魔女裁判殺人事件−3−
ようやく高遠さんのふりをした快斗くんの事情聴取が終わり――明智警視に許可をもらって二組に分かれて現場に来た。私ははじめちゃんと高遠さんのふりをした快斗君と私のそばにいたいベル君と一緒にミキさんの部屋に訪れたわけである。天井にロープが固定された跡がある。マジックの練習にも使えるようになっているのだろうか。
「首吊り?」
「ああ、そうらしい。だから自殺だっていう話が出てるんだよな」
はじめちゃんはそう言った。あとは、死体の近くに短く切られたロープが落ちている。蹴り倒されたように椅子は倒されていて、それだけ見ると本当に自殺のようだった。
「ここだけフローリングの色が違いませんか」
ベル君がそう言って足元を指さした。快斗くんが手袋をはめてそこを触った。
「確かに違いますね。まるでぬれた跡みたいな……」
「結構な広範囲が濡れたようですね」
「死体から液体がでるってドラマで言ってましたけど、それですか?」
少年の問いかけに、わたしは答える。
「いえ、死亡推定時刻と発見時刻を聞くにそこまで至らないはずです。ヤマト曰く、死体から液体が出るのに6時間程度かかるとか」
「前も思ったけど、ヤマトはどこを目指してんだ」
はじめちゃんが苦い顔しながらそう告げる。
「うーん、警察官になりたいみたい。監察医でもいいとかいってたかな。まあ、もとはといえば、コナン君といると事件によく巻き込まれるので早く解決したいからだろうけど……」
ふむ、と私は考える。死体からでた液体ではないのであれば、何らかの液体の可能性が大きいだろう。
「まあ、俺もそこが気になってんだよな……」
「はじめちゃん、死体から何か検出されたか聞いた?」
「睡眠薬とはきいたけど、もとから被害者が飲んでたっぽい」
私はそれを聞きつつ、冷蔵庫にある冷凍室をあける。冷凍庫はからっぽだ。快斗くんが家の中を見渡して、部屋の隅においてある何かに気が付いた。
「おや、ドライジッパーがある」
「ドライジッパー?」
「液体窒素を保管する容器ですよ」
その言葉にはじめちゃんも私も考える。液体窒素、といえば物を瞬間凍結させられる代物だ。
「――誰か、は、氷を使った?」
私の言葉に、ベルくんが首をかしげる。
「氷?」
「足元に大きな氷を置けば、それが溶けてしまえば被害者の首がしまってしまいますね」
私は困った顔をして彼を見下ろす。
「でも、うごいたりしたら逃げてしまえるのでは……」
「動けない。足を踏み外したら、首が絞まるから」
はじめちゃんはそう解説する。まあ、眠らされていたら動いて逃げる気にもなれないだろう。
「でも、両手が動かせるなら外せるはず……」
私はそこまで言って、液体窒素が入ったドライジッパーと、落ちているロープを見た。このロープが落ちているのに、意味があるとすれば。
「液体窒素……で、手を拘束したロープを凍らせた……は、さすがに数分で溶けますかね」
「……いや、……たぶんアキが言う通りだとおもう。ロープを自然に水に浸して濡らしておいたんじゃないかな」
はじめちゃんが考えながらそう告げる。
「あらかじめ、睡眠薬を飲ませて意識朦朧にさせたか眠らせて……足元に氷の塊を置いたんだろう。設置されている場所からずれてるのは、足を滑らせたからかもな」
「そのまま殺した方が楽なのでは?」
快斗くんの言葉が最もだ。でも、恐らくはそうじゃない。
「私たちが集まっている時間に死んだとされる必要があった」
「ああ。アリバイ工作するために。これくらいの氷が溶けるには……」
「2〜3時間というところかな。明智警視に頼んで監視カメラの映像を見ましょう」
「後はヤマトくんたちのほうですが……」
快斗くんはそういってふむと考えた。まぁ、タイミングがいいことに向こうも解き終わり――明智警視に頼めば監視カメラの映像を見せてくれるということになった。それと同じくらいに、プロデューサーから出演者の推理がおわったので戻ってくるようにと電話がある。私たちにあてはめられた番号の推理が終わったのだろう。監視カメラの映像ははじめちゃんたちやコナン君たちの任せるしかないのでまかせるが。
「お姉さんはどっちが犯人だと思いますか」
ベルくんはそう言って私に尋ねた。私は少し考える。恐らくは――ヨハンさんではない。老齢である彼が意識を失った成人女性をロープに固定するのは難しい。となれば、消去法で行けば――スキャットさん、ということになる。しかしながら、彼ができるからといって彼だけが犯人とは考えづらい。組み立てた人、と、実行した人は別、という可能性もあるのだ。そして、恐らくはそうかもしれない。
私はベル君を困った顔をして見下ろす。
「私は探偵ではないのでわかりませんね」
「でも、ドラマにでてくる探偵みたいでした」
私はその言葉に首を左右に振った。
「私は奇術師をしているあたり、その逆です」
「逆?」
「犯人たちと同じく人を欺く側です。欺いた人の反応を見て、楽しんでいるあたり、ね」
そう言って微笑みを浮かべれば、では僕もそうかもしれません、と彼は告げる。
「……マジックは好きですか?」
「今までは何とも思いませんでした。でも、あなたがするみたいに、魔法のような美しいマジックは好きです」
彼はそう言って少し笑みを浮かべると、僕もあなたみたいになれるでしょうか、と尋ねた。
――私も遙一くんみたいになれるかな。
そんなことを、私は遙一君に聞いたことがある。その時、彼はどう答えただろう。確か――。
「きっとなれますよ」
私は笑みを浮かべる。彼は「そっか」といって満足したように笑うと、口を開いた。
「それで、この事件の犯人はだれですか」
「誰でしょうね」
私はヨハンさんを見る。彼は鼻を鳴らして――番組の舞台の方へ向かった。