斗くんに来ていただけると助かるなって」
「……アキ、俺は探偵じゃねぇーぞ」

 怪盗ですもんね、とは言わない。しかし、別に嫌そうというわけでもない。切り口を変えてみよう。

「でも、快斗くん。怪盗紳士に興味はあるでしょ?」

 そういえば彼は少し考えた。恐らく興味はあるのだろう。これはもう一押しというやつではないか。私はいつかヤマトに言われたように口を開く。

「まぁ、友人を連れて行きますと言ったので、来ていただかないと困るんですけどね」
「……もう決定事項だろ、それ」

 半分呆れたような言葉である。私はにっこりと笑ってトランクのふたを閉めた。

「まぁ私に貸し一つということで」
「仕方ねぇなぁ」

 ため息とともに了承する彼はさすがだと思うのだ。