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彼は私でも兄でもありません



  翌日のことです。扉がノックされ、だるい体を動かして扉を開ければ、黒瓜さんがいました。なんでしょうか、と思い彼を見上げます。彼の瞳が愉快そうに愉悦しているのがわかります、が、そんな表情をされる覚えはありません。兄でもないようですし、誰なのでしょうか。黒瓜さんがこちらに手を伸ばしました。触れられたくないので私は一歩退きました。彼は足を踏み出します。それからは繰り返しです。私が下がれば、彼は一歩足を踏み出します。終わりを告げたのは、私の足がベッドに触れた時でした。さて、どうやって逃げ出しましょうか。彼は恐らく異常です。そして、どこかで見たことがある雰囲気です。身の危険に心臓がはねます。

「――近宮!」

彼が触れる瞬間でした。火祀先輩が部屋の中に入り、声をかけました。それとともに、黒瓜さんは舌打ちをしました。そして先輩を見ます。

「どうかされましたか?」
「それはこっちの台詞だ。近宮になにしてるんだ」
「いえ? 彼女に悪魔が付いているようなので、払おうとしただけですよ」
「どうだか」

 先輩はそう言って私の手を引きました。そのまま部屋の外に連れ出されます。

「あいつには近づくな」
「私は近づいてませんよ、あの人がこっちに来たんです」
「俺のそばにいろ」

 そう告げた先輩に不覚にもときめきました。しかし、それを悟られないように先輩に尋ねます。

「どうして先輩があの部屋に?」
「兄さんが一人死んで、メイドが悲鳴を上げたが、お前が来なかった。金田一が気にした」
「悲鳴、ですか?」
「聞こえなかったのか? 爆睡かよ」
「いえ、あれは――」

 目を細めます。起きがけに体がとても怠かったのを思い出します。はて、それは。

「……睡眠薬でも飲まされたか?」
「先輩って意外と察しがいいですね。恐らくは」
「そう言えば、お前のハーブティーだけ、黒瓜が渡したな」
「私、黒瓜さんに何かしましたかね?」

 肩をすくめて見ます。火祀先輩は少し顔を顰めました。

「いや、あいつは、」

 不自然にそこで止め、彼は私を見おろしました。

「……とりあえず、あいつにはついていくな」
「はぁ」

 何か不明瞭です。彼は恐らく、あの人が誰なのか知っているのでしょう。



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