二人目の怪盗-3-
さて、青森の蒲生剛三のアトリエにつけば、刑事さんたちに関係者が集まる場所に誘導された。そこにいたのは剣持警部とはじめちゃん、美雪ちゃんだ。お互い目をぱちぱちと瞬いてしまったのは仕方がない。
「アキ!?」
「アキちゃん!?」
「はじめちゃんと美雪ちゃん? 剣持警部も!」
私たちの反応に快斗くんは不思議そうに首をかしげたが。
「まさか、中森警部の知り合いが剣持警部……?」
「ああ、ちょっとした先輩後輩の仲でな。と、いうことは……」
「はい、中森警部に頼まれてこちらに」
私の説明にそうだったのか! と剣持警部は私の肩をばしばしたたく。ちょっと痛い。それが分かっていたら金田一を呼ばなくてもよかったかもな! と告げた剣持警部に、なるほど、と思う。中森警部が用意した助っ人をよく思わず剣持警部が信頼できるはじめちゃんを用意したというかたちだろう。はじめちゃんと美雪ちゃんも同じように納得したらしい。連れてきたのが高遠さんでなくてよかったというか……
「じゃあ、剣持警部が言ってた怪盗事件に強い女の子って」
「アキのことだったのか!」
「うーん、語弊があるよ。何ならヤマトとコナン君のほうがキッド・キラーって呼ばれてるから怪盗事件に強いと思う。二人はキャンプ中だから私が呼ばれたというか……」
そう困った顔で言えば、二人は顔を見合わせたが。はじめちゃんが不思議そうに首をかしげる。
「じゃあ、そっちのやつは?」
「私のマジック友達の黒羽快斗くん。有名なマジシャンの息子なんだ」
そう笑えば、二人は目を瞬いたあと少しだけ心配そうにした。「ども」とあいさつした快斗くんに私ははじめちゃんたちを紹介するために口を開く。
「快斗くん、こっちは私の幼馴染みのはじめちゃんこと金田一一と、美雪ちゃんこと七瀬美雪、普段は不動署で勤務している剣持警部」
「金田一?」
「お爺さんが有名な金田一耕助なの」
「へぇー。俺は黒羽快斗ってんだ。江古田高校二年、よろしくな」
そう言って花をどこからともなく出して見せた快斗くんに美雪ちゃんが「わぁ」と感激した。はじめちゃんが「へぇ、うまいもんだな」と感心している。ちなみに二人が一瞬心配そうにしたのは彼が高遠さんではないかと思ったのだろう。赤い薔薇の花を使わないように言っておいたほうがいいかもしれない。私はこっそりと耳打ちする。
「ごめんね、快斗くん。二人ともちょっとマジシャンに過敏なところがあって」
「過敏?」
「赤い薔薇は使わないほうがいいかも」
「なんで?」
「ちょっといろいろあって、快斗くんにあらぬ疑いがかけられるというか」
私の発言に快斗君は少し不思議そうにしたが、わかった、とうなずいた。もう一度、ごめんね、と謝っておいたが。
さて、と、だ。はじめちゃんに任せてしまえばだいたいは解決するだろうが、彼がいるから不思議と成立するものもある。そのためにも模倣犯が何をしたいのかをはやめに調べないといけない。
「剣持警部、今回届いた予告状はありますか?」
「おお、飯塚さんはやる気満々だな」
「今回の件、少し気になることがあって」
「気になること?」
首を傾げたはじめちゃんに、うん、と返す。彼も怪盗紳士を捕まえに来ているとなれば把握しておいたほうがいい。伝えようとすれば、それを遮るように誰かがやってきた。
「ああ、お揃いになりましたか」
そう言ってやってきたのは壮年の男性である。この家の執事の小宮山と申しますと彼は名乗ると私たちを案内するように歩き出す。これは情報共有はあとになりそうだ。
「今夜、パーティーがあるそうですな」
「はい、『我が愛する娘の肖像』という絵のお披露目でございます」
小宮山さんの言葉に快斗君はあたりを見渡した。
「その割には人気がないんだな」
「ご主人のご友人や知人など数人集まるごく内輪のパーティーでございますから」
小宮山さんはそういって庭の中をあるいていく。かなり広大な庭だ。まるで絵画に出てきそうな、さまざまな国にある庭をまねたような庭である。その中に不自然に燃えた木があった。
「あれは――」
「あれは先週火をつけられまして」
小宮山さんの言葉に剣持警部が補足をする。
「怪盗紳士の仕業だよ」
「え?」
「実は先週にこの大木をモデルにした絵が一枚、屋敷から盗まれとるんだ」
恐らく盗んだのは偽物だろう。警察も注視したら気づくような気もするが、今回のように複数の都道府県や国を跨ぐ場合情報の共有が難しい面もあるだろうし、固定概念というのも覆しにくいものだ。
「絵のモチーフも一緒にこの世から消し去りやがったのさ!」
剣持警部の言葉に、「でも今まで怪盗紳士ってこんな風にしてなかったよな?」と快斗くんがつっこんだ。私も合わせて首をかしげる。
「いくら絵の世界をひとりじめしたいからって、ここまでします?」
「たしかに今までとちと違うが、奴も犯罪者の本性をむき出しにしてきやがったんだろーよ!」
剣持刑事の言葉に快斗くんが若干アキれたような笑みを浮かべた。剣持警部は中森警部タイプだからなぁ、と思いながら私も苦笑いする。
「こちらでございます」
そう言って小宮山さんがホールへ繋がる扉を開ける。そこにあったのは『我が愛する娘の肖像』だ。
「こちらが先日ルノアール国際絵画展で大賞に輝いた『我が愛する娘の肖像』でございます」
なるほど、資料で見たように、大きなキャンパスに白いワンピースを着た女性が描かれている。背景は満天の星だ。右下には南十字星が見える。資料で見たときから美しい絵ではあったが、本物を近くで見るとさらに魅力的である。静かな美術館に飾られていれば、ずっと眺めることもできたかもしれない。周りから絵画の売買の話や相続の話などきな臭い話がきこえるここでは、集中などできないが。
「へえ、FサイズじゃなくてMサイズで書かれてるのか。珍しいな」
快斗君が絵画を見ながらそう告げる。私はその言葉で再度絵画を見上げる。見ただけでサイズの把握をするのはさすがというか。確かに比率的にはこの絵画はFといわれるキャンパスサイズではなく、Mと言われるキャンパスサイズで書かれている。Fは白銀比で作られるキャンパスで『Figure』すなわち肖像画など人物を描く際に多く用いられるものだ。それに比べてMといわれるサイズは黄金比で作られており、『Marine』――すなわち海の景色である海景に描かれることが多いのである。
「本当ですね」
「F? M?」
恐らくあらぬ考えに至りそうなはじめちゃんに私は補足を入れる。
「キャンパスのサイズだよ。普通肖像画はFっていうサイズを使うんだけど、この絵は多分Mっていうサイズを使ってると思う」
「あんまりないのか?」
「ううん、ないことはないよ。Mサイズの肖像画で一番有名なのはモナリザがあるし」
私の言葉に、はじめちゃんと美雪ちゃんは「へえ」とうなずいた。しかしながら、想像だけでこの姿を描くことが本当にできるのだろうか。まるで本人を目の前に描きたげたかのような精巧さがある。
――違和感がする。なんだろうか。どこが。
「いかがですかな? 我が最高傑作は」
そう杖をかつかつ鳴らしながらやってきたのは蒲生剛三本人だろう。
「本日はよくぞ我が家にいらしてくださった。しかし、今日こうして集まっていただいたのはこの絵よりもっとお見せしたいものがあったからなのです」
蒲生剛三はそう言って扉の方をみた。
「紹介しよう、この絵のモデルでもある私の『最愛の娘』だ!」
その言葉と共に現れたさくらちゃんに、はじめちゃんと快斗くんが同時に口を開く。
「すっげー、美人!」
……この二人意外と気が合うんじゃないだろうか。いまだって同時に告げたからかお互いの顔を見合わせて、無言で握手しているし。美雪ちゃんは呆れ顔だが。
蒲生剛三とともに現れた同級生は私たちを見つけて目を瞬く。金田一君、アキちゃん、といって小走りでかけてきた彼女に、はじめちゃんはデレデレとしながら首をかしげたが。
「あの、どこかで」
「久しぶり、さくらちゃん」
すっごくきれいになったね。
そう私が言えば、はじめちゃんと美雪ちゃんが固まった。え? という困惑の一言の後に、はじめちゃんが私をみた。
「アキがそう呼ぶってことは……」
「? そうだよ、転校した和泉さくらちゃん」
二人は叫ぶ。
「和泉さくら!? お前、本当に、あの和泉なのか!?」
はじめちゃんの問いかけにさくらちゃんはうなずいた。