奇術師たちは嘘をつく―4―
三番手の少年――ベルくんが無事に数字当てマジックを披露する。催眠術のくだりから、どうやっても数字の3を引いてしまう解答者である芸能人と、やっぱり数字の3では? と首を傾げる少年の掛け合いは可愛らしい。少年はわざと数字の3を引かせている――まアキングも13なので、キングも引かせている――のだが、引く方はどうしてそうなるかわからないのだろう。本当に催眠術にかかったつもりになっている。しかしながら随分と上手な少年だ。私はあれくらいの時は高遠さん――遙一くんの前で失敗ばかりしていた。これが才能の差なのだろうか。
「ディレクター、やっぱり連絡は取れません」
スタッフの奥野さんがディレクターの有本さんに告げる。私は一旦少年から目を離し、二人を見た。別のスタッフが駆け寄ってくる。
「有本さん、奥野くん、なんか変なメールがきたんですけど……」
「イタズラメールなんてしょっちゅうあるだろう?」
有本さんはそう言って別のスタッフをみた。彼女は言葉を続ける。
「でも、今回のは気味が悪くて……」
彼女はそう言って二人に何か紙を見せる。えっ!? と声を上げた奥野さんに、有本さんはイタズラだろ、イタズラ、と返したのだが。そこでその話は終わったらしい。配置につけ、と言われた彼らは解散していた。私は再度少年に意識を戻す。もうフィナーレだ。催眠を解いて違う数字のカードをひかせる。それを当てたベルくんは一礼をすると舞台からはけて――こちらにやってきた。私は彼に合わせて屈むと、すごいね、上手だね、と告げる。
「貴方の方が上手では……」
その言葉に私は小首を傾げる。米花公園で見ました、と告げた彼に私は苦笑いをした。
「ううん……私は貴方くらいの頃は失敗してばっかりだったから、今の年で人前にたってできる貴方の方が上手かな……」
私の返答にベルくんは目を瞬く。想像がいまいち、らしい。私はその言葉にさらに苦笑いをする。さて、次は4番目。高遠さんのマジックである。現れた彼は口元に不敵な笑みを浮かべると、トランプのカードを繋ぎ合わせると――薔薇の花に変えて――それを最後には死神の鎌のようなものに変え――銃のようなものにかえた。まぁ、そこから何もない鞄に銃のようなものを入れる。そして、そこから彼は様々なものを取り出す。まるでメリーポピンズの鞄やドラちゃんの四次元ポケットだ。流石の繋ぎ、なのだが、少しの違和感がする。彼が最近よく扱う生花があまりで使われないからだ。テレビであまりそういったことを披露すると明智警視やはじめちゃんにバレるからだろうか。それとも私の演目の関係に気を使ってくれているか。
「あら、貴方、自分の準備はいいの?」
高遠さんのマジックを見ていれば、私の背後から声をかけたのは姫宮さんである。魔女のような、あるいはハートの女王のような、服装をした彼女は「それとも」と続けた。
「男に取り入る隙を窺っているのかしら」
そう告げた彼女は私と入れ替わって7番目である。いつまでそれを言われなければいけないのだろうか。
「あなたこそ、いいんですか?」
私の問いかけに彼女は鼻で笑う。
「私はイリュージョンをするから今から別のスタジオに移動するのよ」
そういえばイリュージョンをする人達向けに別のスタジオを準備してあると言っていた。私はすぐ隣の部屋になるが、彼女は屋外かどこかなのだろうか。彼女はお先にじゃあねというと、私を鼻で笑った。
「星河くんとヨハンの間に挟まれてるけど」
彼女の言葉に私は困った顔をする。変なプレッシャーである。意識してみれば、真田さん、星河さんと人気の奇術師が続き、私の後には大御所であるヨハンさんだ。私は目を伏せて深呼吸する。高遠さんが近くにいる。大丈夫だ。そうして目を開けたころ、彼女の後ろ姿が見えた。スタッフを連れて行く彼女はまるでトランプ兵を引き連れて歩く女王様のようだった。
「一周回って、あれはあの人なりの激励だろ」
「わっ」
急に背後から声が聞こえて私は振り返る。パーカーを被った快斗くんである。
「びっくりした……」
「悪い悪い、アキがいたのが見えたから」
そう言って彼は高遠さんの舞台をみて――ベル君をみた。
「この子は知り合いか?」
「あぁいえ。私がちょっと心細いのでそばにいてもらってるの」
そう言って少年を見れば、少年は「いえ」と首を左右にふった。
「僕が寂しかっただけです」
「……親はどうしたんだ?」
「……あの人達は来ません」
軽く首を左右に振った彼に、私は眉尻を下げる。快斗くんは、そうか、と言うと、同じく舞台をみた。
「快斗くんもそろそろ順番では?」
「……俺は女王様の次だから、まだもうちょっと先だな。さっきの見たか? スタッフを引き連れて行くサマ! まるで、トランプ兵を引き連れていく女王様だぜ」
「ふふ、私も思いました」
私はそうクスクス笑う。ベル君もまたクスクス笑った。その様子は年相応でかわいらしい。
「なになに? なんの話で盛り上がってるんだい?」
スキャットさんがそう言ってやってくる。
「さっきの姫宮さんがまるでトランプ兵を引き連れた女王様みたいだったので」
「あぁー、彼女、なんだかカリカリしちゃってるよね! まるで焼きすぎたベーコンみたいに」
彼はそう言って彼女が去った後を見る。その方向から芸人の瓦座さんがやってきた。彼は私達の視線を追って振り返ってから――私達をもう一度キメ顔でみた。
「お? もしかして、僕に注目してくれてるん?」
「……してるとも!」
瓦座さんの言葉にスキャットさんが陽気にそう答えた。瓦座さんは笑いながらこちらによって来る。
「のってくれて嬉しいわぁ。まぁ、姫宮さんを見てたんやろ? えらい怖い顔してたけど……ま! 僕みたいなのじゃなくてでっかいイリュージョンするんやったら当たり前か」
「でっかいイリュージョン?」
「……くる時たまたま見たんやけど、ちょっと離れたスタジオにでっかい磔? みたいなん用意されてたわ」
瓦座さんはそう告げる。私は少しだけ息を呑む。恐らくMr.正影の『魔王復活』だ。それは使わない方がいいと、私は告げたはずだけれど。
「アキ?」
「いえ……」
そう首を左右に振る。鳩が飛び交い――一羽が私の腕に止まる。その子を撫でていれば、ステージが終わった高遠さんが戻ってきた。