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近宮遥の拐引―2―



 翌日のことだ。
 芸能事務所にも話は通っていたらしくすんなりと中に通された。そこにいたのは数人の人である。この事務所の社長、その秘書、マネージャーの妻、そしてスタッフ。
 ピリピリとした空気である。オロオロとしているのは、マネージャーの妻だけではあるが。

あの夜、わかったことは――。

 そう電話を待つ間、高遠はおもいうかべる。あの写真に写ったピエロは恐らく犯人なのだろう。あんなマスクをして、ピエロの服を着てしまえば女か男か、なんてわからない。ただ、どこか既視感があるそれである。犯人を演じる役者の問題ではない。今回、誘拐事件という舞台に立たされた役者の問題である。
 頭の中に似たような誘拐事件を思い浮かべるがイマイチパッとしない。こういう現象には何度か付き合わされている。
 ――魔術列車、露西亜館、深く関わってはいないが、薔薇十字館。昔、自分が関わってきた事件である。
 堀が眉間に皺を寄せたまま、ポスターを見ているのを見る。その隣に涼が並び、高宮が逆方向にならんだ。

「お! 速水玲香ちゃんじゃん! ここの事務所だったんだ」
「……なんで近宮なんだろうな」
「確かに妙だな。誘拐するなら、遥じゃなくて、速水さんの方がしっくりくる」
「何言って……」

 そう口を開いた女性に、高宮は肩をすくめた。

「だって、遥は貴方たちにスカウトされていたが、関わりはない。貴方たちは遥が死のうが関係ない。身代金を提示されたとして、貴方たちは払わないで済む、というわけだ。それに――」
「それに?」
「いや、これは些か不謹慎だ。やめておこう」

肩をすくめた高宮は窓際に移動し、眉間に皺を寄せ、そのまま社長を見た。

「警察を呼んだのか」
「何を言って、」

  高遠と一が窓際によるが、そこに警察はいない。帽子を深くかぶった運送会社が来ているだけだ。

「警察、んなもん、どこに……」
「まぎれもなくあれは警察ですね」

  高遠の言葉に、高遠は高宮にまた伊達眼鏡を投げる。

「気休めでしかありませんが」
「あるだけマシだ」

 それをつけた高宮は髪をクシャリと後ろへ撫でつけた。しばらくすればノックされ、入ってきたのは運送会社だ。

「おや、奇遇ですね。高遠も金田一くんもそろうとは」
「カーッ……その喋り方は!」

  金田一の言葉に帽子を脱いだそこにいたのは明智警視である。その後ろには剣持警部だ。

「明智警視、今日だけは色々と見逃して欲しいですね」
「色々と?」
「……明智警視、事件の詳細を聞いてないのか?」
「こちらからすれば、何故君達がここにいるか、という話なのですが。私達が聞いていない何かがありそうですね」
「……誘拐されたのは二人という話は?」

  高宮の言葉に明智はそちらを見て些か目を見開いたが、目を鋭く細める。

「いえ、誘拐されたのはこの事務所のマネージャーだと」
「なるほど、やはり遥は貴方達にとってどうでもいいようだ」
「遥……?」
「遥っちゃあ、近宮か。近宮がなにか――」
「まさか」
「ええ、そのまさかです。だからこそ、色々と見逃していただきたいんですよ。この事件の間は、ね。それ以降はどうでもいいです」

 高遠の言葉に高宮は肩をすくめる。明智は目頭を指で解し、いいでしょう、と告げる。

「それで、何か犯人からの連絡は?」
「今日はまだです。この会社には脅迫状が届いています。私達には、遥の携帯からの着信で、堀くん宛に電話、涼君宛にメールが」
「堀くん……君はこの前の、近宮さんの先輩ですね」
「はい、お久しぶりです」
「と、なると、犯人は堀くんを取引役に指名した、ということですか」
「そこは脅迫状を見ていただければ」
「『地獄の傀儡師』の関与は?」
「ないと思う、シスコンが発覚したから」
「どこかの兄弟は……まったく……」

 涼の言葉にそう呟いた明智警視はそのまま、視線を高宮に移す。

「で、彼は?」
「彼は、遠山一葉。彼の親戚にあたる。貴方は話の理解が早くて助かる」

 ニコリと笑った高宮に明智警視は口を開いた。

「さぁ、なんのことでしょうか。ただ、地獄の傀儡師は捕まえますよ」



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