魔女裁判殺人事件−4−



 実行犯が仮にスキャットさんだとすると、彼は私を助けたことになるわけだ。どうして、と思ってスキャットさんを見てみたが、彼はどうしたんだい? と首をかしげるだけだった。推理をする芸能人が番号を並べていく。まずは2番。それは正しくスキャットさんだ。彼はつけていた仮面を外す。まぶしい光に目を瞬いた彼は、正解! と明るく笑って見せた。赤と黒の二色のカラーテープに紙吹雪、わかりやすかった、と芸能人は告げた。3番はベル君だ。必ず3を引かせるマジック。彼は仮面をとると一礼して見せる。


 スキャットさんは何か言っていただろうか。
 たしか――天使の加護がついたコイン。


 4番目。不在であり、参加する予定だったサラ・ダンマさんが明らかにされる。用意されていた映像には彼女がロープをつかったマジックをする様子が移されている。
 5番目。会話の中で5枚のカードを使ったマジックを披露した瓦座さんが、最後に一回、とお決まりの耳が大きくなるお笑いのマジックをして会場がわらいに包まれる。


 私は目を伏せる。ほかに、彼は。

 ――天使と死神は一緒に現れる……?

 ただの、ふざけた言葉かと思った。でも、恐らく違う。Mr.正影の奥さんはこう言っていた。

 ――死神が若手をフォローするために天使を連れて来たっていっていたのよ。

 
 6番目。様々なマジックの中で3枚のコインを6枚のコインに増やした彼は仮面の中でもサングラスをつけていたらしい。それにまた観客や出演者が笑い、瓦座さんが「オチとして完璧すぎひん!?」と突っ込んだ。

 7番目。

「すっごく迷ったんですけど、ローズ・ルージュさん、あなたですね」

 その言葉に、私は少し困った顔をし――代わりに二人のマリオネットにあいさつさせた。

「正解です」

 女の子の声で女の子のマリオネットが頷いて、「わかった理由をきかせてもらえますか?」と男の子の声で出演者に声をかけた。
「すごーい!」
「薔薇の色の変化、七色だったし、水槽の中の薔薇の色もよく見たら七色だったので」

 その言葉に、私は仮面を外す。そうしてにっこりと笑う。

「正解です」
「米花公園の人、ですよね!」
「ふふ、米花公園は私だったり私じゃなかったりしますね」

 そう言っておかないと、快斗君の幼馴染みにはマリトとおもわれているし、男の声でやっていることもあるため男と思っている人も一定数いる。それに、一か八かだ。

「改めまして……私はRose・Rouge……いえ、飯塚アキと申します」

 私はそう言ってカーテンシーをする。

「飯塚……?」
「はい、皆さんご存じの飯塚龍一の娘です」

 笑顔を張り付けてそう言えば、出演者の芸能人だけではなく――他も驚いていた。ヨハンさんが苦々しい表情で口を開く。

「お前、あの時にいた死神の娘か」
「死神だなんて失礼な。父の前で下手にマジックをしたからでは……」
「死神?」

 司会者がそう尋ねる。私は困った表情を作る。

「ああ、違うんです。父は奇術が好きな割に、奇術の種を見抜くので……一時期マジシャンキラーとか死神とか言われていたみたいなんですよね」


 あの時にいた、とヨハンさんは告げた。ということは、私に記憶はないが、彼らと私は会っている。
 ――やっぱり私の装置に細工をしたのはスキャットさんだろう。恐らく彼は昔に私に会っていたのだろう。で、なにかしら私と彼の間にはあったのかもしれない。Mr.正影さんの奥さん――正影満里さんがいっていたように、父に見抜かれた彼に対し、私が何かしらフォローをして見せたのかもしれない。だから、助けてくれた。突破口になるコインを渡して。


 話の軌道が戻されて8番。馬路奇麗さんが同じく参加できなかった人だと紹介される。観客の中には残念がる人もたくさんいた。園子ちゃんもその一人だ。さすがに流行に敏感な彼女はよく知っている。
 9番。同じく不在のジブリッシュという人だ。スタッフさんが用意した映像を見るにコインマジックを得意とするストリートマジシャンだったようだ。映像に映る彼はスキャットさんによく似ている。ただ、瞳の色は緑色だ。それをみて、スキャットさんはヨハンさんを見、ヨハンさんは「そんなわけがない!」と英語で叫んだ。ありえない、と叫んだ彼は口を開く。

『――あのできそこないは死んだはずだ、そうだろう、スキャット! お前の悪ふざけならやめろ!』

 思い出さなければならい気がする。私は記憶を呼び出す。彼らとあったのはいつだったのか。
 恐らく英語で何と言ったかわからなかった司会者が気を取り直すように口を開く。

 10番目。そこで名前が挙がったのが姫宮さんだった。どうしてかといえば、十分! と芸能人が口を開く。彼女が磔が燃え始めて――こちらに現れるタイミングまで、というわけだ。そこで、不正解! と司会者が告げる。観客も芸能人たちも驚いていた。司会者はそのまま続けさせる。あとの芸能人たちが予想を並べる。Jが星河さん。Qがヨハンさん。キングが真田さん。Aが快斗君のふりをした高遠さん。JOKERが高遠さんのふりをした快斗君。そのうちの何人が外れかを言い渡し、芸能人たちはまた推理のために別室に移っていった。ヨハンさんが怒ったように準備された椅子に座る。私はスキャットさんに近づいて彼を見上げた。


『助けてくれてありがとう、魔法使いさん』

 昔の私ならそう告げたはずだ。私が小さく英語でそう告げて微笑めば、彼は目を少し見開いた。またコインをどこからともなく取り出す。……近くで見てもやっぱりよくわからないそれである。

『たまたまさ』
『本当に?』

 子供を意識してそう小首をかしげる。彼は少しだけ目を見開いて――目を伏せた。

『君はだれかと僕を勘違いしているようだ。スキャットオレは君に会ったことはないよ』
『では、ジブリッシュさんとお呼びしたほうが?』

 鎌かけだ。一種の。よく似ているということは双子か兄弟か親子である可能性が高い。あたりだったのか、彼は息を詰め――ポーカーフェイスを崩した。私は心情をかき消して彼をまっすぐに見つめる。

『魔法使いのお兄さんが、どうしてこんなことを?』

 彼は気を取り直してすぐに笑顔を浮かべて、表情を固めた。

『おっと、それはどういうことかな?』
『警察が動いています。それに……素人探偵君たちもね。彼らを甘く見ない方がいいですよ』

 私はそう言ってコナン君やはじめちゃんたちを見る。まっすぐにスキャットさんをにらんでいるのがわかる。ということは、監視カメラに写っていたのは彼だった、ということだろう。

『認めなくてもいい。私のものを返していただけませんか。大切なものなんです』
『……返してあげたいけど僕には無理かな』

 彼はそう言ってヨハンさんを見る。

『まあ、もうすぐで幕はおりる。そこからでも遅くないだろう?』

 その意味をつかみかねて私はじっと彼をみつめた。彼は笑顔を浮かべただけだった。ヨハンさんに呼ばれて彼はそちらに向かう。

『どうするのが正解だったんだろうね』

 つぶやくような声だ。

『――……本当に嫌な人生だ』

 彼と入れ替わりに高遠さんが私に近づいてくる。知り合いですか? と小声で尋ねた彼に私は小さく首を左右に振った。

「でも、たくさんの奇術師がそうであるように私が忘れてるだけな気がします」

 さて、そろそろ名探偵たちが推理を始めるころだろうか。カメラが芸能人たちの推理に切り替わり――観客たちが休憩に入るために立ち去っていくのを横目に、明智警視が口を開くのが見えた。