誰がために薔薇は咲くー10ー



 青薔薇の展示を行いますので、応接間にお越しください。そう書かれたローゼンクロイツ氏からの手紙が差し込まれたのは翌朝のことである。半分まだ眠気眼のヤマトと快斗くんと一緒に応接間にいく。真田さんにおはようございます、と声をかければ彼もまた返事した。

「ヤマトはまだ眠たそうだな」
「アキにギリギリまで寝ていいって言われたから」

 そう言ってヤマトはあくびをこぼす。ヤマトは夜更かししがちなので、最近は身長が伸びなくなるというようにしたらきちんと寝るようになった。
 まばらに集まってくる面々をソファにかけてみていれば、最後にはじめちゃん達がやってきた。

「おはよう、はじめちゃん、美雪ちゃん、遙治くん」
「はよ、アキ。まだ開けてないのか?」
「時間が早いからな」

 はじめちゃんの言葉に快斗くんが時計を見る。私は腕時計をみる。もうすぐで定刻である。

「あと1分ですかね」

 私がそう告げれば、はじめちゃんと快斗くんが扉を伺った。そうしてはじめちゃんが扉の前に立つ。さん、に、いち。

「時間です」

 そう言えば、はじめちゃんが扉を開けようとする。どうやら鍵がかかっているらしい。

「鍵がかかってる……?」
「無理やり開けるか? 俺もアキも遠山さんも真田さんもできるだろうけど」
「それをいうと泥棒みたいに聞こえるからやめてくれ」

 真田さんの言葉に高遠さんが同意をする。私は少し考える。

「扉が閉まっているなら、ローゼンクロイツ氏はそこから入ってきて欲しくないのでは?」

 私の言葉に、覚醒したらしいヤマトが応接間横の扉に近づいた。

「快斗、金田一、ここ確か応接間の外につながってる」
「はい、そちらから中を見ることはできます」

 頷いた毛利さんにはじめちゃん達は応接間横のテラスに繋がる扉を開けた。



 なるほど、ゴルゴダの丘だ。新約聖書において、キリストが磔にされたとされるエルサレムの丘。別名、されこうべの丘。恐らくはキリストが磔にされているところを青い薔薇と白い薔薇を使って作り上げている。高遠さんっぽいと言えば高遠さんっぽいが、恐らく高遠さんの行動をみている限り彼は関わっていない。それに、祭沢さんの心臓を突き刺された杭に、ああこれは他殺だな、と思う。自分で自分に杭を打つことなどできないだろう。そして、扉は内開き、扉ギリギリまで敷き詰められた薔薇、すなわちこれは密室殺人である。
 さて、祭沢さんは高遠さんの異母兄弟という感じはしない。と、なると、彼もまたミッシングリンクの一員ということだ。

「アキ達はどう思う?」

 はじめちゃんの言葉に私は密室ですね、と告げた。密室? とはじめちゃんがこちらをみたので、答えようとすれば快斗くんが口を開く。

「ヤマト達と探検した時、この応接間は内開きだった。窓の鍵もしまってるし、窓の鍵はゆすって動くようなタイプじゃない」
「ゆすって動く?」

 美雪ちゃんが首をかしげる。

「……学校の窓とか、古くてガタガタ動くことあるだろ。中途半端な状態で鍵を留めておいたら揺すったら鍵がかかったりあいたりするだろ?」

 快斗くんがそういう。泥棒っぽい、と思ったが、そう言えばはじめちゃんが昔同じような手順で学校に忍び込んだ気がする。ヤマトが何か言う前に先手を打っておこう。

「薔薇にかかった血が渇いてるのを見ると時間はたってそうですね。私や真田さん、遠山さんは奇術の容量で扉の開け閉めは可能ですが……扉の前の青薔薇が崩れていませんし、ふまれたりした形跡もない。外に出た後に薔薇を敷き詰めるのはどう考えてもふつうは無理ですね」

 私はそういってヤマトを見下ろす。

「ヤマト、好奇心は猫をも殺すといいます。大好きな探偵ドラマの真似事はいいですが、露西亜館やこの前の洞窟探検ことを思い出してほしいところです」
 危なかったでしょう。

 そう言って釘を刺す。ヤマトはそっと目を逸らす。はじめちゃんも露西亜館のことがあるからか、それとも何かあるのかそれに同意した。

「それに、ヤマトくんの出る幕はありませんよ。今の時点で一番考えうるのは自殺です」

 高遠さんのそれは嘘である。恐らく犯人を泳がせるためにわざとそう言ったのだろうとは思う。ヤマトが現に何とも言えない顔をした。月読さんが同じように頷いて、そうかもしれません、とつぶやいた。

「ゴルゴダの丘の模して引き詰められた青薔薇の花言葉は不可能。そして祭沢さんのまわりに敷き詰められた枯れた白薔薇の花言葉は『潔白を失い死を望む』」
「祭沢さんが二人を殺して死んだってことじゃない?」

 冬野さんの言葉に禅田さんが同意する。快斗くんがヤマトの肩をポンっと叩いた。

「なら、警察が来るまで現場の保全だな」
「ええ、そうですね。佐久羅さん、申し訳ございませんが、写真を撮っておいてくださいませんか?」
「え?」
「警察に提出しますので」

 高遠さんの言葉に周りは撤収する。そっと現場から遠ざけるように高遠さんはヤマトの背中を押した。私と快斗くんはそれに倣ってテラスを後にする。


 ――高遠さんはローゼンクロイツではない。いかにも彼らしい犯行現場であるが。これは彼をスケープゴートにする為か、それとも彼に気質が似ているか、だろう。
 どうしてローゼンクロイツは異母兄弟を狙うと書きながら、恐らく違う人を殺めていくのか。被害者のミッシングリンクは。青薔薇と、薔薇の入った名前。要所要所で現れる蓮花という薔薇。

「アキ?」

 ぽん、と肩に手をおかれる。見上げれば真田さんである。

「あぁいえ、少し考えごとを……」
「ヤマト達に置いていかれてるぞ」

 真田さんの言葉に振り返ってヤマトと快斗くんをみる。確かに二人ははじめちゃんと何か話しているのが見えた。高遠さんは部屋に戻ったみたいだ。この違和感をはじめちゃんに言ったほうがいいのかを考える。真田さんはそれを違う風に捉えたらしい。

「遠山さんが心配か?」
「少しだけ。でも、遙治くんは昔からこういうことがあっても、淡々としてるというか。彼はよくふらっと現れてふらっと帰っていくので」
「教えた、と過去形の割には仲がいいな」

 真田さんはそう言ってホールにある椅子に座る。手招いた彼に私も頭の中を整理したいがために座った。

「昔、隣に住んでいたんですよ。彼が仕事で海外にいく時は、連れて行ってもらったりもしました」

 そう言って私は目を伏せる。ロスに行ったこともある。イギリスにある彼の家に招かれたこともある。ヤマトがやってくる前まではそうやっていたけれど、ヤマトが家にやってきてからは私達の家に帰ってきてくれた。あの事件が起こるまで。

「初恋か?」

 意地悪な笑みを浮かべた真田さんに私は言葉を詰まらせる。

「違います」
「本当に?」
「……初恋にしてしまえば、叶わなくなってしまうじゃないですか」

 そう眉尻を下げて告げる。そんな私に彼はふはっと笑った。私は彼の反応にムッとする。彼は私の頭をポンっと撫でた。

「いや? そうしてると年相応だと思っただけだ……是非とも泡になる前には教えてくれ」

 私はその言葉に目を瞬く。どう返答するかと考えていれば、彼は話を変えた。

「アキ、そう言えば、青薔薇のことだが」
「はい」
「俺自身に覚えがないが団長に聞いたんだ。そうしたら、返答が来て――思い出した」
「お聞きしても?」
「もちろん。三年前に薔薇の博覧会があったんだが、たまたま俺たち奇術団が呼ばれていたんだ。と言っても全員じゃない。俺か麻子か、二人ともかという話だった。で、スケジュールが詰められていたのもあって、念のため俺名義と麻子名義で二部屋とってたんだよ」
「真田さんは泊まってない?」
「あぁ。俺ご指名の別の依頼が来てたんで結局な。で、それに参加した麻子がこんなことを言っていた」
 ――青薔薇が展示されるって聞いていたのに、火事でうやむやになった。

 私は目を見開く。恐らくそれだ。調べないと確定ではないが、恐らく前提はそのホテルに宿泊していて、尚且つ薔薇の名前が入っている人だ。でも、犯人はどうやって「殺害する相手」を特定しているのだろう。あれはけっして無差別じゃない。

「たまたま麻子は鳩に餌をやるために外出中で被害にあわなかった」
「分かりました、ありがとうございます。これで色々とわかりそうです」
「あんまり危険なことをするなよ。遠山さんに叱られるぞ」

 そう釘を刺した彼に私は頷く。危険なことはしないつもりだ。部屋に、とエスコートしてくれる彼に一度部屋に戻る。私が部屋に入って施錠するまでを確認する彼は心配性である。