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近宮遥の推測
どうやら私は誘拐されたらしいです。
となりにいるのは私をしつこくスカウトしていた安岡さんで、お互い縄で縛られています。一度、窓から脱出を図りましたが犯人に見つかり、またスタンガンで攻撃され、意識を失ってしまいました。で、目を覚ましたら振り出しに戻ったわけです。
ここ数日、と、いうより、誘拐されたころからの時間感覚がわかりません。一日だけ寝ていたのか、数日寝ていたのか。基準であるはずの安岡さんの髭も潔癖症であるらしい犯人により剃られています。おそらく、時間感覚を狂わせることが目的なんでしょう。
そこで、はた、と違和感を覚えます。何か、知っているような感覚に眉間にしわを寄せれば安岡さんが口を開きました。
「近宮さん、大丈夫かい?」
「はい、今のところは。安岡さんは、何回髭を剃ったか、などは覚えていますか?」
そう尋ねれば彼は目を見開いて、少し目を逸らして答えます。
「ごめん、覚えてない、かな」
―― 嘘でしょう。
おそらく、彼も私の時間感覚を狂わそうとしている。私は別として、彼がかなり落ち着いているのはおかしい。思えば、最初に目を覚ました時から落ち着いていました。いえ、焦ってはいましたが、演技じみたそれです。
「近宮さん?」
そう首を傾げた彼に、いえ、と答え、頭を回転させます。私は午後12時のチャイムが鳴る、少し前に目覚めましたが、彼はおそらくそうではない。犯人と争った形式もない。
もう一度、整理整頓を。
まず、私が誘拐された時、彼を振り切るために路地に入りました。そこで正面からピエロが現れ、私は安岡さんに逃げろと告げてスタンガンにより気絶しました。
あの路地は、安岡さんを振り切るためによく使うものでした。後ろに安岡さんがいれば、私は逃げ道がありません。
犯人の声はボイスチェンジャーを通した声。時間感覚を狂わせるとしたら、犯人が二人いてもおかしくはありません。おそらく彼はグルなんでしょう。
ではこの狂言じみた犯人の目的は。
これが、私ではなく何処ぞの芸能人ならばわかります。例えば、速水玲香とか――……。
そこで、はた、と考えが止まります。
思い出しました。これは、速水玲香が巻き込まれる事件だったはずです。おそらく、私や兄が指図しなかったことを考えると、何かが変わったんでしょう。念のため、彼から情報を得るために演技をします。
「やす、おか、さん」
「ん?」
「殺されたらどうしましょう、」
できるだけ怯えた子羊を演じてみます。彼はパチリと目を瞬いて、「大丈夫」と言いました。
「どこが、大丈夫なんですか? しぬかも、しれなくて、」
「そんなに怯えなくても大丈夫だ、助かるさ。」
「余裕、なんですね」
「……――」
クスリ、と笑います。固まった安岡さんに、私は口を開きます。
「さて、これは本当に貴方が脳内に思い浮かべるシナリオ通りなんでしょうか?」
「な、なにいってるんだい?」
「そうですね、貴方の目的は貴方の事務所にいる誰かの社長への信頼を失墜させること、では?」
「近宮さん、?よく、わからないな」
「貴方と誰かはこの狂言じみた誘拐を企てた。でも、犯人の目的は貴方とは違うでしょうね」
「……っ、」
「おそらく、犯人の目的は、貴方を殺すことだ」
そう告げれば顔を真っ青にした彼に、図星のようだ、と息を吐きます。
ガチャリ、とはいってきたピエロは私達を見ました。安岡さんは相変わらず青い顔です。
「今日の取引は失敗だよ。ザンネンだなぁ」
そう言った犯人に目を細めます。縄抜けをし、立ち上がれば犯人は銃口をこちらに向けました。どこかホッとしたような安岡さんにそうだった、と息を吐きます。
「私は速水玲香ではないので、死んでも別に害はありませんね。貴方の罪は増えますが」
「……」
「私は貴方の手を汚してまで殺すべき人間でしょうか」
「君は随分流暢だ」
「褒め言葉として受け取りましょう。ピエロさん。さて、貴方の目的と安岡さんの目的は違うでしょう。貴方達はグルだ」
私の言葉に、犯人は安岡さんを見ました。しかし、バチリ、という音に舌打ちをします。 立ち上がった安岡さんがスタンガンを持って背私の後に立っていました。後ろから抱きつかれる形になります。気持ち悪い。
「――ザンネンだなぁ、近宮さん。君は知りすぎた。何も知らない女子高生なら、生きて帰れたのに」
耳元で安岡さんは囁くと、首にスタンガンを当てられます。強い衝撃と共に、体の力が抜けていきます。
地面に倒れれば、頭上の会話が微かに聞こえました。
「ほら、さっさと始末――って、おい、なんで、おれに――ひぃ――おまえ、まさか――」
――ああ、ザンネンです。彼は自ら自分の生の道を潰してしまいました。
数発の銃声を聞きながら、私の意識は沈みます。最後に一発、銃声が聞こえ、足に熱を感じました。極め付けに殴られ、今度こそ意識は消えます。
助けは来るのでしょうか。
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