誰がために薔薇は咲くー8ー




 さて、やはりローゼンクロイツは逃げ道をなくした。潜ってきたアーチは薔薇のカーテンにより通れなくなり、ある意味は簡易な陸の孤島になってしまっている。こうなってしまえば、無理矢理通ろうとすれば恐らく怪我で済まされないような何かはあるのでは。椅子を使って荊を取り除きながら通れば、と告げた小金井さんに私は首を左右にふった。

「やめておいた方が良いと思います」

 そう困った顔をして止める。

「こう言ったものは、よく推理小説にある展開でしょう? 何もないはずがない」
「現実にそんなことが起こるはずないだろう!」

 小金井さんが私を突き飛ばす。転倒しそうになって小さく悲鳴をあげれば、後ろにいた高遠さんが私を支えてくれたが。

「大丈夫?」
「はい、」

 小金井さんが椅子を奪い、棘を恐れず荊に進む。そうしてそのまま進もうとして――動かなくなった。ほら、やっぱり。

「小金井さん!?」

 そう叫んだ周りにはじめちゃんが近づこうとする。快斗くんはそれを止めた。

「金田一、近づかない方がいいと思う。あの倒れ方、なんかある」
「何か?」

 はじめちゃんの問いかけに、ヤマトが頷いた。

「あの動きの止まり方、多分、持病とかそういうのじゃない。泡吹いてんのをみると、てんかん発作とか急性的に怒った心臓系の疾患だろうけど、状況的に普通に起こったやつじゃない」
「ええ、恐らくは毒でしょう」

 高遠さんはそうはっきりと肯定する。薔薇の棘に毒を塗られていた。ただ、それだけ。止めたのに彼は助言を受け入れずそのまま突き進んだ。祭沢さんがあたりを見渡した。

「なら、他の場所から」
「できかねます。どの薔薇に何の毒が塗られたかなど、ローゼンクロイツ氏以外の私たちは判別できません」

 私は首を左右にふる。高遠さんがそれを肯定した。

「そう、我々はこの薔薇の牢獄に閉じ込められたということですよ」
「小金井さんは夕食にならんだ『彼』に何かお心当たりがあるようでしたが、彼のことや何か後ろめたいことがある方は気をつけるべきですね。私も気をつけましょう。人間、どこで誰に恨まれてるかなどわかりません」

 そう言って薔薇に埋まった小金井さんをみた。ひどく『何か』に怯えていた彼の死が、彼にとって救いであることを祈りながら。


 キッチンに向かえば夕食に用意されたローストチキンの他にはパンやスープなどがある。明日の朝食分などを配分する。とりあえず夕食用のものでサンドイッチは作れるだろう。ヤマトも快斗くん達も多分お腹が空いていそうだ。空腹になると思考に偏りがでる。毛利さんに尋ねればキッチンを使って良いと返答はもらったし。快斗くんがキッチンにおいてある椅子に座った。

「ここにいたのか、アキ」
「お腹は空くでしょうが、みなさんアレをみたあとでローストチキンは食べれないでしょう?」

 そう言ってローストチキンをきる。ヤマトは? と聞けば真田さんと金田一といる、と返される。探偵役と、保護者と一緒、らしい。保護者は真田さんではなく高遠さんでは? と思ったが、世間一般的には子供を事件から遠ざけようとする真田さんのような反応が正しい。ふむ、コナンくんとヤマトの行動に慣れてしまった気はする。

「どう思う?」
「遠山さんは羊役かなとは思いましたね」
「だろうな」

 快斗くんがローストチキンの切れ端をつまむ。

「今までの経験と、推理小説などの状況を参考に考えると犯行は続きそうな気はしますね。しかし、被害者間に何の繋がりがあるのかはさっぱりです」

 私は切り終えたチキンをおき、バケットを軽く焼いた。

「アキが言った言葉にたいする反応をみるに多分いろんなやつに何かはあるんだよな」
「そうですね。教えてくれなさそうですが。ローゼンクロイツのいった異母兄弟に関しても謎です。殺された二人は私達とは年が離れすぎてる。両親と、ならともかく」

 焼き上がったバケットにバターをぬり、サラダとして準備されていた野菜と切り分けたチキンを挟む。

「私と遠山さんを勘違いされるのはわかりますし、私と快斗くん、はじめちゃんとヤマト、快斗くんとヤマト……ぱっと見で関わりがあって兄弟として見えるのはその辺りですかね。何を根拠にローゼンクロイツが私たちに異母兄弟がいると言ったか不明ですし……」

 ティーポットに入れる紅茶を選ぶために棚を見る。なるほど紅茶の種類が色々揃っている。しかも、このブランドはローズティーをブレンドしてくれる専門店ではなかっただろうか。棚の中から高遠さんが好きな銘柄の紅茶、あとはヤマトやはじめちゃんが飲みやすい銘柄を選び、レモンとミルクも準備する。

「ちなみにアキ、何か心当たりは?」
「まったくありません。快斗くんは?」
「俺もない」

 そう言った快斗くんはお皿やカップなどを準備してくれる。私はお盆にサンドイッチを持ったお皿をのせた。快斗くんがどこからともなく旗のついたピックを取り出してヤマト用のサンドイッチにつける。毛利さんの分はキッチンにおいた方がいいだろうか。とりあえずダイニングに向かえば、毛利さんがやってきた。

「毛利さんの分はキッチンに置いておきました。よろしければお食べください」
「ありがとうございます」
「毛利さんは何すんだ?」
「セラーにご遺体を保管しようと思いまして」

 毛利さんの言葉に確かにそれもそうだとおもう。エバーミング処理をされていたとしても、とりあえずは寒い場所に保管した方がいい。

「手伝おうか?」
「いえ、お客様にお手をわずらわせるわけにはいきませんから」

 そう断った毛利さんを見送れば、禅田さんがやってくる。

「禅田さん、サンドイッチを準備しましたが」
「いらないわ!」

 そう言った彼女は客室のある方へ向かった。あれもまたよく推理小説である展開だろう。ダイニングに繋がる螺旋階段をおりれば、はじめちゃんとヤマト、美雪ちゃんたちがこちらをみた。

「アキ? 快斗? どこ行ってたんだ?」
「キッチンへ。ローストチキンそのままだとみなさん食べづらいかなと思ってサンドイッチにしてきたんですが……」
「お、さんきゅー!」

 テーブルにサンドイッチが載った皿を並べていく。快斗くんがヤマトの前に子供用サンドイッチをおいた。ヤマトが何とも言えない顔をしたが。とりあえず何を飲むかわかっている高遠さんと私、ヤマト、あとはじめちゃんの分の紅茶をいれる。

「美雪ちゃんはローズティーのブレンド大丈夫だっけ?」
「二種類あるの?」
「うん。この館にある紅茶の茶葉、ローズティーブレンドのブランドなんだけど、ローズティーの風味が強いものと弱いものの二種類持ってきたよ」
 そう言って彼女に紅茶の茶葉を嗅がせる。いい香り、と告げた彼女に、ね、と同意をしておく。少しは落ち着くだろう。他の人達にも聞くべきだろう。

「他の皆さんはどうされますか? あ、真田さんは普通の方がいいですかね」
「そうだな、助かる」

 真田さんに紅茶を入れる。不思議そうに月読さんが尋ねる。

「遠山さんには聞かないのですね」
「あぁ、それは彼女に紅茶の淹れ方を教えたのは私なので、私の好みを理解してくれているんですよ」

 それは事実だ。彼が教えてくれたのだから、知っている。周りは納得したし、はじめちゃんと美雪ちゃんが心配そうにこちらを見たが知らないふりをして月読さんに尋ねる。

「月読さんはいかがされますか?」
「……そうですね、ローズティーの方をいただきます」

 月読さんの言葉に私は頷いて準備をする。佐久羅さんがおちゃらけたように尋ねる。

「実は飯塚さんと遠山さんはご兄妹とか?」

 その言葉にはじめちゃんと美雪ちゃんが反応する。高遠さんもほんの少しだけ反応した。私は首を左右にふって口を開く。

「いえ、昔、彼が独立される前までは近所に住んでらっしゃったので……昔は何をするにも遙治くん遙治くんとくっついて回っていたので妹と間違われましたが、この年になって妹と間違われるのは初めてです」
 少しは大人っぽくなったのですが。

 そう困った顔をする。高遠さんが笑みを浮かべながら口を開く。

「心配しなくとも貴方は年々綺麗になっていますよ。奇術にしろ、何にしろ、貴方は自信を身につけることです」
「あー、はいはい、弟の目の前で、いちゃいちゃしないでほしい。リア充は爆発……いや遠山さんが爆発して」

 ヤマトがそう言ってサンドイッチを食べる。快斗くんがひゅーひゅー、言っているのに顔を少し赤らめさせた。まぁ高遠さんも私のようすにおかしそうに笑ったが。私はむっとする。

「快斗くんも! 遙治くんも! 揶揄っていますね」
「拗ねないでください」

 そう言って私の頭を撫でた高遠さんは私の耳元にくちを近づけるとコソッと告げる。

「アキ、できるだけ黒羽くんやヤマトくんと行動しなさい。いいですね」

 私は彼を見上げる。彼は笑みを浮かべるだけだ。やはり、彼が呼ばれたのは同じ理由ではなかろうか。