奇術師たちは嘘をつく―5―




 さて、瓦座さんの話も含めたスタンドアップマジックや、範田さんの超能力のようなマジックが続いて番組が盛り上がり――姫宮さんのイリュージョンへと移行する。快斗くんは同じく準備のために、席を離れ、私は高遠さんとベル君とモニターをみた。スキャットさんと瓦座さんはやることがあるからと告げて、そのまま立ち去った。その後ろ姿をやること? と首を傾げて見送る。順番が終わった彼らのやることとは?
 気がつけばモニターの結構な関係者が集まってきている。私の(本来の)順番の前――範田さんが、快斗くんとは入れ違いにやってきた。そうして映し出されたセットに、二人は息をつめた。私はやはりとおもう。大きな十字架に拘束するための縄。火あぶりにされる魔女のために整えられた舞台。

「……このセットは」
「あぁ、先生の……」

 星河さんはそう言って苦い顔をする。星河? と真田さんが彼を呼べば、彼は困った顔をした。

「先生のイリュージョンなんだ」
「と、なると、Mr.正影の?」

 高遠さんがそう尋ねると、二人は頷いた。私は高遠さんを見上げた。彼は気にしていないように見える。

「使わない方がいいとは言ったんですが……意味はありませんでしたね」

 私はそう言って高遠さんから目を離しモニターをみる。カメラの前で怪しく笑った彼女はまるで魔女のようだ。真紅と黒の衣装を翻して、四肢を縄で縛られて、拘束されて行く。そうして、その縄の先をスキャットさんと瓦座さん、あとスタッフが握った。十字の足元に火をつけられる。燃えて行く。十字架も縄も彼女の服も、だ。
 おかしい、と思う。そろそろ脱出してもおかしくはない。彼女は叫ぶ。これがふりなのかどうかなんて誰もわからない。でも、嫌な予感はする。少しの恐怖に私はそっとベル君の目を隠した。中の人が丸まっていくのをみて理解する。これは――。

 ――これは、違う。失敗だ。

 恐らくロープを握っているスキャットさんや瓦座さんもそう判断したし、ここにいる多くもそう判断した。そう判断はしたが、中断してしまえば観客は焼死しているところを見たことになり、精神的なダメージが大きくなる。だから、成功したように見せなければいけない、と思った。

「これでは、失敗したと理解した観客に負担が大きすぎます」

 彼女の声を探そうとのど元に手をあてた。彼女がこちらに来たことにすればいいのだ。それを制した高遠さんは私を見おろす。

「私に任せなさい」

 そう言った彼はそのまま快斗くんの元へ向かう。そうして快斗くんと一言二言告げると、そのままスタッフの奥野さんと話す。

「ぶっつけ本番ですが、いけますね?」
「ええ、誰だと思っているんですか」

 そう言って彼らはまた舞台袖にはけた。
 モニターのところで、スキャットさんがまるでスモークの演出を思い起こさせるように、消火器を使った。そうしてモニターはこちらに切り替わる。現れたのは彼女に似せたマリオネットだ。糸のないマリオネットの彼女は一礼して――照明が一瞬の暗転と共に、彼女のふりをした人が現れる。現れた彼女に観客は安心したようだった。ぱちぱちという拍手の中、彼女のふりをした人が再度優雅に一礼して見せると舞台袖に下がり――そうしてコメントを求めることも許さずそのまま快斗くんのイリュージョンへと流れるように移行した。

「まさかそんな……」

 星河さんがそう小さくぼやく、それは範田さんも同じだ。何が起こったか見えていなかっただろうベル君は私を見上げた。

「お姉さん、何が……?」
「……ふふ、ちょっと怖かったからびっくりしちゃった」

 私はそう言って彼を見下ろす。彼女は恐らく助からない。もともと失敗するようになっていた? いや、リハーサルはしたはずだ。その時に成功していなければ彼女はここにいなかった。左近寺のように本番と違う環境だから失敗するようになっていた? いや、あくまで私は――ディレクターの有本さんとスタッフの奥野さんが本番と同じ形を望んだ。ということは、そういったことも考えにくい。今の時点でこれが事故かそうではないかなんてわからないが、とても嫌な予感はする。

「お姉さん、スマートフォンがなっています」

 ベル君がそう言って、私の小さなポシェットを指差した。ポシェットの中では確かにスマートフォンが鳴っている。相手ははじめちゃんだ。嫌な予感が増幅する。

「……君に少しお願いがあります。客席から私の弟とその相棒を連れてきてほしいんです。できますか?」
「わかりました、やってみます」
「ありがとう。弟は飯塚ヤマトと言います。目の色は青いです。もう一人は江戸川コナンくんと言います。ベル君と同い年くらいです」

 一度はじめちゃんからの電話をきり、私は念のためヤマトとコナンくんの写真をみせる。少年はそれを確認すると、スタッフの合間を縫って客席に向かった。薔薇の香りがする。舞台を見れば、快斗くんがゲストの一人に薔薇を渡しているのがみえた。
 私の出番や準備を含めると私一人で動ける時間はない。そして、恐らくではあるが、これは高遠さんの計画ではない。彼はもちろんいるのだけれど、なんというか感覚の部類にはなるが彼なら失敗させるのではなく、もう少しきちんとした芸術にすると思う。ディレクターの有本さんに私は尋ねる。

「彼女達はどちらのスタジオで?」
「少し離れたスタジオだよ」
「地図は分かりますか?」

 そう尋ねれば別のスタッフが教えてくれる。その紙を見つつ、はじめちゃんに折り返した。数コールあと、はじめちゃんがもしもし!? と少し焦ったような声ででた。

「アキ、今はスタジオか?」
「うん。私はまだスタジオにいるよ。ごめん、本番の準備まで少ししか時間がないから、手短に」
「アキ、今からでも番組を止められないか」

 真剣なはじめちゃんの言葉に私は「どうして?」と尋ねる。

「参加者が二人遺体で見つかったんだよ」

 その言葉に私は目を見開く。

「実は朝からその捜査に巻き込まれてて……今その番組の参加者ってことがわかったんだよ!」

 はじめちゃんの言葉に私は考える。と、なると。

「番組は見てない?」
「見れてない……」

 がっくり、と落ち込んだような声色である。

「……生放送という立場上、今から止めるのは難しいね。今は剣持警部と一緒ですか?」
「ああ。あとは明智警視もいる」

 そう言ったはじめちゃんに私はもう一度時計を見る。

「はじめちゃん、よく聞いて。私は自分の出番が近いので動けません。なので、ヤマトとコナンくんを今から別のスタジオに誘導するから、そちらで二人と落ち合ってもらえるかな?」
「……別のスタジオ?」
「たった今、事故なのか事件なのか分かりかねることが起きて――視聴者にバレないように成功したように誤魔化したの。今放送を止めれば、あれは失敗で本当に人間が死んだんだと視聴者の多くにショックを与えちゃうことになるから」
「……! わかった。場所は?」

 はじめちゃんの言葉に私はスタジオの場所を教える。

「ちなみに――はじめちゃん、亡くなった人のトランプの番号とかわかる?」
「トランプ? ……、……さんきゅ、おっさん……四と八だな」
「ちなみに死亡推定時刻は?」
「だいたい朝の9時と午後3時」

 その情報を反芻する。亡くなったのは4と8の人。午前9時となれば一度集合した時間であるし、午後3時となれば、リハーサルを終えて再度全員揃っていたはずである。とりあえず午後9時も午後3時も番組出演者のマジシャンは全員集合していましたね、と返しておいた。もしこれが番組出演者が企てた事件ならば、全員アリバイがあることになる。こういうのは早くに共有したほうがいいだろう。

「では、すいませんが、あとはヤマト達とお願いします」
「わかった。……アキ、気をつけてくれ」

 真剣な声色に私は大丈夫だよ、と返す。

「ただの事故かもしれないしね」

 私は肩をすくめてそう告げる。私は奇術師達とそんなにかかわりがないし、恨まれる覚えもない。