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彼が操らなかった理由
目の前で何処か機嫌がよさそうにしている兄を見つめます。
兄、と言っても、犯罪者の方の兄です。捕まってそうそう脱獄したみたいですね。眼鏡をかけただけなのに気づかないのは日本が平和だからでしょうか。無能、ではないはずなんですが。
「遥、クリームついてる」
「ん?」
指でそう拭ってみせた兄、改め、一葉兄さんにありがとうございますと告げます。彼は何も言わないが本当に機嫌がよさそうです。何かいいことでもあったのでしょうか。
「そういえば、一葉さんって、どうして私を傀儡にしなかったんですか?」
私の問いにも彼は表情を崩しません。
「遥だったから」
「意味がわかりません」
「遥じゃなくて、遙一なら傀儡にしてた」
「ほう? それはそれは」
ダン! という音にそちらを見まました。怒ったような顔の遙一兄さんが一葉兄さんを睨んでいます。ちょっとした修羅場ですが、一葉兄さんは相変わらずニコニコと機嫌が良さそうです。
「遥、犯罪者となに出かけてるんです?」
「さっき偶然会って、奢ってくれるって言ったからついてきました。パフェが美味しいです」
「脱獄したようだから一葉に会ってもついて行くな、と昨日も今日もいいませんでしたか?」
「遙一、嫉妬かな?」
「はっ、誰が。私は貴方より遥と仲がいいですし」
「僕の方が付き合いは長い」
「兄妹としては私の方が長いのでは?」
「そういえば、魔術団では兄妹見たいって言われてたな」
喧嘩になっていく二人を見つめます。喧嘩するほど仲がいいというか、なんというか。はたから見れば中々似ている二人かもしれません。
そんな二人をおいて、私はパフェを食べ進めます。甘すぎないパフェは好きです。美味しい。
とりあえず、周りが何あの修羅場みたいな顔をするので遙一兄さんを隣に座らせ、一葉兄さんにパフェを食べさせます。双方きょとん、とした表情を浮かべた為、クスリと笑いました。やはり、似てる、かもしれません。
「遥?」
「なんでもないです。二人は仲がいいな、と」
「遙一と? やめてほしいな」
「一葉と? やめてください。というか、いい加減になさい。一葉。この辺りは明智警視がよく出没します。捕まりますよ」
「警視、は、やっかいかな。また来るよ」
そう伝票を持って立ち上がった一葉兄さんに、やっぱり仲がいいですね、と零せば遙一兄さんにデコピンされました。痛いです。
「ああ、遥。さっきの答えだけど」
――舞台に立つ君が好きだったから、汚したくなかった。
それだけ告げて一葉兄さんは歩き出します。私は動きを止めたまま彼を見つめます。顔が赤くなるのもわかります。
遙一兄さんは少し複雑そうにした後、私の頭を撫でました。
「と、言うことですよ。だからあいつは私を呼んだわけです。貴方の復讐を止める為に」
「そう、だったんですか、」
「ちなみに、僕も遥が成人すればあいつらを殺す気でいたけど、先に由良間が事件を起こしたからうやむやになったね」
「え、」
遙一兄さんは微笑むだけです。何それ、聞いてません。由良間が事件を起こしたことに感謝すべきですね、これは。
「犯罪者の兄は一人で充分なのでやめてください」
「大丈夫、遥が死なない限り」
ニコリと笑った遙一兄さんに、苦笑いする。私が死んだら確かに事件を起こしそうだから怖い。一葉兄さんも乗りそうだから怖い。笑顔が逆に怖い。
私はパフェを少しすくい、兄の口元へと運びます。
その後は、兄の予想通りというか明智警視が現れた雑談しました。
翌日、私がイケメンに取りあいされていたという噂が広がり、野崎くんがやってくるのも、私が「……兄です」と答えるのも別の話です。
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