魔女裁判殺人事件−2−




 ひとり先に聴取がすんだのではじめちゃんたちのもとに向かっていれば、ベル君がヨハンさんに叱られているのが見える。慌てて間に入れば、ベル君は私を見上げていた。

「何かありましたか?」
「この子供が非常識なことをいうから叱ったんだ!!」

 ヨハンさんの言葉に私は彼を見下ろす。とりあえず、「この子が申し訳ありません」と謝れば、ヨハンさんは余計に火が付いたらしい。余計にぎゃんぎゃんといろいろ言われる羽目になった。

「お前も、山神魔術団と同じだろう!」
「父さん、何やってるんだ!」

 そう言って割り込んだスキャットさんである。ヤマトとコナンくんも騒ぎを聞いて駆けつけてくれたらしい。それを見てヨハンさんは鼻を鳴らす。私はじっと彼を見る。

「山神魔術団、と、同じとは?」

 私の問いかけにヨハンさんは鼻で笑うとそのまま控え室に戻った。スキャットさんが私たちに謝ってそのまま同じ控え室に入る。私はしまったその扉を見た。

「アキ?」
「ああ、いえ……大丈夫でしたか?」

 私はそう言ってベル君に尋ねる。ベル君は頷いて、私と同じように控え室を見た。

「何に怒られるかわからないので一緒にいましょうか」

 彼に手を差し伸べれば、彼は「はい」と頷いて手を重ねたが。ヤマトとコナン君はベル君を見る。

「君の家族は来てないの?」
「来てないよ。僕には興味ないみたいだから……」

 コナン君の問いかけに、ベル君はそう答える。ヤマトはその言葉に口をへの字にした。

「いや、僕の稼ぐお金には興味あるけど、それ以外には興味ないというか……」
「一番タチ悪い奴じゃねえか」

 ヤマトがそう言ってため息をはいた。

「ヨハンさんになんていったの?」
「お姉さんの手帳を持ってるんじゃないかと思って聞いただけ」

 その言葉にコナン君とヤマトは顔を見合わせるし、私も彼を見下ろすのだが。



 はじめちゃんと合流して――改めてベル君の話を聞く。

「どうしてヨハンさんが私の手帳を持ってると?」
「お姉さんの控え室に入っていくのをたまたまみて、その時と上着の形がちょっと変わってたから」

 ベル君の言葉に、はじめちゃんが「上着の形?」と告げる。

「正しくはポケット」

 ベルくんの言葉に、ポケット、と繰り返す。ベル君は、物が入ったらポケットは膨らむにきまっているでしょう? とはじめちゃんを見て告げた。コナン君が口を開く。

「でも、君、よくわかったね」
「物を覚えるのは得意だから。カードの傷とか……」

 そう言ったベル君に私はなるほど、と思う。恐らくは彼は。私は彼に視線を合わせて口を開く。

「カードについた傷を覚えて、どのカードがどれか暗記してるんだね」
「うん」

 ということは彼はカードについた――恐らくは彼が判別できる程度の――傷をみてカードを覚え、3がつくカードを引かせていたのだろう。

「あ、お前まさかカメラアイか!?」

 ヤマトはそう言ってベル君を見る。カメラアイ? とはじめちゃんが繰り返す。多分はじめちゃんはよくわかっていない。それを察したコナン君がそれを説明するべく口を開いた。

「バーロー、見たものをそのまま記憶できるんだよ」
「なんだそれ、便利だな」
「便利ってあのな、逆に言うと忘れられないってことだぞ」
 死体とか間違った解答とかもな。

 ヤマトの突っ込みにはじめちゃんが顔をしかめた。あまりよろしくないことに気が付いたのだろう。

「ごめんな、便利って言って」
「? 両親も便利だっていうので謝る必要はないとおもうけど……」

 ベル君の言葉に、はじめちゃんはさらに顔をしかめた。まあ、その心中は私にもわかる。

「……さっき、ヨハンさんが山神魔術団とおなじだろうって私に言ったんだけど……多分、あの人、私のマジックが近宮先生のマジックの応用だって気づいてるんだと思う」
「わかるもんか?」
「遙一君も山神魔術団のマジックが近宮先生のものだって見抜いたでしょう?」

 私の返答に、はじめちゃんが少し考える。

「それは高遠がトリックノート持ってて、タネを知ってたからじゃないのか?」
「うーん、正しくは山神魔術団の夕海さんのマジックに似てたのかも。ほら、SNSで騒がれてる私のマジックの動画、生きたマリオネットのアレンジだから……関係者には私が真似してる、山神魔術団――ひいては近宮玲子のトリックノートを持ってる、ってわかるのかも。姫宮さんにも言われちゃったし」

 私はそう言って眉尻を下げてはじめちゃんを見上げる。はじめちゃんはその言葉に考えた。

「もしかして、姫宮さんもMr.正影のトリックだってばれてた、のか?」
「恐らくは。皆さんの話を聞くに、あとの二人もそうでしょう。姫宮さんには山神魔術団の前例があるので『使うな』と助言したのですが……私にそれが降りかかってくるとは」

 私は困った顔をする。

「そういやぁ、」

 急に聞こえてきた声に私は肩をはねさせる。そちらを見れば、快斗くんのふりをした高遠さんである。どうやら先に事情聴取を終わらせたらしい。はじめちゃんは「快斗〜」と恨めしそうに彼を見て、コナン君が少し眉間にしわを寄せた。

「一時期、ヨハン・クランケン奇術団に悪いうわさがあったらしいぜ」
「……悪いうわさ?」
「ああ、なんでも、パクリとかなんとか……」
「彼らの扱うトリックは世界的に見ても一級品なんですけど……」
「それは、俺たちの世代にとっては、な」

 高遠さんの言葉に、私は考える。私たちの世代にとっては、ということは、違う世代からしたら違う見方になるということでは。私は困った顔をする。

「まさか、彼らのマジックはそのほとんどが他人のトリックの流用だと?」
「あくまで噂だけどな」

 高遠さんはそう言って頭の後ろに手をまわした。コナン君が彼を見上げる。

「お兄さんはビッグジュエルに興味ないの?」
「……俺はないね! この番組に参加したのも、誘いがあったからだし」
「ふうん」

 コナン君はそういって高遠さんを少しにらんだ。さすがキッドキラー、それっぽい人には抜け目がない。

「そういや、ジブリッシュって人はだれか分かったのか?」
「ヨハンさんの奇術団にいたアシスタントだって。9年前くらいに事故で死んだらしい」
「なんらかの復讐なら、ヨハンさんや関連ありそうなスキャットさんに矛先が向きそうですが……まあ、ここまで事故に見せかけた故意が続くのであれば、その方も殺された可能性がありますね」

 私はそう言って考える。まあ、そのあたりはもう調査もできないだろう。日本で起こった事故とは考えにくい。

「やっぱり、トリックノートを盗むことが目的、かな……持ち主さえ死んでしまえば、持っていたかなんて定かじゃないし……」
「となると、怪しいのはあの二人のどっちか、にはなるけど、」

 はじめちゃんが頭をかく。

「証拠がない上に、前の二人のトリックもまだなんだよなぁ」

 それはそうだ。まだ決めつけるのはよくない。なにせ、二人の死亡推定時刻は――参加者の全員が集まっていてアリバイがあることになるのだ。