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偶には恋バナでも
遥さんはそういう話、ないの?
そう首を傾げたのは千代さんでした。そのいう話、とは、色恋沙汰の話です。思い返してみても浮かびません。目をキラキラと輝かせている千代さんに、そうですね、と口を濁します。
美術室です。
なぜ美術室にいるかというと、クロッキーのモデルを頼まれたからです。風邪の時にお見舞いに来ていただいたらしいので、お礼のかわりに引き受けました。おかげさまで風邪は治りましたが、兄同士の仲は相変わらずよくなさそうです。いえ、喧嘩するほど仲がいいのかもしれません。はなしがそれました。
実は、こういうのはなかなか得意だったりします。モデルではなく、人形のように動かず止まるというそれですが。大道芸にもありますしね。海外で見かけて真似をしたのは懐かしい記憶です。
「近宮さんって、火祀くんとは何もないの?」
そう尋ねた美術部の先輩に、「何もありませんよ」と答えます。皆さんが期待するようなことはありません。
「彼はなんというか、からかう相手、でしょうか。面白いんですよね、反応がいちいち」
「遥さんのタイプじゃない?」
「はい。どちらかというと、悪友じゃないでしょうか」
そう返せば、どこか納得したような周り。千代さんは、仲良いもんね、と言葉をこぼしました。仲がいいんでしょうか。まぁ、他人からすれば仲がいいのかもしれません。
「遥さんのタイプってどんな人?」
尋ねられた言葉に少し考えます。幽月さんのような人は好きです。とても好ましい。兄たちのような人も許容範囲でしょうか。霧島は受け付けません。遊さんのような人は、友達としてはいいかもしれません。
「パッと思い浮かびませんね」
「年上? 年下? 同い年?」
「年上でしょうか。私がこんな人間なので頼れる人がいいですね」
その言葉に、千代さんがポロリと鉛筆を落とし、目を見開きました。
なんでしょうか。ちなみに、私は自分で言っときながら、明智警視が浮かびました。明智警視は無理です。あの人の天然ぶりにはついていけません。私は。
「まさか、遥さんの好みって、ほ――」
「話は聞かせてもらった!!」
ガラリと扉を開けて入ってきたのは野崎くんでした。堀先輩と御子柴君が後ろで引いてるのが見えます。ワァワァと話す野崎くんはいつものことなのでスルーし、近づいてきた堀先輩を見ます。
「どこにいるかと思えば、美術部にいたのか」
「モデルを頼まれまして。クロッキーのはずですが、これデッサンになってそうです」
「……デッサンになってんぞ」
周りの絵を見て、堀先輩がそう言いました。美術部の先輩がハッとして、休憩にしよう!といったので体を動かします。
「近宮さん全く動かないから、ごめんね!」
「いえ、これも鍛錬になりますし」
「そんなに動かなかったのか?」
「全く」
「昔、大道芸真似て小遣い稼ぎしてた名残です」
「銅像のあれか?」
「みたいなものですよ。だからと言って、人形役や銅像役はやめてくださいね」
そう言えば、ピクリと堀先輩が止まりました。彼は本当に演劇馬鹿のような気がします。そうなると私はマジック馬鹿ですが。
「と、いうか、野崎達はコソコソ何話してんだ?」
堀先輩の言葉に、野崎くん達を見ます。ヒソヒソコソコソと話してこちらを見る彼らに、あぁ、と納得しました。
「背が高い人がタイプです」
私の唐突な言葉に、堀先輩は「嫌味かテメェ」と私をどつきました。痛い。
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