奇術師たちは嘘をつく―1―
運が悪かった、としか言いようがなかった。目の前にいるのはテレビ局のスタッフと、真田さんと星河さんだ。本来なら星河さんと真田さんは尋ねてくるタイミングが違うため、蜂合わさない二人だが――こういう時に限って彼らは同時に来る。まぁ彼らもショーのスケジュールがある。今回は本当にたまたまだろう、と信じたい。
「参加、と」
そう言って真田さんは懐から取り出したペンで、私に変わって紙に丸をする。私は「あっ」と声を出した。
――毎週土曜日の夜7時からダウト! という番組がある。
生放送で行われるその番組は、似た名前のトランプゲームに似ていた。様々なジャンル、その中から選ばれた十四人は事前にトランプの番号を割り振られ――2から順番にそのジャンルにまつわり数字を意識したものを披露していく、というシンプルな番組構成である。ただし、順番通りとは限らない。演者達は仮面をつけた状態――誰かはよくわからない形の中で演じ、演じる番号を入れ替わることを許されている。もちろん入れ替わっていることは芸能人達には伏せられた状態で番組はすすむ。最後に芸能人達が誰が誰で誰が入れ替わったかを推理して――正しい順番である番号を当てる、というわけだ。たまにヤマトが興味を持つジャンルの時に見ているが、芸能人たちの推理が番組終了までに終わらないこともままあり、オンライン配信で続きを見ていることも多々ある。そんな番組が、今回は奇術師達を集めて放送するつもり、らしい。
いつものように大道芸が終わった後に、番組スタッフがビラを私に渡して頭を下げた。ぜひ、お願いします! 俺を助けると思って! などと言われても私はそう言った番組に興味はないし、出たくもない。断ろうとしたところに真田さんと星河さんがやってきて今に至る、というわけだ。
「真田さん、そんな勝手に」
「まぁまぁ、飯塚さん。君にとってはいいチャンスだよ」
星河さんの言葉にそういうことじゃない、と言おうとする。チャンスなんて不要だ。そう説明しようと思ったが、それを遮るように「アキ?」と私を呼ぶ弟の声がする。そちらを見ればヤマトと少年探偵団である。ヤマトはすぐに私の傍らにいるマジシャンに気が付いたらしい。
「あー! マジシャンコンビがいる!」
「お、ヤマトじゃねぇか」
「こんにちは、飯塚さんの弟くんだね。一緒にいるのはお友達かな?」
そう言ってヤマトに合わせて少し屈んだ星河さんに、ヤマトたちは頷いた。私は顔を覆う。この流れは。コナン君が首をかしげる。
「そうだよ! でも、星河さんと真田さんとアキ姉ちゃんって珍しい組み合わせだね」
「たまたま鉢合わせしてな。ヤマト、お前の姉ちゃんを説き伏せて欲しいんだが」
「なんで?」
私は真田さんが番組の書類を見せるのを制する。が、私の手が届かない場所で、星河さんが真田さんからそれを受け取ると代わりにヤマト達に見せた。
「コレの参加を渋ってるんだよ」
「生放送推理番組、ダウト……?」
コナンくんは書類の表紙に書かれた言葉を口に出して首を傾げた。どうやら彼は見ていないらしい。偶にその番組の話をするといっていたが、それはコナン君ではなく灰原さんなのだろうか。同じく書類を見たヤマトが目を輝かせた。
「もしかして! マジシャン回でもやるのか!?」
「そうなんだよ。で、俺や真田さんも出るんだけど……飯塚さんにも声が掛かったんだ」
そう言った星河さんに、真田さんが口を開く。
「演者の家族なら多分入って見れるぞ」
「マジで!?」
ヤマトの言葉に私は頭を抱える。これはやっぱりいつもの流れではなかろうか。コナン君が説明を求めてヤマトくんをみた。
「ダウト?」
「土曜日にやる番組よ。トランプのように演者に1〜13、ジョーカーが割り当てられていて、2から順番に自分の番号が含まれたジャンルのものを披露するの。演者同士で披露する番号を入れ替えてね。観客は演者たちに割り当てられた番号を当てるのよ。いまのところジャンルはさまざまね」
灰原さんの解説にヤマトがコナンくんをみた。
「お前、見てないの?」
「ああ」
「てっきり見てるかと思った。深夜帯にやってた時のミステリ小説編見た方がいいぜ。結構有名な作者が集まってたし。あとはピアニスト編もおすすめ。わかんなくても見てるだけで結構面白い。生放送だからたまに推理が番組終了まで間に合ってないけど」
ヤマトの言葉に、番組スタッフががっくしと肩を落とした。それは言わないお約束、らしい。
「今回はマジシャン回だから観客を入れて行うつもりなんです。ご家族だけでなく、この子達も観覧席に案内はできますよ」
スタッフの言葉に、少年探偵団が湧き上がった。よかったな、だなんていう真田さん達は完璧に確信犯だろう。これではわかりました、と頷くほかないのである。高遠さんに相談してから決めるといいたいところではある。が、遠山さんというワードは薔薇十字館の事件の後では、真田さんの前では禁句であるし、少年探偵団をがっかりさせるのはどうかとも思う。番組スタッフの運がいいのか、それとも私の運が悪いのかはわかりかねるが……私は観念して両手を上げた。降参だ。
「……わかりました。出演します」
「ありがとうございます! ええっと、ステージネームは……」
スタッフがタブレットを取り出した。私は困った顔をする。ステージネームなんてものがない。今までは大道芸で、しかも名乗らずにやっていた。コナンくんがそれを察したのか口を開く。
「そういえば、アキお姉さんはステージネームも名乗ってないね。本名が嫌なら、簡単にでいいんじゃない?」
確かに本名は嫌だが、かと言って簡単にと言って浮かぶものはない。見かねたヤマトが口を開いた。
「じゃあ、例えば――」