63
近宮遥の拐引―1―
「もしもし?近宮?お前、いまどこにいるんだよ。」
そう電話を取った堀に周りの視線が向く。
「高遠さん達が心配して――」
途中で区切れた言葉に、どうかしたのか? と周りは堀を見るが堀は真面目な顔をして、冗談はよせよ、というだけだ。
そして、数秒たって、また誰かの携帯電話が鳴る。
「私じゃありません」
「僕でもない」
「俺じゃん」
「借りていいか?」
そう尋ねた堀に、涼は携帯をわたす。メールを開いた堀は固まり、そして素早く何かを打ち込むとそれを高遠に投げた。
俺の携帯!と騒いだ涼をおいて、高遠は投げられた携帯の画面を見て、ばっと堀に視線をむけた。その携帯を高宮に渡し、高宮がまたハッとしたように堀を見、金田一兄弟に渡す。それに目を落とせば、二人は固まる。
「近宮さんが、」
「誘拐?」
携帯画面――メールの返信画面には近宮が誘拐された、と入力されており、その下にはその返信前のものだと思われるメールが続いている。
『これで信じていただけるかな?』
そう書かれた下には画像がついたままになっていた。その画像には拘束されてぐったりとしている遥と男性が写っていた。堀はオープンボイスにすると耳から放して口を開く。高遠が顔をしかめたまま、携帯電話を堀に渡し、堀はそれを見てコクンと頷いた。
「……何が要求だ?」
「それに関してはまた明日の朝。そうだなぁ、今度はあの魔術団が属する芸能会社にかけようかな」
聞こえてきたのは変な声である。テレビのモザイクが入った声だ。
「警察に言ったら、取引は辞めだよ。警察を呼んだ時点で、二人は……フフフフ。さぁ、どうやって殺そうかな。君がその会社を特定できなくても、アウトだから……フフフフ」
じゃーねー。
そう一方的に着られた携帯電話に、堀は何かを言いかけたが、そのまま四人を見る。
顔が青くなり始めた堀に、高遠は頭を撫で、よくやりました、と告げる。
「近宮は、」
「大丈夫ですよ、遥はこんなことで死にません」
「高宮、おまえ、まさか!」
「僕が遥を巻き込む、しかも、遥を被害者にするって?」
「涼くん、その点は安心してください。コレはシスコンなんでね、もし関わっていても遥には手を挙げません。まぁ鬼籍にいれさせる云々は言えませんが。しかし、遥を本気で探していたので否でしょうが」
「あの声」
「ボイスチェンジャーだよな。今はアプリでもあるし」
「魔術団が属する芸能事務所って、高遠は何か知ってるか?」
「そんなもの、日本だけでも結構ありますよ。高宮、何か知ってますか」
「いいや、その世界からは手を引いたからね」
「……そういや、」
堀が口を開く。
「近宮がぼやいてたな。最近、スカウトがうざいって。あの写真に写ってたのはそいつだと……」
「どこの会社かわかります?」
「名刺もらいました、ちょっと待ってください」
堀はそう言って鞄を漁る。
こういうものですが、近宮さんを呼んでいただけないかな?と渡されたそれ。何かに使えるか、と取っていたのが良かったらしい。あった、と財布から名刺を取り出し高遠に渡す。
「――鏑木芸能事務所?」
「何かで聞いたことがあるな」
「ああ、そこは知ってるよ。昔から遥をスカウトしようとしてたから、近宮先生も僕もよく追い払っていたよ」
「何故、遥を?」
「金の匂いがするから、だろう。そこの事務所はあまりいい話を聞かない、本社は東京都内だ」
「堀くん、申し訳ありませんが付き合ってもらいますよ。犯人は貴方を指定していることを見ると、貴方を知っている可能性は十分にある」
「はぁ……」
「それに、金田一くんも。いいですね?」
高遠の問いに二人が頷く。時計は夜の七時をさしていた。
PREV BACK NEXT