誰がために薔薇は咲くー7ー
さて、これは高遠さんの仕事なのだろうか。たまに高遠さんははじめちゃんを事件現場に呼び寄せるからだ。しかしながら、彼が謎解きに参加しているのを見ると違う気もする。小金井さんが、皇だって? と口を開く。
「こいつ、まさかあの時の」
そう呟いた彼に、高遠さんは生首と黒薔薇が載った皿をウェイターのように持つと小金井さんに近づけた。私はまた真田さんに目隠しをされる。確かに周りの怯え用的には怖がらないとおかしいかもしれない。先程はいきなりで驚いただけで、今は平気なのだが。知らん! と叫んだ小金井さんに高遠さんが少しだけ楽しそうな声色で、知り合いの方はお近くで確かめられてはいかがでしょう? と尋ねる。禅田さんがやめて! と叫んだ。
「その人は皇翔。皇生花チェーンのオーナーで私の知り合いだった人よ」
その言葉にふむと頭の中に情報をメモする。高遠さんがクロッシュを閉じたのか真田さんにまた手を外された。快斗くんとヤマトがクロッシュを閉めていくのがみえる。
「なるほど、大手生花チェーンの社長さんでしたか……ところで、お気づきの方もいらっしゃるでしょうが、この黒薔薇は染められた生花です。しかも、被害者の首には防腐処理――エバーミングが施されている。この処理に使われている薬品はプリザーブドフラワーと同じ薬品のようですね」
高遠さんのセリフに周りは冬野さんをみる。プリザーブドフラワーは専門的な薬品がなければ作れない。確かに知識がなければ危険ではあるが、知識はネットで調べればわかることである。冬野さんのいうとおり、白木先生も祭沢さんも、禅田さんも可能だ。見かねたヤマトが口を開く。
「俺もこの間アキと作った」
「え?」
「俺もたまに作りますよ。写真だけじゃ物足りない時に」
佐久羅さんはそう告げて、チラッと毛利さんをみる。防腐処理をした人が誰か、ではなく、誰がディナーを準備したか。論点は次にそちらにずれた。毛利さんが首を左右に振る。
「私がご準備したのはただのローストチキンで、食事は主人の言いつけ通り、一回のキッチンで出来合いの料理を温めて皿にのせ、ダムウェイターで運んだだけです」
そう言った毛利さんは嘘をついていなさそうである。私たちはそのダムウェイタ――ー料理を昇降させるエレベーターのようなものだ――をみる。密室の箱。なるほど、と理解した。それは恐らく快斗くんもそうであるし、真田さんもそうだろう。と、なると毛利さん以外に誰が食事をすり替えたのか。同じ結論に至ったはじめちゃんは口を開く。その答えは一人だけ。
「ローゼンクロイツさ」
はじめちゃんはそう言って口を開く。
「これは俺たちをこの薔薇十字館に招いたローゼンクロイツが仕組んだ、簡単なすり替えマジックだよ」
あたりを見渡したはじめちゃんはダムウェイターに薔薇を載せる。そうしてそのまま一階キッチンへ向かったはじめちゃんに私たちもそれに続いた。
まぁこれからの展開など読めたものである。恐らく今度は疑いの矛先が私たちに向くだろう。キッチンに向かってエレベーターの扉を開ければ確かに毛利さんが準備したものが置かれていた。
「これは間違いなく私が準備したものです」
「どうやって」
そう告げた周りに、ヤマトが覗き込んで違和感に気づいたらしい。壁にみえた奥をつつけば、ハリボテが出てきた。
「はー、こうなってたのか」
「……マジックの常套手段、それも初歩中の初歩だ。些かこんなことに使われるのは腹が立つが」
真田さんが先にそう言ったことにより、彼への疑いはあまり向かないだろう、と思ったが、彼と私に視線がむいた。私は口を開く。
「失礼ながら、これもプリザーブドフラワーの作り方と同じです。理論さえわかっていればこのくらいなら素人でも可能です。ネットを漁ればこれくらいは出てきますよ。これは準備さえしていれば、手先の器用さは関係ありませんから」
「そう、これはアキの言う通り事前の準備さえできれば誰でもできるんだ」
はじめちゃんは頷いて肯定した。ヤマトはクロッシュを持ち上げてローストチキンが入っていることを確認する。快斗くんが毛利さんに問いかけた。
「毛利さんって最近ここにきたのか?」
その言葉に毛利さんも頷く。どうやら毛利さんも昨晩来たところらしい。蝋人形城の南部さんのようなパターンだろうか。ヤマトはそれを聞いて納得したらしい。
「そうか、だからこのダムウェイターの広さ把握してないのか……」
「そういうことだな」
「では、コレで私の容疑ははれましたね」
「いいえ、そうではありません。準備をすれば私達全員が可能だ。私たち全員が容疑者というわけですよ」
高遠さんの言葉に周りは息を呑んだ。月読さんが薔薇を手に取って眺めると「私」と口を開く。
「この薔薇で歌を思いつきました。詠ませていただいても?」
そう尋ねた彼女に誰かが拒む、前に、彼女は薔薇を掲げて口を開いた。
「黒い薔薇よ、二つのつぼみよ、その饒舌なる沈黙よ、」
顔色が悪くなる。特に小金井さんの顔色は。何かを恐れるようである。
「願わくばこの場ににて――我らの秘めたる罪を明かしたまえ……」
月読さんの詩に彼は飛び出していく。それを追いかけるように他が続いた。ヤマトやはじめちゃんもそれを追いかけていく。さて、これはローゼンクロイツが計画した通りの行動ではないだろうか。創作をする人は、何か衝撃的なものを見ると浮かんだ内容を衝動的に作る人も多々いる。彼女もそのタイプなら彼女の行動も計画に入れられてもおかしくはない。
――ある程度配役が決まっているならば、恐らく、高遠さんは。そう考えていれば、アキ? と真田さんが私を見下ろした。
「よく推理小説にある展開だなっと思って」
そう困った顔をして答えれば、彼は眉間に皺をよせる。扉の方から顔を出した高遠さんがこちらを見て手招いた。
「ほら、アキ、行かないと怪しまれてしまいますよ。真田さんもね。ただでさえ我々は疑われやすいんです」
その言葉に頷いて彼のそばにいく。さっきは怖がらせてごめんね、とあやまった高遠さんに、真田さんがよくあんなもの持てたなと告げる。
「ああでもしないとみなさん関係性を黙って白状しませんからね」
高遠さんはサラッとそう告げる。私はとりあえず、あれば映画に使う蝋人形では……? ととぼけておいたが。真田さんが何とも言えない顔をして、高遠さんが「そういうことにしておきましょうか」とだけ返して見せた。