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近宮遥の拐引―4―



 山道に入ったバスに、右側を見ていると「今すぐ降りろ」というそれを見つける。
 涼が運転手に抗議をしたが、受け入れられないらしい。高遠が堀の手を引き、バスの非常口をあけた。それを見て旧ブレーキを踏んだ運転手に、堀とその後ろにいた高宮が飛ばされかけるがなんとか踏ん張ったらしい。
 止まったところを降りて、先程のガードレールに向かう。
 運転手の怒鳴り声が聞こえたが、高遠と金田一が何か言ったらしい。怒鳴り声は尻すぼみになっていった。

 ガードレールに着くと、何か紙が貼ってあるのが目に入った。九時に吊橋でと書かれたそれに、登山ルートを地図で確認すれば、3キロほどの道のりが書かれている。 指定された時間は一時間後である。

「僕はここで遙一達を待ってからいくよ」
「……わかりました、ありがとうございます」
「気をつけてね」

 ヒラヒラと手を振った高宮にもう一度礼をして堀は山道に入った。
 一応は登山口であるため、足元は整備されているが先日の雨でぬかるんでいる。事件が解決したら近宮になんかおごってもらうか、と心に決め山道を登った。


 ついた吊橋はがらんとしたばしょであった。吊橋は古いもののようだ。腕時計はまだ指定された時間になっていない。が、自分の他に人がいる気配もない。また何かメッセージが書いてあるのか、と堀は吊橋に足を踏み出した。
 吊橋を進み始めてわかったことだが、この吊橋はかなり古いものであるらしい。綱も、板もあまり整備されているようなそれではない。ぎしり、と一歩踏み出すたびになる足元に、何か書かれてはいないかと目をこらす。が、見当たらないそれ。
 犯人が来るのか、と、引き返そうとしたその時、強い風が吹いた。ギシリギシリと軋んだそれに、堀はやばい、と綱を握る。ピシピシなる綱に、顔を顰めたまま吊橋を走り出す。丁度やってきた涼が堀を見て顔を顰め、こちらにやってくるのがわかる。

「堀先輩!」

 プチン、だか、ブチン、だか、ロープが千切れる音がなる。
 先程感じたものとは違う浮遊感、全てがスローモーションのように感じる感覚。やばい、と頭が認識したころ、誰かに手を掴まれた。

「高宮さん!」
「嫌な予感がしてたんだ……間に合ってよかったよ」
「ありがとうございます、」
「堀くん、アタッシュケースはこの際捨ててしまおう」
「でも、これがないと、近宮は!」
「遥を助ける為に、君が死んだり怪我をしたら遥に会わせる顔がない。それに、その中はどうせ、偽札だ」
「は、」
「ちょっと気になってね、あの警視がつつけば社長がそうだと吐いたらしい。だから、失敗したとしても君のせいじゃない」
「……それでも、これを使うことで、取引が行われるなら、」
「高宮!堀先輩!!」
「手伝いましょう!」

 やってきた涼が腕を伸ばしてアタッシュケースを取る。そして、堀を高宮と高遠が引き上げた。

「大丈夫ですか?」
「高宮さんのおかげで、なんとか」
「なんで吊橋が」
「風で綱が切れた。ったく、整備ぐらいちゃんとしてほしいもんだ」

  溜息をついた堀はアタッシュケースを見、そして開けた。高宮、高遠もそれを確認する。

「やはり、支払う気は無かったようで」
「どういう――」
「上の一枚は、本物。ただ、下のは新聞紙をきったものだ」
「それじゃ、取引は」
「失敗だろう。でも、このことは黙っておこう。このアタッシュケースは、君が川に転落しかけた時に落としたとしておいた方が何かと使えそうだ」

「は? 何言ってんだよ」
「どうも、身代金目当てじゃないような気がしてね」
「貴方もそう思いますか」

 高遠がそう言って息を吐く。堀と涼は眉間にしわを寄せたまま首を傾げた。



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